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短答式試験
平成29年 短答式試験【分析】 公開 6/9 18:30
①論文式試験【公法系】 ・第1問 公開 5/19 18:38
  ・第2問 公開 5/20 17:40
②論文式試験【民事系】 ・第1問 公開 6/01 16:00
  ・第2問 公開 5/22 18:15
  ・第3問 公開 5/23 18:00
③論文式試験【刑事系】 ・第1問 公開 5/27 16:21
  ・第2問 公開 5/27 16:21
④論文式試験【選択科目】 ・倒産法 公開 5/25 19:00
  ・租税法 公開 5/25 19:00
  ・経済法 公開 5/24 16:30
  ・知的財産法 公開 5/26 18:00
  ・労働法 公開 5/24 16:30
  ・環境法 公開 5/24 16:30
  ・国際関係法(公法系) 公開 5/24 16:30
  ・国際関係法(私法系) 公開 5/25 19:00
 
 ●平成29年 司法試験 短答式試験【分析】
■公開:2017年06月09日/18:30
平成29年5月21日に司法試験の短答式試験が行われました。
司法試験の短答式試験の概要をまとめましたので,ご参考ください。
 
☆ 試験日程(平成29年短答式試験)
平成29年5月21日(日)
10:00~11:15(1時間15分)短答式試験(民法)
12:00~12:50(50分)   短答式試験(憲法)
14:15~15:05(50分)  短答式試験(刑法)
☆ 問題数の比較〔注:民法が1問増えました。〕
憲法  20問〔昨年:20問〕
民法  37問〔昨年:36問〕
刑法  20問〔昨年:20問〕
合計  77問
☆ 配点の比較〔注:昨年と同じです。〕
憲法  50点満点〔昨年:50点満点〕
民法  75点満点〔昨年:75点満点〕
刑法  50点満点〔昨年:50点満点〕
合計  175点満点
☆ 解答欄番号の比較〔注:昨年と比較してほとんど変化はないといえます〕
憲法  №41まで〔昨年:№40まで〕
民法  №37まで〔昨年:№36まで〕
刑法  №36まで〔昨年:№36まで〕
☆ ページ数の比較〔注:昨年と比較してほとんど変化はないといえます〕
憲法〔1頁目除く〕 10ページ〔昨年:10ページ〕
民法〔1頁目除く〕 18ページ〔昨年:17ページ〕
刑法〔1頁目除く〕 12ページ〔昨年:12ページ〕
☆ 全体の傾向について
   全体的な出題傾向は例年通りといえますが,全体的に昨年より難化しています。
   科目別にみてみると,憲法の人権分野は,全問が判例の知識を問う問題となっております。第2問における夫婦同氏制の合憲性(最大判平27.12.16)や,第3問における国籍法違憲判決(最大判平20.6.4)など,判例の結論だけではなく,理由や論理も含めてきちんと理解していたかが問われている点が特徴的だったといえます。また,上記第2問,第3問,及び第6問,第9問のように,特定の最高裁判所の判決について問う問題(判例1個型問題)が4問出題された点も特徴的だったといえます。人権以外の分野においては,単純に憲法の条文の知識を問うものはなく,制度の理解を前提とした思考力を問う問題が多かったといえます。
   民法は,例年通り条文知識を中心とする知識を問う問題が出題され,特に物権と債権各論の分野で条文知識が要求されました。物権の分野は問題数は少なくなりましたが,細かい知識が必要な問題(13問),具体的な事案で考えさせる問題(15問)等,穴のない学習が求められているといえます。
   刑法は,概ね例年通りの出題でした。見解問題(第1問,第16問)や穴埋め問題(第7問,第19問)が出題されておりますが,複雑な事務処理が要求されるものはありませんでした。また,総論10問,各論10問という出題構成も例年通りでした。判例の正確な理解を問う完全正誤問題も昨年同様3問(第8問,第12問,第17問)出題されています。
☆ 法務省発表による司法試験受験状況
1 出願者数   6,716人〔昨年:7,730人〕
2 受験予定者  6,624人〔昨年:7,644人〕
(1) 受験資格
ア 法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者
  6,214人(93.81%)〔昨年:7,249人(94.83%)〕
イ 司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者
  410人( 6.19%)〔昨年: 395人( 5.17%)〕
(2) 受験回数
1回目  2,269人(34.25%)〔昨年:2,669人(34.91%)〕
2回目  1,611人(24.32%)〔昨年:1,914人(25.04%)〕
3回目  1,280人(19.32%)〔昨年:1,716人(22.45%)〕
4回目  1,035人(15.63%)〔昨年:1,031人(13.49%)〕
5回目   429人( 6.48%)〔昨年: 314人( 4.11%)〕
☆ 平成29年司法試験(短答式試験)の結果(平成29年6月8日法務省発表)
1 受験者  5,967人〔昨年:6,899人〕
 受験率  90.1%〔昨年:90.3%〕
(注)ここでいう受験率とは,受験予定者に占める受験者の割合です。
2 短答式試験の合格に必要な成績〔昨年:114点〕
    短答式試験の各科目において,満点の40%点(憲法20点,民法30点,刑法20点)以上の成績を得た者のうち,各科目の合計得点が108点以上の成績を得たものは,短答式試験の合格に必要な成績を得た者とする(平成29年6月8日司法試験委員会決定)。

3 短答合格者数 3,937人〔昨年:4,621人〕
4 短答合格率   66.0%〔昨年:67.0%〕
5 受験者全体平均点 113.8点〔昨年:120.0点〕
 科目別平均点
憲法:32.0〔昨年:34.3〕,民法:48.0〔昨年:49.5〕,刑法:33.8〔昨年:36.2〕
6 短答合格者平均点 125.4点〔昨年:133.2点〕
7 科目別最低ライン(40%)未満
憲法 222人〔昨年:162人〕
民法 303人〔昨年:423人〕
刑法 193人〔昨年:324人〕
8 短答式試験の得点
得点 最高点 最低点 平均点 最低ライン
(40%)未満
合計得点
(175点満点)
163 36 113.8 ———
科目別得点 憲法
(50点満点)
48 7 32.0 222人
民法
(75点満点)
75 8 48.0 303人
刑法
(50点満点)
50 5 33.8 193人
☆ 短答合格率等の推移
  受験者数 合格点 短答合格者 合格率
(対受験者)
平成29年度
5967人 108点 3937人 66.0%
6899人 114点 4621人 67.0%
8016人 114点 5308人 66.2%
8015人 210点 5080人 63.4%
7653人 220点 5259点 68.7%
8387人 215点 5339人 63.7%
8765人 210点 5654人 64.5%
8163人 215点 5773人 70.7%
7392人 215点 5055人 68.4%
6261人 230点 4654人 74.3%
4607人 210点 3479人 75.5%
2091人 210点 1684人 80.5%
平成28年度
平成27年度
平成26年度
平成25年度
平成24年度
平成23年度
平成22年度
平成21年度
平成20年度
平成19年度
平成18年度
 
 
 
 ●第1問 憲法
■公開:2017年05月19日/18:38
1 はじめに
      今年の公法系科目第1問(憲法)は,政府が,「農業及び製造業に従事する特定労務外国人の受入れに関する法律」(特労法)を制定して外国人非熟練労働者のみに適用される本邦滞在制度(新制度)を創設したという状況のもとで,新制度に基づいて来日した外国人労働者である女性Bが,妊娠したことを理由として強制出国させられたため,特労法の規定が憲法違反であるとして,国家賠償請求訴訟を提起しようと考えたという事例です。
   そして,〔設問1〕で,原告の弁護士甲の憲法上の主張(ただし,憲法14条を除く。)を,〔設問2〕で,甲の主張に対する国の反論と私見を検討させております。また,問題文中に「女性の自己決定権」「手続的保障の観点」などと記載されており,検討する事項は誘導されておりますが,昨年と異なり,事例に初見性が強いため,若干難易度は高いものと思われます。
   なお,女性の外国人単純労働者が妊娠した場合に強制送還させる制度は,シンガポールで実施されている模様です(竹内ひとみ「連載フィールド・アイ シンガポールから―①」日本労働研究雑誌564号(2007)P.99,(財)自治体国際化協会シンガポール事務所「シンガポールにおける外国人受入施策」CLAIR REPORT392号P.14参照)。
 
2 問題文
<<<  問題文
      本問題文は,辰已法律研究所が受験生の協力を得て試験終了後に入手したものを入力したものです。問題文につきましては,本試験日程終了後に法務省HPにて速やかに公表されるかと思いますので,そちらで再度ご確認願います。
 
3 本問の分析
一 設問1について
1 弁護士甲としては,特労法の規定が憲法違反であるから,違憲な法律に基づき拘束・収容させられ,また,強制出国させられたことによって,B及びBのお腹の子が経済的及び精神的損害を被ったものとして,国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を提起することが考えられる。以下,詳述する。
2 公務員の職務行為と損害について
Bを拘束して収容した警備官及び,審査を行い強制出国命令書を発付した審査官の行為は,3で述べるように,Bの自己決定権及び婚姻の自由,ならびに,Bの子の個人としての尊厳及び教育を受ける権利等を侵害する,違憲無効な法律に基づいた職務行為である。また,特労法がBやBの子の憲法上の権利を侵害していることは明白である以上,特労法を制定した国会の立法行為は,3で述べるように,最高裁判例の基準によっても違法と認められる行為である。そして,これらの行為により,Bは経済的損害及び精神的損害を被った。また,Bの子は,Bの強制出国により父親と強制的に引き離され,両親に養育される環境を失うと同時に成長に必要な経済的基盤も失い,経済的損害及び精神的損害を被った。
3 特労法が違憲無効であること,そして国会議員の立法行為の国賠法上の違法性について
(1) 特労法制定にかかる国会議員の行為に違法性が認められるかについては,在宅投票制度廃止に関する昭和60年最判及び在外邦人選挙権に関する平成17年最判によれば,議会制民主主義の元では,国会議員の立法行為は本質的に政治的なものであるから,立法内容が違憲であることが直ちに立法行為の国賠法上の違法性を導くわけではないものの,立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合等には,例外的に,国会議員の立法行為は国賠法上の違法性が認められるとされる。そして,本件においてもこの枠組みが妥当すると考えるべきである。
(2) 本件において,Bは外国人であるが,判例によれば,憲法第3章の諸規定による基本的人権保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ(マクリーン事件最判)。なお,このことはBの子についても基本的に当てはまるものと考えられる。そこで,本件においても,特労法の内容がB及びBの子に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合には,国会議員の特労法制定行為につき国賠法上の違法性が認められると解すべきである。以下,これを本件について検討する。
(3) 特労法15条8号は滞在中に妊娠・出産することを禁止行為として定めており,7号は,子を扶養することを禁止行為として定めているところ,Bはこれに違反したことを理由として,拘束・収容され(同法18条),強制出国させられた(同法19条3項,23条)ものと認められる。
   この点,子をもうけ,産み育てるか否かに関わる決定は,個人のライフスタイルに関わる決定の中でも,特に人格形成の中核に関わる決定である。したがって,かかる極めて重要な人格的決定を自分の意思でなすことは,自己決定権として憲法13条で保障されていると解される。なお,妊娠・出産に関わる決定は,不可逆的であり,一生ついて回る決定であることから,髪型や服装に関する決定と同列に扱うことはできないと考えられる。そして,このような自己決定権は,人間である以上誰に対しても認められるべきであるから,その性質上外国人にも憲法13条によって保障されていると解される。したがって,政府が,外国人管理において,妊娠及び出産に関わる自己決定権を侵害することは,憲法によって禁じられている。
   また,憲法24条は婚姻の自由を保障しているが,現代では結婚生活のあり方が多様化しているところ,実質的に夫婦としての生活を送っているものであっても,法律上の婚姻はしていないものが少なくない。さらに子がある場合,子が経済的・精神的に依存するのがその夫婦関係であることは,法律婚の場合と変わらない。そこで,事実婚の場合であっても,実質的に夫婦としての実態があるものに関しては憲法24条の趣旨が推し及ぼされるべきであると考えられ,特に子があるそのような夫婦に関しては,可能な限り憲法24条の趣旨を考慮することが要求されると考えられる。そして,憲法24条の性質上,このことは外国人にも同様に当てはまる。さらに,未成年の子はその両親に扶養してもらう必要があるところ,それが可能な環境に子が置かれるべきことは,個人の尊厳を定めた憲法13条及び憲法26条1項等の要求することと解される。そして,このような権利も,人間である以上当然に認められる種類の人権であるから,性質上,外国人にも適用されると解すべきである。以上によれば,政府には,外国人管理において,未成年である子の扶養状況及び子を含めた家族生活の一体性を考慮すべき義務があるというべきである。
   さらに,憲法は人身の自由(31条,33条?35条等)を保障しているが,これは人身の自由が人間の基本的かつ最も重要な権利であり,歴史的に権力の濫用によって最も侵害されることが多かったという理由による。そのため,33条及び35条は,裁判所の司法的コントロールによって,かかる権力の濫用を未然に防ぐべく,逮捕や強制捜索・押収について令状主義を採っている。このような権利の性質及び趣旨に鑑みれば,これらの規定の趣旨は外国人にも及ぼされるべきであると解される。したがって,政府は,外国人管理においても,身体の強制的な拘束等に関しては司法的コントロールを関与させるよう制度を設計することが義務付けられていると解される。
(4) 以上によれば,本件特労法の制定は,以上の憲法上の権利を侵害していることが明白であるから,国賠法上の違法性が認められ,このような明白性が認められる場合には,同時に過失も認められると解される。
4 以上により,本件国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は認容されるべきである。

二 設問2について
1 これに対して,国は,次のような反論を展開することが予想される。
   第一に,公務員は法律を誠実に執行する義務を負っているから(憲法73条1号参照),本件警備官や審査官の行為について国賠法上の違法性は認められない。
第二に,外国人管理に関して立法府に広範な裁量が認められているから,このような裁量権行使は司法審査になじまない。すなわち,自国内に外国人を受け入れるか否かは主権国としての我が国の自由に委ねられているため,どのような条件で外国人の滞在を認めるかは,立法府の広汎な自由裁量に委ねられていると解される。そのため,立法府が,特労法に基づく新制度によって滞在する外国人の妊娠・出産を禁じることや,令状主義によらない身柄拘束を認めることも,立法府の自由な裁量に基づく判断に委ねられた事項であり,国賠法上の違法性が認められる余地はない。
2 そこで,以下,憲法上の問題点について自分の見解を述べる。
(1) 国の第一の反論に関連して,国賠法1条1項の請求には,「公務員が」「職務を行うについて」加えた損害であることが必要であるところ,どの公務員のそれを問題とすべきかについて述べる。
   原告は,Bを拘束して収容した警備官や,審査を行い強制出国命令書を発付した審査官の行為を問題としている。しかし,特労法18条1項や19条3項の規定は,警備官や審査官にそれほど大きな裁量を与えていないように見えるだけでなく,後者は「速やかに強制出国命令書を発付しなければならない」とあり,覊束行為であるように見える。また,両者は法律を執行する義務を一般的に負っていると解され,故意・過失は認められない。
   それゆえ上記の行為を問題にするのは妥当ではなく,先の昭和60年最判及び平成17年最判によって,国会議員の立法行為も国家賠償の対象となることが認められている以上,本件では,国会議員の特労法を制定した立法行為を問題とすべきである。
(2) 国の第二の反論に関連して,以下,立法行為と国賠法上の違法性に関して述べる。
(a) 憲法22条1項は居住移転の自由を保障しているところ,この保障に外国人の入国の自由が含まれるかが問題となるが,国際慣習上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,受け入れる際にどのような条件を付するかは当該国家が決定できるものとされていることから,同条項は外国人の入国の自由を保障していると解すことはできない。この点は,マクリーン事件昭和53年最判によって確認されているとおりである。
(b) したがって,本件においても,外国人を受け入れるか否か,そしてその際にどのような条件を付するかについての決定は,立法府に裁量権が認められると解される。しかし,その立法府の裁量権行使がその裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合にはその裁量権行使は違法となる。具体的には,立法府の裁量判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合だけでなく,当然尽くすべき考慮を尽くさず,また本来考慮すべきでない事項を考慮に容れ,もしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価したときは,その裁量判断に誤りがあるものとして違法となると解する。そして,原告の憲法上の権利に関する3?の主張は妥当であると考えられるところ,裁量判断において,外国人の憲法上の権利は,慎重に考慮を尽くすべき重要な考慮要素に含まれると解される。
   したがって,立法行為における国賠法上の違法性についても,立法府が上記のようにその裁量権を逸脱又は濫用し,憲法上の権利を侵害することが明白である場合には,国賠法上の違法性が認められると解する。
(c) 以上を前提に,特労法制定の立法行為に国賠法上の違法性が認められるかについて検討する。
   本件立法過程では,滞在中の妊娠・出産を認めないのは女性の自己決定権に対する制約として厳しすぎるのではないかという疑問や,裁判官の令状等を得ることなく直ちに身柄拘束を認めるのは手続的保障の観点から問題であるとの疑問が呈されていることが認められるから,特労法が妊娠出産に関わる自己決定権を侵害することによって憲法に違反する可能性は国会議員にとって明らかになっていたといえる。しかし,それにもかかわらず,日本への定住を認めないという我が国の外国人管理における政策を貫徹するという必要や,外国人被扶養者の増加が我が国の社会サービスに及ぼす影響への懸念によって,この程度の制約はやむを得ないと結論づけられたことが認められるが,妊娠出産にかかる自己決定は憲法上保障されているから,かかる事項を禁止事項とする規定を定めることは,外国人管理の領域であっても許されない。また,身柄拘束は,それ自体が重大な自由の侵害であるから,司法的コントロールを介さずに警備官限りの判断で外国人の身柄を拘束できるとすることは,収容後に一定の手続保障が与えられているとしても許されない。この点で,国民の安心を得る必要等によって,司法的コントロールを事前に設定せずに立法した本件立法過程には,過大に考慮すべきでない事項を過大に考慮し,考慮すべき憲法上の権利保障について考慮しなかった違法がある。
   さらに,特労法が妊娠出産及び子の扶養を禁止事項とする以上,このような禁止事項に基づき親が強制出国させられる場合には,胎児ないし未成年の子の福祉に重大な影響が及ぶことは明白である。なお,妊娠中に強制出国させられる場合,母親と子は共に自国に帰ることになるが,本件制度を用いて我が国に来る外国人は,本件Bのように,出稼ぎのために我が国に滞在していることからすれば,そのような者が自国に戻った場合には,経済的基盤が存在しないことが多いため,強制出国により子の福祉が危機にさらされる可能性が極めて高いことは,出産後に強制出国させられる場合と変わらない。さらに,妊娠の事実がある以上,夫婦関係が存在していることは経験的に当然予想されるところであるにもかかわらず,国会で,強制出国が夫婦関係に及ぼす影響について審議された形跡は認められない。そして,これを考慮することは先述のように憲法上の義務である以上,国会としては,強制出国に当たって子の福祉を考慮に入れた制度設計を行うべきであったのに,国会でこのような事項が議論に上った事実は全く認められない。そのため,国会の立法過程は当然尽くすべき考慮を尽くしていないという,裁量判断の過程に著しい誤りがあることが認められる。
   このように,一度入国した外国人の滞在継続の可否を決するにあたっては,当該外国人の家族や扶養関係,及び子が存在する場合にはその子の福祉等を個別具体的に考慮して決する必要があるところ,このような判断は,立法によって抽象的に定めることは事柄の性質上不可能である。それにもかかわらず,特労法19条3項が,審査官に対して15条各号に該当する事実が存在すると認定したときは強制出国命令書を「発付しなければならない」として,発付するか否かの判断にかかる行為裁量を与えていない点は,少なくとも上記の事実を考慮した結果「発付しない」行為裁量を認めていない点において,憲法13条,24条に違反すると解される。そして,既存の制度における出入国管理令は,この理由に基づき,法務大臣に対して更新自由の判断にかかる広汎な裁量を与えていることからすれば,特労法においても同様の裁量を審査官に与える制度設計をすべき義務が存在したことは,国会にとって明白であったと認められる。
   本件立法は,著しい裁量権の逸脱が憲法上の権利を違法に侵害することが明白であるのにあえて立法したといえるから,国賠法上の違法性が認められる。そして,立法判断過程におけるこのような著しい義務違反が認められる場合には,過失も否定できないと解される。
(3) 以上によれば,特労法を制定する立法行為について,国家賠償請求が認められると解される。
 
4 的中情報★★★
・2017直前早まくり講座公法系(柏谷周希先生ご担当)憲法Theme1「新しい人権」★★
・2016スタンダード論文答練(第1クール)公法系2第1問(金沢幸彦先生ご担当)「自己決定権の保障」★★
 
 
 ●第2問 行政法
■公開:2017年05月20日/17:40
1 はじめに
      今年の公法系科目第2問(行政法)は,道路法10条1項,43条2号等に関する事例のもと,設問1(1)として抗告訴訟の訴訟選択,設問1?として本案における主張,設問2(1)として処分性,設問2?として本案上の違法事由を検討させています。
   まず,設問1(1),設問1(2),設問2(1),設問2(2)の配点の割合は,35:20:20:25と問題文冒頭に記載されております。また,問題文の頁数は8頁(実質7頁)で,頁数自体は昨年より減少しています。
   また,出題内容としては,訴訟要件と本案での主張の構成というオーソドックスなものであり,難易度も概ね例年並みであったといえます。但しそれだけに丁寧な論証が求められ,漏れのない答案作成が求められます。もっとも,受講生からは,解答する量が多く時間的に厳しかったとの声も聞いております。
   なお,本問に関連する裁判例として,下記のものがあります。

■福岡高裁宮崎支判平18.1.27(下記裁判所HP裁判例情報参照)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=33368

■鹿児島地判平21.9.15(下記裁判所HP裁判例情報参照)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=80075
 
2 問題文
<<<  問題文
      本問題文は,辰已法律研究所が受験生の協力を得て試験終了後に入手したものを入力したものです。問題文につきましては,本試験日程終了後に法務省HPにて速やかに公表されるかと思いますので,そちらで再度ご確認願います。
 
3 本問の分析
設問1(1)
       設問1(1)では,本件フェンスの設置が道路法43条2号に違反した行為であって,その撤去を求める監督処分の措置を採るよう求めることが可能であるかどうかを検討することになります。また,そのための手段として抗告訴訟を利用すること,そして監督処分は,当該処分の第三者であるXらが求めるものであって,道路法上Xらにこれに関する申請権等が規定されていないことから,いわゆる非申請型・規制権限発動型の義務付け訴訟(行訴法3条第6項第1号)を選択することになります。
   この非申請型義務付け訴訟の訴訟要件として,義務付けが求められるのが「一定の処分」であること,それがなされない場合には「重大な損害が生じるおそれ」があること,その損害を回避する「他に適当な方法がないこと」(補充性)(37条の2第1項),そして原告に処分の義務付けを求めることについて「法律上の利益」があること,が規定されております(同条3項)。そこで,本件の事実に即してそれぞれの要件の該当性について論じていくことになります。義務付けが求められているのは,フェンスの撤去を命じる道路法上の監督処分であり,十分に明確なものといえるでしょう。「重大な損害」については,資料2の参考判例を参照し,その利益の内容や性質を検討した上で,さらに損害の回復の困難の程度,損害の性質や程度をも丁寧に検討する必要があります(同条第2項)。また,補充性の要件については,民事訴訟の利用可能性が義務付け訴訟の利用を排除するものではないことを明確にしておきましょう。最後に,Xらの原告適格については,行訴法9条2項に規定される考慮要素に従って(同条第4項),道路法の趣旨・目的およびXらの道路通行上の利益を検討し,監督処分を求めることにつき法律上の利益があることを論証していくことになります。問題文中の会議録でも示唆されたように,以上については条文の規定に即して,全般的に検討していくことが非常に大切となります。
設問1(2)
       設問1(2)では,設問1で検討した抗告訴訟の本案での主張を述べていくことになります。道路法は,監督処分の発動要件の一つとして,この法律に違反していることを規定しております(71条1号)。そしてこの場合に,「道路…に存する工作物その他の物件の…除却」を命ずることができます(71条本文)。そこで本件においては,本件フェンスが道路法43条2号に規定する「道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為」であることを指摘することになります。Y市長は,利用者が少ないこと,園児と原動機付自転車との事故が発生し,今後も発生するおそれがあること,そしてAが路線の廃止を希望していること等から本件フェンスがこれに該当するものではないと判断しておりますが,Xの通行上の利益が害されていること等,本問における事実を丁寧に拾い上げ,上記各主張に反論することによって43条2号に該当するものであることを論証することになります。さらに,道路法71条の規定上,監督処分を行うかどうかは,Y市長の裁量に委ねられておりますが,同様に本問における事実から道路法の規定に違反する本件フェンスの撤去を命じないことが,裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となることを論証していくことになります。
設問2(1)
       設問2では,実際に本件市道の路線廃止がなされた場合への対応が求められます。
(1)では路線の廃止行為の処分性が問われております。一般的に公用廃止行為について,道路法18条2項のように,その形式が法定されているときは,処分性が容易に認められるものとされております(塩野宏『行政法Ⅲ』(有斐閣,第4版,2012)P.371)。しかし,当然のように処分性を肯定するのではなく,判例が示す判断基準に即して,「処分その他公権力の行使」に該当することを示すことが求められます。具体的には,道路の区域が決定された後道路の供用が開始されるまでの間であっても,当該区域における土地の利用が制限されること(91条1項),供用が開始されれば,道路を構成する敷地等について私権が行使できなくなること(4条),そして参考判例が示すように通行者にその利用上の自由を生じさせること等から「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」であることを導くことになるでしょう。
設問2(2)
       (2)では路線廃止行為の取消訴訟におけるXの本案の主張を論述することになります。道路法は「一般交通の用に供する必要がなくなったと認める場合」に路線の廃止ができることを規定しております(10条1項)。この判断については,Y市長の側に一定の裁量があることが認められます。そして,職員による調査の結果を踏まえてその必要性がなくなったものと判断しておりますが,本問で指摘された事実からそれが誤りであることを指摘することになります。また,Y市側は,本件フェンスが設置されている状態において廃止を求めるAのみから聞き取り調査を行ったにすぎません。不十分な調査に基づく廃止の判断は考慮すべきことを考慮しなかった違法があるものともいえます。さらに,Y市は市道の廃止に際して当該市道に隣接するすべての土地所有者の同意を要するとの内部基準を設けてこれをHP上で公表しておりました。これはいわゆる裁量基準に該当し,一般交通の用に供する必要がなくなったかどうかを判断するためのものということができます。本問においては,X1が廃止に反対していたこともあり,Y市は本件においてはこの基準を満たさなくとも廃止が可能であるとの態度をとっております。しかし,本件においてのみ公表された基準に反した対応をとることは合理的理由がない限りは平等原則に反するものであり,また考慮すべきことを考慮していないものということもできます。以上のようなことから路線廃止行為が裁量権の逸脱・濫用となることを論証していくことになるでしょう。
 
4 的中情報★★★
・2017司法試験全国公開模試公法系第2問「処分性」★★
・2017スタンダード論文答練(第1クール)公法系1第2問(柏谷周希先生ご担当)「裁量論」★★
・2017スタンダード論文答練(第1クール)公法系2第2問(原孝至先生ご担当)「第三者の原告適格」★★
・2017スタンダード論文答練(第2クール)公法系1第2問(福田俊彦先生ご担当)「処分性」★★
・2017スタンダード論文答練(第2クール)公法系3第2問(金沢幸彦先生ご担当)「第三者の原告適格」「裁量論」★★
・2017直前フォロー答練公法系第2問「処分性」★★
 
 
 ●第1問 民法
■公開:2017年06月01日/16:00
1 はじめに
    今年の民事系科目第1問(民法)も,不動産賃借権の時効取得(短期時効取得)(設問1),借地上の建物の賃貸と民法612条等(設問2),借地権の時効取得後の第三者に対する対抗力(設問3)など,民法の財産法全体について,比較的著名な論点が問われました。全体の難易度としては例年並みかと思われます。
  そして,問題文は5頁(実質4頁)で,【別紙 図面】が掲載されております。また,設問数は3つで,設問1から3の配点の割合は,30:40:30と問題文冒頭に記載されております。
 
2 問題文
   平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
  1 設問1について
  〔借地権の時効取得〕  BのCに対する所有権に基づく「甲1」部分の明渡請求に対し,Cは,Bが甲1部分を所有することを認めた上で,自己が甲1部分の正当な占有権原を有することを主張して,Bの請求の棄却を求める場合の反論が問われています。
  根拠となる占有権原は「甲1」部分の賃借権ですが,Cの「甲1」部分賃借権は,B所有を前提とする以上,「甲1」部分の賃借権の時効取得以外には考えられませんから,Cは反論としてこれを主張することになりますが,その取得時効期間は短期10年(C無過失 民法163条)に限られます(時効期間20年ならB明渡請求 平成27.4.20が再抗弁となる。事実11)※1
  なお,厳密にいえば,時効取得の対象となる権利は※2「借地権」であり(借地借家法2条1号),「甲1」部分はその目的物の一部であって,「甲1」部分のみについて借地権設定契約が本件土地賃貸借契約と別個に締結された事実はありません。
     
 
※1  時効取得の対象となる権利:不動産賃借権が時効取得の対象となること自体についてはほぼ異論がなく,判例は時効取得の要件として,「他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときには,民法163条により,土地の賃借権を時効取得するものと解すべき」としています(最判昭43.10.8民集22-10-2145,最判昭44.7.8民集23-8-1374,最判昭62.6.5判時1260-7(百選Ⅰ〔第7版〕46事件),農地につき平成16.7.13判時1871-76など)。いずれも,「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」(外形上賃料の支払がされている事案)では,土地賃借権の時効取得を可能としている(賃料の支払がない事例では,土地の継続的な用益という外形的事実が存在しても,取得時効を否定したものに最判昭53.12.14民集32-9-1658)。
   
※2  本件で時効取得の対象となる権利は「借地権」:本件土地賃貸借契約の締結は平成16.9.15であり(なお,診療所用の建物建築請負契約も同月25締結),賃料月額20万円,期間30年,本件土地の使用目的は「診療所用の建物の所有」であり,「本件土地」には「甲1部分」が含まれている(事実2,事実3,事実4)。
      
 
〔短期時効取得要件としてのC無過失・占有〕  本問でCの反論となるのは,「甲1」部分についての「借地権」の短期時効取得ですから,これに必要な要件を検討することになります。
  Cは,本件土地に診療所用の建物を建築することを計画し,まず,乙土地の登記簿を閲覧して,その所有がAと登記されている事実を確認しました。その上で,Aと共に本件土地を実地に調査し,本件土地の東側・北側・西側の外周に柵が設置されていることを確認し,本件土地の実測も行って,その面積が乙土地の登記簿上の記載とほぼ合致することを確めていることから(事実3),Cは本件土地に甲1部分が含まれていると信じたし,そう信じたことに過失はなかったと評価できます(民法163条の取得時効「10年」)。
  そして,Cは,平成16年9月15日,Aとの間で本件土地賃貸借契約(期間30年,賃料月額20万円,使用目的「診療所用建物の所有」。事実4)を締結し,同年10月1日,同契約に基づき,Aから「甲1」部分を含む本件土地全部の引渡しを受け,かつ約定どおり,Aが指定する銀行口座に同月分以降の賃料を継続して振り込んでいます(事実6)。
  以上の認定事実に基づけば,本件土地賃貸借契約は甲1部分についても借地権設定契約としての成立要件を満たしていると判断できます。
  上記の「C無過失・占有」肯定の結論に対しては,平成17年6月1日に診療所用建物の建築工事が開始されるまでは,「本件土地は全く利用されておらず,更地のままであった」という点(事実7)にこだわって,「他人の土地の継続的な用益という外形的事実」はまだ成立していない(不存在である)とみる消極的認定論を採る立場も考えられなくはないかもしれません。しかし,私は,消極的認定論を採ることには疑問あります(消極的認定論では,Cの反論は認められないとの結論になりますが※3,これは「時効取得における占有」の一般的理解とは相容れません。)。
     
 
※3  消極的認定論に対する疑問:脚注1に挙げた各最高裁判例を集約すると,「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」(外形上賃料の支払がされている事案)は,土地賃借権の時効取得認められ,賃料の支払がない事例では,土地の継続的な用益という外形的事実が存在しても,取得時効は否定されている(最判昭53.12.14民集32-9-1658参照)。ここにいう「土地の継続的な用益という外形的事実が存在」とは,Cが平成16年9月15日Aとの間で事実4の本件土地賃貸借契約を結び,同年10月1日これに基づきAから「甲1」部分を含む本件土地全部の引渡しを受けた事実で足りるとする一般的な貸賃借における引渡しの解釈と均衡が採れない。現に,Cは9月25日診療所用建物建築請負契約を締結しており,着工が遅れたのは請負業者側の事情のみによっている。こう解しないと,AからCへの10月1日の「引渡し」及び「賃料支払」の事実も説明できないことになるでしょう。
     
  〔不動産賃借権の短期時効取得のその他の要件〕  借地権時効取得のその他の実体法上の要件としては,「自己のためにする意思をもって」,「平穏に,かつ,公然と行使する者であること」も必要です(民法163条)。
  まず,「自己のためにする意思」とは,取得時効の対象となる権利について,権利者として当該権利を行使する意思のことです。本件で問題となる借地権でいえば,「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」ということになります(脚注1に挙げた各最高裁判例参照)。
  「平穏に,かつ,公然と行使する者であること」の実体法的要件は,民法162条の場合と同様に,法律上推定されるから,その反対事実が取得時効の成立を争う側で主張・立証すべき要件となります。
     
  〔結び―Cの反論が認められるために必要な要件〕  以上を要約して,Cの反論が認められるために必要な要件をブロック・ダイアグラムによりまとめると,次のとおりとなると考えます。
〔Cの反論が認められるために必要な要件〕
   
   
  2 設問2について
    AはBから甲1部分及び甲2部分を買い受け,それぞれ所有権移転登記を経由したが,Cに対する本件土地賃貸借契約は「従来と何も変わらない」と述べています。ところがCがDに丙診療所建物を賃貸したことを知るや,本件土地の無断転貸であるとの理由で,本件土地賃貸借契約を解除しようとAは図っています(民法612条関連)。
  なお,丙診療所建物の建物所在地番は,「乙土地の地番」から「乙土地の地番及び甲1土地の地番」に更正する旨の登記がされていますが※4(事実12),民法612条により本件借地権の無断譲渡又は転貸を理由とする解除が認められるためには,まずもって本件借地権の譲渡・転貸がCD間に行われたことが必要です。ところが,CD間で締結された丙賃貸借契約は,文字どおり「丙診療所」つまり丙建物の賃貸借契約であって,丙診療所建物の所有権の譲渡ではありません。したがって,丙賃貸借契約によっては,その敷地である本件借地権の譲渡・転貸が起こることはあり得ないものです。
  判例も,土地を賃借して建物を建てた賃借人が,その建物を第三者に賃貸し,建物の敷地である土地を当該第三者に使用させても,それは敷地の譲渡・転貸ではないとします(大判昭8.12.11裁判例7-民277)。したがって,事実16の下線①の「抗議」は法律上なんの意義も有していません。
     
 
※4  丙診療所建物の所在地の登記簿上の記載の変動:本件土地賃貸借契約におけるACの賃貸人・賃借人の関係は,丙建物所在地の登記簿の更生登記によっても変動を来たしていない。ただし,借地権の対抗力についての借地借家法10条1項は,甲1土地の明示が加わっているが,同条項は第三者対抗要件の定めであるから,CのAに対する第三者対抗力の関係に変動を及ぼすものではない。
     
    次に,事実16の下線②のCが甲2土地を診療所の患者用駐車場としてDに使用させているとの「抗議」ですが,甲2土地は本件土地の1区画として本件土地借地権が及んでいる土地ですから,丙診療所建物の賃貸借に伴い,Cが借家人Dに使用させること自体は,CのAに対する本件借地権の権能の範囲内に属し,敷地の転貸や使用貸借には当たりません。したがって,賃貸土地の一部の無断譲渡・転貸が賃貸土地全部につき解除権を発生させるか否かを論じるまでもなく(最判昭34.7.17民集13-8-1077),本件土地借地権の解除権発生事由とはなりえません。
  以上より,Aの上記解除は認められず,上記➀②は法律上意義を持ちません。
     
  3 設問3について
    AのCに対する丙診療所建物収去本件土地明渡請求(裁判外請求)につき,AC間で平成28年9月20日に裁判外で次のような和解契約を締結しました。すなわち,「Aは丙診療所建物の収去・本件土地明渡の裁判外請求を放棄すること,その代償としてCは和解金50万円を支払うことを合意した。」。そしてAC間では,同月25日,和解金の授受を終えました(事実17)。
     
    同年12月10日,AはEに対し,甲1土地,甲2土地及び乙土地の3筆を一括して代金6000万円で売りました。この代金額を定めるに当たって,AはEに対し,「Cの契約違反を理由に本件土地賃貸借契約は解除されており,Cは速やかに丙診療所建物を収去して,本件土地を明け渡すことを承諾している。」旨の虚偽の説明をし,上記3筆の更地価格合計額より1000万円だけ値引きした代金額(6000万円)でEに買い取らせることに成功しました。AはEから平成28年12月16日に上記代金を受け取り,同日,Eへの上記3筆の所有権移転登記をしました(事実18,事実19)。
     
    平成29年2月20日,Eは,Cに対し,本件土地の所有権に基づき,丙建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める訴えを提起しました(事実20)。
  以上の事実経過を踏まえて,本設問3では,「Cの反論及びその当否」が問われています。したがって設問3では,Cが時効取得した本件借地権のEに対する対抗力が問題となります。そしてEが提起した請求の訴訟物は「本件土地の所有権に基づく」ものであり,EはCに対し,「丙診療所建物を収去して『本件土地』を明け渡すことを執行法として求めています。
     
  〔「本件土地の所有権に基づく」土地明渡請求に対する「Cの反論」〕
  そこで,「本件土地の所有権に基づく」土地明渡請求に対して,「Cの反論」の内容が先ず問題※5となります。
   
  次に,丙診療所建物の登記簿によれば,丙建物の所在地は,「乙土地の地番及び甲1土地の地番」と更正登記され,Cは丙建物の所有権保存登記を経由しています(事実12)。
  そうすると,Cは甲1土地について本件借地権を10年の短期時効により取得し,これを第三者Eに対抗できると解してよいことになります※6(借地借家法10条1項。ブロック・ダイアグラムの概要は,1 設問1について ⑷〔結び〕参照)。
  なお,乙土地については,Cは所有者Aから借地権の適式な設定を受け,を建築し,登記簿にこれが表示されていますから,借地借家法10条1項によって第三者対抗要件を備えていることになります(3 設問3について ⑸〔結び〕―Cの反論が認められるために必要な要件)参照※7
   
 
※5  「本件土地所有権に基づく土地明渡請求と同地上の「丙建物収去請求」との関係:類型別P.58「第3」は旧1個説,2個説,新1個説の3説を挙げる。
   
※6  時効取得した借地権の第三者対抗要件:この時効取得の第三者対抗要件は原始取得であるけれども,借地借家法10条1項の適用はあると解してよいであろう。
   
※7  時効取得した借地権の第三者対抗要件:この時効取得の第三者対抗要件は原始取得であるけれども,借地借家法10条1項の適用はあると解してよいであろう。
     
   
  問題は,甲2土地の借地権時効取得の第三者対抗要件にあります(Eが第三者であることにつき,事実18,事実19参照)。
  甲2土地借地権については,丙建物の所在地であるとの表示が丙登記簿にありません(甲2土地は,丙診療所建物建築期間中は建築関係業者の駐車場として使用・占有させ,丙診療所開設後はCが使用・占有し,Dに「丙賃貸借契約」を締結してからは,Dの丙建物使用を患者用駐車場として直接の使用・占有を許諾しているから,Cは間接占有者となって,甲2土地を占有してきたものである。)。
  そうであるなら,Cには借地借家法10条1項に基づく甲2土地借地権の時効取得は成立しておらず,甲2土地の一般の不動産賃借権としての時効取得が成立すると解すべきでしょう。
      
  〔結び―Cの反論が認められるために必要な要件〕
以上を要約して,Cの反論が認められるために必要な要件をブロック・ダイアグラムの形式でまとめると,次のとおりになると考えます。
〔Cの反論が認められるために必要なブロック・ダイアグラム〕
   
  
4 的中情報★★★
 
2017司法試験全国公開模試民事系第1問「無断賃借権譲渡ないし転貸を理由とする解除の場合の要件事実と信頼関係破壊の法理」★★
 
 ●第2問 商法
■公開:2017年05月22日/18:15
1 はじめに
 
  今年の民事系科目第2問(商法)は,設立費用の帰属(設問1(1)),定款に記載のない財産引受け(設問1(2)),株主総会決議の瑕疵(設問2),株式併合における株主の保護(設問3)などを検討させております。問われている論点には,株式会社の設立等,若干マイナーな分野も含まれております。
  まず,問題文は5頁(実質4頁)で,別紙として「1 乙株式会社定款(抜粋)」と「2 乙株式会社従業員持株会規約(抜粋)」が5頁目に付されております。また,設問は1から3で構成され,配点の割合は,35:40:25と問題文冒頭に記載されております。
さらに,本問設問1の株式会社の設立に関しては,2017スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第2問がズバリ的中致しました。若干マイナーな分野なので,受講生の皆様には,極めて有利であったと思われます。
 
2 問題文
   平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
  〔設問1〕(1)
  1   まず,賃貸期間を1か月に限ってDから賃借した事務所用建物の賃料60万円と,期間を1か月に限って雇用した事務員Eの報酬40万円は,設立のために必要な行為として,設立費用に含まれます。そして,本問では,甲社が,その成立後,直ちに,D及びEから,これらの支払を求められています。本問では,甲社がこれらの支払を拒否することができるかどうかについて,判例の立場及びその当否を検討することが求められています。設立費用の帰属に関し,本問で指摘すべき判例としては,大判昭和2.7.4民集6-428(会社法百選7事件)が挙げられます。かかる判例によると,設立費用は,定款に記載された額の限度内において,発起人のした取引の効果は成立後の会社に帰属し,相手方は会社に対してのみ支払を請求できることになります。本問では,公証人の認証を受けた甲社の定款において,設立費用については,「設立費用を80万円以内とする。」との記載のみがあるにすぎず,当該賃料及び当該報酬の合計額100万円はこれを超過しています。かかる場合,判例によれば成立時の会社にどの債権者がいくら請求できるかが明らかではなく,その処理に困るため問題となります。
    上記判例の見解を踏まえたうえで,①「取引の順序を重視し,甲社は,平成23年5月9日の取引により生じた当該賃料60万円を甲社が負担し,後になされた雇用の取引に関しては,甲社は20万円分を負担し,残りの20万円は発起人Aが負担する」という見解があります。他には,②あくまで発起人のみが支払責任を負い,発起人は定款記載の額を限度として成立後の会社に対して求償することができるとする説,③設立費用はすべて甲社に帰属し,定款記載の設立費用を超える部分のみ,発起人に求償できるとする説,④発起人,甲社のいずれも支払責任を負うとする説に分かれます。それぞれの学説に基づき結論を導き出して,判例を批判することは可能でしょう。いずれにせよ,本問では,発起人と会社のいずれが取引相手に対して,第一次的な責任を負うのか,つまり,取引安全の保護と成立時の会社の財産の確保のいずれを重視するかを示したうえで,その結論は妥当であることを論理的に述べる必要があるでしょう。
      
    〔設問1〕(2)
  1   本問では,まず本件購入契約に関する会社法上の問題点を述べる必要があります。本件購入契約は,発起人Aがその名義で,成立後の甲社の事業に用いる目的で,甲社の成立を条件として本件機械を譲り受けることを約する契約を締結しており,いわゆる開業準備行為であり財産引受けに該当します。
    そして,判例の立場によると,発起人は設立に必要な行為までしか行えず,財産引受けは特に必要性が大きいので厳格な要件のもとで法は認めたと解され(最判昭和38.12.24民集17-12-1744),甲社の定款に甲社の成立を条件として特定の財産を譲り受けることを約する契約について記載がなかった本件では,発起人Aは本件購入契約をなし得ず,本件購入契約の法的効果は,成立後の甲社には帰属しません。このような行為は会社が実在して無権代理行為が行われたという民法117条が想定する場面ではないものの,それに準じるものとして,同条が類推適用され,甲社の代表者として契約したAが責任を負うことになります(最判昭和33.10.24民集12-14-3228(会社法百選5事件))。そのうえで,甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこれに必要となる会社法上の手続について検討する必要があります。具体的には定款に記載のない財産引受けの追認の可否及び追認できるとした場合の手続を検討することになるでしょう。
  また,その際には,甲社がFから本件機械について追加するように要求されている50万円を支払わないための理由づけをする必要があります。
  問題文によると,本件機械は甲社の事業活動にとって必要不可欠であるので,追認を認めない判例(最判昭和28.12.3民集7-12-1299,最判昭和42.9.26民集21-7-1870)の立場を採った場合は,新たにFと本件購入契約を再度締結するか(その場合は事後設立に当たるので,会社法467条1項5号の手続が必要),発起人AがFと締結した本件購入契約上の地位を成立後の甲社が譲り受けたとする構成があると考えられます(東京地判平成7.11.17判タ926-244)。甲社としては,購入代金50万円の増額を避けたいということなので,後者を採ることが適切であると考えられます。
  これに対して,会社に有利な取引であれば会社成立後の追認を認めることの方が会社の利益になり,会社の財産的基礎が害されないことを理由に追認を認める立場もあります。この場合の追認の手続は事後設立(会社法467条1項5号)あるいは会社の重要な財産の譲受け(会社法362条4項)によることになるでしょう。
      
  〔設問2〕
  1   本件では,株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項)により,株主Gが主張し得る本件決議の瑕疵としては,①本件持株会の会員であるKが本件持株会理事長Hの代理人として出席し,議決権を行使した行為が適法かどうか,②株主総会当時株主であったLの入場を認めなかった行為が適法かどうか,③本件株主総会において,乙社の代表取締役Jが本来の目的について説明しなかった行為が適法かどうか,④甲社の代表取締役Cに乙社を完全子会社にするために,少数株主を締め出すことを目的とする株式併合の議題につき議決権を行使させたことが適法かが,問題となります。以下,①から④について検討します。
    ①本件持株会の会員であるKが本件持株会理事長Hの代理人として出席し,議決権を行使した行為が適法かどうかに関しては,まず,代理人を乙社の株主に限定する定款規定(乙社定款16条)の効力と株主名簿上は従業員持株会の保有する株式につき株主として記載してあるのはHであり,Kの記載はないにもかかわらず,Kが代理人として議決権を行使した行為の適法性が問題となります。判例によれば,代理人の資格を株主に限る定款規定は,「株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し,会社の利益を保護する趣旨に出たものであると認められ,合理的な理由に基づく相当程度の制限」であれば有効と解されますが(最判昭和43.11.1民集22-12-2402(会社法百選32事件)),従業員持株会の会員であるKに議決権の代理行使をさせることが株主総会をかく乱する危険の有無,及び欠席株主に書面又は電磁的方法による議決権の行使を全く認めていない乙社において,この定款規定は相当程度の制限と言えるか否かを検討する必要があるでしょう。 
    ②株主総会当時株主であったLの入場を認めなかった行為が適法かどうかに関しては,本件における事情を詳細に検討する必要があります。Iは平成27年10月1日に死亡しており,定時株主総会の招集通知を発した平成28年6月1日よりも半年以上前から名義書換は可能であったといえます。Lが,Iの生前から,Iが本件株式を保有していたことを知っていたこと,LがI宛ての本件株主総会の招集通知を受け取った日の翌日である平成28年6月3日には株主名簿の名義換えを請求していることなど具体的事実を挙げて評価するべきでしょう。
    ③本件株主総会において,乙社の代表取締役Jが株式併合の本来の目的について説明しなかった行為が適法かどうかに関しては,取締役の説明義務(会社法180条4項,314条)との関係が問題となります。本件では,株式併合を行う本来の目的が説明されていないことから,会社法180条4項に違反し,これが株主総会の決議方法の法令違反(会社法831条1項1号)に当たります。あるいは会社法314条の取締役等の説明義務は,株主総会の場において株主から説明を求められて初めて発生するものですが,本件では,質問自体もされていないので,会社法314条違反の問題は生じないことになるとしたうえで,かかる議事運営が妥当であったかどうかを検討することになります。
    ④甲社の代表取締役Cに乙社を完全子会社にするために,少数株主を締め出すことを目的とする株式併合の議題につき議決権を行使させたことが適法かに関しては,特別の利害関係(会社法831条1項3号)との関係が問題となります。特別の利害関係を有する者を広く解し,少数株主を追い出すために著しく不当な比率の株式併合が行われたような場合もその大株主は特別の利害関係を有する者に含まれるとする見解があり,この見解によると,その決議は会社法831条1項3号により取り消すことができることになります(龍田節「会社法大要」(有斐閣,2007)P.190)。
    以上①から④が本件決議の瑕疵に当たるとした場合でも,②の瑕疵はGとは直接には関係しません。その場合でも,Gが他の株主に生じた瑕疵を主張することができるかどうかが問題となります。最判昭和42.9.28民集21-7-1970(会社法百選36事件)を参考に検討することになるでしょう。
      
  〔設問3〕
    本件では,3000株を1株に併合することが議案の内容となっています。Lは乙社株式を800株有しているところ,1株未満となってしまいます。このような株式の併合による少数派株主の締め出しに関して,Lは事前に乙社に反対の通知をしていますが,株主総会での議決権行使が認められなかったため,株式買取請求権の行使要件を満たしているかどうかについて検討することを要すると考えられます(会社法182条の4第1項,2項1号)。
    そのうえで,本件ではLの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて検討する必要があります。かかる問題点は受験生の多くが考えたこともなく,現場思考が求められています。
  解答の方向性は2つ考えられ,①基準日制度は,あくまで会社の事務処理の便宜のための制度であるから,Iの相続人であるLに議決権行使を認めたとしても,相続人はL1人なので,相続株式につき,他の基準日株主の権利を害することはないので,会社法124条4項を類推適用して,Lは議決権を行使でき,また,実際に株主総会に入場できたら反対の議決権行使をしたであろうから,乙社はこれを妨害しておきながらLが議決権を行使していないことを理由に株式買取請求権の行使を認めないことは信義則に反するとして,Lを乙社との関係では会社法上の「反対株主」として扱うことを認める,あるいは,②会社法182条の4第2項2号の「議決権を行使することができない株主」とは,基準日後に株式を取得した株主も含まれる(東京地決平成25.9.17金判1427-54)とする下級審裁判例があり,これに基づいて買取請求権の行使を認める,このいずれかの解釈を示すことが求められていると考えられます。
  
4 的中情報★★★
 
2017スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第2問(宍戸博幸先生ご担当)「株式会社の設立全般」★★★
 
2017直前フォロー答練民事系第2問「議決権の代理行使」★★
  
 ●第3問 民事訴訟法
■公開:2017年05月23日/18:00
1 はじめに
      今年の民事系科目第3問(民事訴訟法)は,代理人による契約締結と弁論主義第1テーゼ(設問1),訴訟物・引換給付判決の許容性(設問2(1)),引換給付判決と処分権主義(設問2(2)),引換給付判決と既判力の範囲(設問3)など,民事訴訟法の著名な論点を問うております。全体の難易度は例年並みかと思われます。
   まず,問題文は4頁(実質2頁と2分の1)で,昨年より頁数は少なくなっております。また,設問は1から3で構成され,配点の割合は,15:55:30と問題文冒頭に記載されております。
   また,昨年までは,判例百選に掲載されている判例が問題文上に紹介されていましたが,今年は判例の紹介はありませんでした。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
第1 設問1について
      代理人による契約締結の事実について当事者の主張がなくとも判決の基礎とすることができるかという点が,「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,判決の基礎にしてはならない」という弁論主義第1テーゼとの関係で問題となっています。
   契約に基づく債務履行請求の訴訟における代理人による契約締結の事実については,債権債務の発生に直接必要な事実ですから,主要事実となります。より具体的には,民法99条の①代理人の意思表示②顕名③先立つ授権が主要事実となります。
   そうすると,本問ではXY双方がこれら主要事実を主張していないため,弁論主義の適用範囲につきいかなる立場に立とうとも,第1テーゼに反するという結論になるでしょう。なお,Aの証人尋問においてAがなした証言は証拠資料にすぎませんので,これをもって当事者の主張があったとして第1テーゼに反しないと考えることはできません。したがって,Yの代理人AとXとの間で契約が締結された事実を判決の基礎とすることはできません。
   もっとも,最判昭和33.7.8民集12-11-1740(百選47事件)は類似の事案について「法律効果に変りはない」として弁論主義に反しないとしており,また,本問では実質的な不利益は生じないことから,第1テーゼに反しないとの結論を採ることも否定されないでしょう。

第2 設問2について
1 小問(1)について
(1)まず,訴訟物のとらえ方については新訴訟物理論・旧訴訟物理論の争いがありますが,実務で採られている旧訴訟物理論を前提にしてよいでしょう。 そうすると,Xは「贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求める」と訴状に記載しており,訴訟物は贈与契約に基づく目的物引渡請求権1個と考えるのが素直でしょう。
   この点,Xの「仮にこの取引が売買であり,本件絵画の時価相当額が代金額であるとしても,その額は200万円にすぎない」との主張から実質的に解釈して,そもそも売買契約に基づく目的物引渡請求権も予備的請求として訴訟物となっていたとする構成も考えられるところですが,訴状では贈与契約にしか触れられていない以上,そう考えるのは難しいと思われます。
(2)そして,売買契約に基づき目的物の引渡しを請求する場合,代金額について,①目的物の引渡しを請求する原告に証明責任があるとする考え方と,②同時履行の抗弁を主張する被告に証明責任があるとする考え方などがありうるとされています。
   そうすると,①の立場からは,Xが売買契約の内容として代金額が200万円であったことも主張しなければならず,②の立場からは,Yが同時履行の抗弁の一環として,代金額が300万円であったことも主張しなければならないことになるでしょう。
   本問でYが300万円と主張していることは,①の立場に立てば,請求原因の理由付き否認となりますし,②の立場に立てば,抗弁ではあるが,証拠から200万円と認められる以上,一部認められない抗弁(200万円の限度で認められる抗弁)を主張していたことになるでしょう。
(3)そして,「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決は,訴訟物として売買契約に基づく目的物引渡請求権を前提としています。この判決をするためには,売買契約に基づく目的物引渡請求権を訴訟物とする必要があることになります。したがって,上記判決をするためには,Xの訴えの追加的変更(民訴法143条)の申立ての必要があります。加えて,同時履行の抗弁権は権利抗弁ですので,Yの権利主張も必要となります。
(4)この追加された訴訟物との関係で,Xの「仮にこの取引が売買であり,本件絵画の時価相当額が代金額であるとしても,その額は200万円にすぎない」との主張は請求原因事実の主張という法的意味があることになります。また,Yの「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である」との主張は,請求原因事実の「本件絵画をXに時価相当額で売却した」という自己に不利益な事実を認める主張であるから自白となります。なお,訴えの追加的変更前にYの主張がなされていたとしても,すでにされた自白も新請求についてそのまま効力を有すると一般的には考えられているため,自白と考えてよいでしょう。
2 小問(2)について
(1)X主張の時価相当額と異なる額の支払を条件とする引換給付判決が処分権主義(民訴法246条)に反しないかが問われています。
   引換給付判決をすること自体は一部認容判決として認められることに争いはないでしょう。
   処分権主義に反するか否かは,判決の内容が申立てに示された当事者の合理的意思の範囲に含まれるかどうか,被告に不測の不利益が生じないかという観点から判断することとされており,この基準に照らして各場合について検討することになります。
(2)220万円と評価される場合
   原告の意思が,明示した金額が支払の上限であり,それを上回る支払を明示的に拒んでいると評価される場合を除き,明示した金額を超える反対給付を条件とする引換給付判決をしても,当事者の合理的意思に反さず,被告に不測の不利益を生じさせないと考えられます(正当事由として立退料が提供される場合の事例ではありますが,最判昭和46.11.25民集25-8-1343(百選75事件),及び,その原審である大阪高判昭和41.5.31下民集17-5=6-452が参考になるものと思われます。)。本問では200万円を超える支払を明示的に拒んでいるとまではいえないと考えられ,したがって,220万円という評価どおりの判決をしても民訴法246条には反しません。裁判所は「Yは,Xから220万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることが考えられます。
(3)180万円と評価される場合
   この場合には,Xの明示した反対給付の額を減額することで,Yに不測の不利益を与えることから民訴法246条に反するとすることが考えられます。したがって,裁判所はXの主張する反対給付の額200万円を限度として「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることが考えられます。

第3 設問3について
1 後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関して改めて審理・判断することが前訴既判力により遮断され許されないのではないかが問題となっています。
2 既判力は「主文に包含するもの」(民訴法114条1項),すなわち,訴訟物の存否の判断に生じます。そうすると,本件では訴訟物である売買契約に基づく目的物引渡請求権の判断について既判力が及ぶと考えられます。そして,引換給付判決の引換給付債務は強制執行開始の要件(民執法31条)として注意的に主文において明示されているにすぎません。そうすると,引換給付判決の反対給付の部分については訴訟物に含まれないから,既判力の客観的範囲に含まれないと考えられます。
3 もっとも,争点効,信義則によって,XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関する判断についての主張を遮断できないかが問題となりえます。

 
4 的中情報★★★
・2017直前早まくり講座民事系民事訴訟法(福田俊彦先生ご担当)Theme1「申立事項と判決事項」★★
・2017スタンダード論文答練(第2クール)民事系2第3問(西口竜司先生ご担当)「処分権主義―申立事項と判決事項」★
・2017スタンダード論文答練(第2クール)民事系3第3問(稲村晃伸先生ご担当)「弁論主義第1テーゼ」★
・2017直前フォロー答練民事系第3問「弁論主義の第1テーゼ」★
 
 
 
 ●第1問 刑法
■公開:2017年05月27日/16:21
1 はじめに
 
  今年の刑事系科目第1問(刑法)も,事例に基づき,甲及び乙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じさせる出題形式です。
  そして,詐欺罪の欺罔行為(名義人の承諾),私文書偽造罪の「偽造」(名義人の承諾),背任罪,正当防衛(行為の一体性),窃盗罪(不法領得の意思,死者の占有と錯誤)などなどが論点として挙げられ,刑法全体について,比較的著名な論点が問われました。全体の難易度としては例年並みかと思われます。
  また,問題文は4頁(実質3頁)で,添付資料等の掲載はありません。
  なお,正当防衛(行為の一体性)に関しては,2017スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第1問で正面から出題しており,受講生の方には非常に有利だったと思われます。
 
2 問題文
   平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
  第1 甲の時計店での行為について
  1   Cに対し,腕時計XとYの購入を申し込み,A本人であると装って本件クレジットカードを手渡し,XとYの交付を受けた行為について
  上記行為については1項詐欺(246条1項)が問題となります。
  B信販会社の規約はクレジットカードの他人への譲渡・貸与等を禁じていること,加盟店は本人確認義務を負っていることからすると,カードの利用者と名義人とが同一人物であるということは,加盟店である時計店が商品を交付するかどうかを判断する上で基礎となる事項といえ,かつ,名義人と利用者が同一人物でないと立て替え払いを受けられなくなるリスクがあることから,重要な事実であるといえます。そうすると,Aが甲にカードの使用を許諾していたとしても,A本人であると装うことは欺罔行為にあたります。そして,同時計店は甲をAと誤信し,時計XYを交付しており,時計XYが甲に移転しています。したがって,甲の上記行為には1項詐欺罪が成立するでしょう。
    売上票用紙にAと記入して時計店店主に手渡した行為について
  「行使の目的で」Aの「署名を使用して」作成権限がないのに他人名義の「権利,義務」「に関する文書」を作成しているから有印私文書偽造罪(159条1項前段)が成立し,これを行使しているから同行使罪(161条1項)が成立します。
  クレジットカードの使用を許諾したAがA名義の売上票用紙を作成することまで許諾していると考え,名義人の承諾と偽造の問題とすることもできます。しかし,その場合においても,先述のクレジットカードの仕組みに照らすと,売上票用紙は文書の性質上,作成名義人以外の者が作成することが許されない文書であり,許諾があっても両罪の成立を肯定できるとすることが考えられます(最決昭和56年4月8日刑集35巻3号57頁参照)。
 
  Yを本件クレジットカードを用いて購入した行為について
(1)  Aに対する横領罪(252条1項)
    横領罪における「占有」は,事実上の支配のみならず法律上の支配を含みます。
  本問のように他人のクレジットカードを許諾された範囲外で使用する場合,預金に対する占有は認められないと考えられます。
  したがって,上記行為について横領罪は成立しません。
(2) Aに対する背任罪(247条)
    甲は,Aのキャッシュカードを使用していることから「他人のためにその事務を処理する者」にあたります。
  そして,甲は,自己の利益を図る目的,つまり,本人Aの利益を図る目的以外でAの許諾範囲外のYを購入しているから図利加害目的で「任務に背く行為」をしています。この背任行為により,Aは50万円相当の「財産上の損害」を負っており,上記行為には背任罪が成立すると考えられます。
      
  第2 一連のAの攻撃に対する甲乙の対応について
  1   乙について
  まず,2回の体当たり行為・押さえ込みは暴行罪(208条)の構成要件に当たりますが,それらの行為のみを考えれば,正当防衛(36条1項)が成立するでしょう(実際にはあてはめを要します)。
  また,乙がAを石で殴打した行為は傷害罪(204条)の構成要件に当たります。その殴打時にも,Aはすでに押さえ込まれているものの,体をよじらせこれを逃れようとし,「離せ。甲,おまえをぶん殴ってやる。絶対に許さない。覚悟しろ。」というなど攻撃の意欲が旺盛であったことからすると,なお急迫性は認められ,乙は甲がAから殴られることを避けるために殴打したのであるから防衛の意思も認められることになるでしょう。しかし,Aはすでに押さえられており,甲乙Aの体格からして2対1であればこれを継続することもできたと考えられること,直径10cm・800グラムという大きな石で人体の枢要部である頭部を殴る行為は非常に危険性が高い行為であることからすると,防衛行為としての必要最小限度性を欠き,相当性を欠くと考えられます。
  そこで,前記の体当たり行為・押さえ込み行為と石での殴打行為を一体として過剰防衛(36条2項)とすべきか,それとも別の行為として評価すべきかが問題となります。この点について最判平成20年6月25日は,時間的場所的連続性,意思的連続性,行為の態様の類似性などについて着目して判断を行っています。そこで,これらについて検討すると,乙は押さえ込みの継続している間に石で殴打しており,時間的場所的に連続しています。また,乙は,Aが甲を殴るのを防ぐという同一の目的で殴打しており,意思的にも連続しています。行為の態様としては,石で殴るというそれまでの行為とは異なる態様の行為であるものの,時間的場所的連続性,意思的連続性に照らすと,あくまでも石での殴打行為もAを押さえつける一環としてなされたと考えられ,一体と評価できるでしょう。
  したがって,両暴行を全体的に考察して,1個の傷害罪の過剰防衛を成立させることになります。
  なお,一体性を否定した場合,第1暴行が暴行罪で正当防衛となり,第2暴行が傷害罪で過剰防衛となります。
  本問の場合,最決平成21年2月24日のような第1暴行が傷害罪で正当防衛,第2暴行が暴行罪で過剰防衛という事案とは異なり,一体性を否定しても,傷害罪の過剰防衛が成立することには変わりがないので,一体性を認める実益があまりないともいえます。したがって,一体性を否定する構成もあり得ると考えられます。
    甲について
  甲・乙は「一緒にAを止めよう。」「分かった。」,「一緒にAを押さえよう。」「分かった。俺は上半身を押さえるから,下半身を押さえてくれ。」と話し合っているので,正当防衛のためにAに対して暴行することについて共謀が認められます。
  体当たり行為,押さえ込み行為がこの共謀に基づく行為であることは明らかですが,石での殴打行為は態様が異なることから共謀の射程内かが問題になります。この点については行為の一体性で検討したとおり,確かに行為態様は異なりますが,時間的場所的連続性・意思的連続性が認められ,殴打行為もAを押さえ込み,制止する行為の一環としてなされたものと評価できるため,石での殴打行為にも共謀の射程が及ぶと考えられます。
  したがって,甲について傷害罪の構成要件該当性が認められます。
  共同正犯における正当防衛・過剰防衛の判断について最決平成4年6月5日刑集46巻4号245頁は「共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討」すべきだとしています。共同正犯において正当防衛の判断を個別的に行うのは,共同正犯が「正犯」であるため,狭義の共犯と異なり,「(共犯)従属性」の原理が働かないからです。
  乙についての検討と同様に石での殴打行為は相当性を欠くことから,全体として過剰防衛となります。
  もっとも,甲は,乙による石での殴打について認識していなかったのであり,過剰性を基礎づける事実の認識を欠いていますから,甲に故意犯は認められないと考えられます。
  甲については,過失傷害罪(209条1項)も問題となりえますが,乙が石を拾ったということも知らなかったことからすると,成立を認めるのは難しいものと思われます。
      
  第3 財布の持ち去りについて
  1   甲について
  財布を持ち去った行為について窃盗罪(235条)の成否が問題となります。
  まず,Aは失神したままにすぎず,ズボンのポケット内にある財布はAの「財物」にあたり,それを持ち去っているのですから,窃盗罪の客観的構成要件を満たします。また,不法領得の意思についても,実行行為の段階において甲は現金をもらい,借金の返済に使おうと考えていたことから認められます。
  もっとも,甲は,Aがすでに死亡したと考えていたことから占有離脱物横領の故意しかなく占有離脱物横領が成立するのではないかが問題となります。しかし,最判昭和41年4月8日は殺害後に財物領得意思を生じた場合にも窃盗罪の成立を肯定しています。本問は,甲の認識通り,Aが死亡しているとすると致死の事案ではありますが,判例と同様,時間的場所的近接性を前提になお被害者の生前の占有を保護すべきだと考えるのであれば,甲の認識している事実をもっても窃盗罪は成立することになるでしょう。
    乙について
  乙は実行行為を行っていない以上,共謀共同正犯について規範定立することが必要です。
  甲,乙に財布の持ち去りについて共謀があることについては問題ないでしょう。
  Aが死亡していたと誤信していたことに加え,さらに,乙については,強盗に見せかけるために財布を持ち去っており,不法領得の意思,特に,利用処分意思の有無が問題となります。この点,最高裁は平成16年決定(最決平16年11月30日刑集58巻8号1005頁)において「廃棄するだけで外に何らかの用途に利用,処分する意思がなかった場合には…不法領得の意思を認めることはできない」と判示しました。この最高裁の判断によれば,財物から直接的に効用を享受する意思がなければ不法領得の意思は否定されます。したがって,最高裁判例の考え方によれば,乙には不法領得の意思がないことになり,乙には器物損壊罪の共同正犯が成立することになります。
      
  第4 罪数
      以上の検討を前提にすると,甲には時計店に対する詐欺罪,有印私文書偽造罪,同行使罪,Aに対する背任罪,Aに対する窃盗罪の単独正犯(器物損壊罪の限度で共同正犯)が成立することになります。このうち,有印私文書偽造罪と偽造有印私文書行使罪,偽造有印私文書行使罪と詐欺罪はそれぞれ牽連犯(54条1項後段)となり,また,詐欺罪と背任罪は観念的競合(54条1項前段)となります。この科刑上一罪と窃盗罪の単独正犯(器物損壊罪の限度で共同正犯)とが併合罪(45条前段)となります。
  乙については,傷害罪の過剰防衛,器物損壊罪の共同正犯が成立し,併合罪となります。
 
4 的中情報★★★
 
2017スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第1問(柏谷周希先生ご担当)「正当防衛における防衛行為の一体性等」★★★
 
 
 ●第2問 刑事訴訟法
■公開:2017年05月27日/16:21
1 はじめに
 
  今年の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)は,事例を読んで〔設問1〕から〔設問2〕まで解答させる問題で,設問数は昨年より減少しております。
  そして,捜索差押えの際の「必要な処分」,令状呈示前の令状執行,捜索場所にいる人の身体・所持品の捜索,刑事訴訟法328条により許容される証拠の範囲,刑事訴訟法328条「供述の証明力を争うため」などを検討させています。難易度としては,例年並みだったと思われます。
  また,問題文は5頁(実質4頁)で,参照条文と【資料】が添付されております。
 
2 問題文
   平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
  〔設問1〕
    本問は,捜査①から③の適法性がまとめて問われており,各々を論じることも必要ですが,各捜査を比較検討することも重要となります。
   
  (捜査①)
  1   捜査①の適法性を論じる上での問題点として,(A)掃き出し窓のガラスを割って解錠したこと及び(B)捜索差押許可状を示すことなく甲方に入ったことが考えられます。
    (A)掃き出し窓のガラスを割って解錠したことに関して,「必要な処分」(刑事訴訟法(以下,省略)222条1項,111条1項前段)として許されるかが問題となります。「必要な処分」として許されるための規範を立てる必要がありますが,『執行の目的を達成するのに必要であり,かつ社会的に相当な方法』というように,必要性・相当性を示せばよいでしょう。本件では必要性を基礎付ける具体的事実として,Aのみならず,覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕された複数の者が,覚せい剤を甲から買った旨供述していることや甲が覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者であること,甲が,Kマンション周辺の路上で,複数の氏名不詳者に茶封筒を交付し,これと引き換えに現金を受領するという行為を繰り返していることを挙げ,甲の嫌疑の高さを示す必要があります。その他,覚せい剤はトイレに流すなどして容易に証拠隠滅が可能であること,問題文記載の参照条文を示し,覚せい剤取締法違反がそもそも重罪であること,甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯であり,今回有罪判決を受ければ重い判決が予想されること,甲が玄関のドアチェーンを掛けたまま郵便配達員に応対していたことなどを指摘して,必要性はあったとの結論となるでしょう。次に相当性を基礎付ける具体的事実として,割ったのは掃き出し窓のガラス1枚であり,それほど被害金額が大きくないことが挙げられます。前記のような必要性の高さから考えると,相当性はあるとしてよいでしょう。
  以上より,(A)掃き出し窓のガラスを割って解錠したことは適法といえます。
    (B)捜索差押許可状を示すことなく甲方に入ったことに関しては,222条1項本文,110条との関係で問題となります。110条の趣旨を示したうえで,必要性・相当性があれば,令状呈示前の令状執行も許されるという規範を示したうえで,具体的な検討を行うことになります。必要性に関しては,前記(A)と同様でよいでしょう。相当性に関しては,Pが居間に入った後,すぐに甲に対して捜索差押令状を示しているので,認められるといえます。
    以上より,捜査①は適法といえます。
      
  (捜査②)
  1   捜査②の適法性を論じる上での問題点として,同居人である内縁の妻乙の携帯物の捜索が許されるかが挙げられます。最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁が,同居人の携帯物の捜索に関する判断をしています。
    まず,捜索差押えに令状を要求した趣旨を示し,捜索差押令状が発付された場合には,通常,そこに存在する備品類も含めて全体として裁判官による審査を受けたことや,同居人については物が携帯されているかその場所に置かれているかは偶然の事情によることを示し,同居人に対する携帯物の捜索は許されるとすることとなるでしょう。
    本件乙は,甲の同居人であり,乙の持っていたハンドバッグは乙の携帯物なので,本件捜査②の捜索は許されることになります。
      
  (捜査③)
  1   捜査③の適法性を論じる上での問題点として,第三者である丙の身体への捜索が許されるかが挙げられます。
    まず,捜査②と同様に,捜索差押えに令状を要求した趣旨を示します。そのうえで,場所に対する捜索差押許可状によって,その場所にいる人の身体を捜索することは原則として許されないことを示す必要があります。そのうえで,例外的に,捜索が認められるかどうかを検討するために規範定立を行います。例えば,捜索差押許可状により差し押さえることができる物を,捜索場所にいる者が自分の衣服などの身体に隠匿したと疑われる場合には,本来行えたはずの捜索差押えに対する妨害排除行為に付随する措置(「必要な処分」)として許容されるという規範が考えられます。そのうえで,捜査①と同様に,必要性・相当性を論じることになるでしょう。
  本問における必要性を基礎付ける具体的事実として,丙が頻繁に甲方に出入りしていたこと,丙が右手を抜いたにもかかわらず,右ポケットが膨らんだままであること,時折,ズボンの上から右ポケットに触れるなど,右ポケットを気にする素振りや,落ち着きなく室内を歩き回るなどの様子が見られたこと,丙がトイレに向かって歩き出したことなどを示し,本件で差押えの対象物である覚せい剤やメモ片を隠匿している可能性が極めて高いこと及びトイレに流すことで証拠隠滅を図ろうとしている可能性が高いことを示します。相当性を基礎付ける事実としては,丙の右腕をつかんで引っ張り,右ポケットから丙の右手を引き抜いたことと丙のズボンの右ポケットに手を差し入れ,そこから5枚の紙片を取り出したことが挙げられます。前記必要性との関係で当該行為が相当といえるかを論じる必要があります。必要性の高さとの関係では,相当な行為といえるでしょう。
    以上より,捜査③は適法といえます。
      
  〔設問2〕
  小問1
    下線部④で,『甲証言の証明力を争うため』とある以上,本問では,328条により許容される証拠にあたるか否かを論じる必要があります。本問を論じるうえで,最判平成18年11月7日刑集60巻9号561頁が参考になります。
    前記平成18年判例は,328条は「公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨」の規定であり,同条で許容される証拠は,「信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる」。としています。このように平成18年判例が,「減殺を図ることを許すことにより」としている以上,328条の「証明力を争う」の中に弾劾証拠が含まれるとしてよいでしょう。
    以上の平成18年判例の趣旨を示したうえで,証拠1,証拠2,証拠4を取り調べる旨の決定をすることができるか否かを論じる必要があります。前記趣旨からすると,「証明力を争う」ための証拠とは自己矛盾供述となります。
  証拠1には,「丁は私の知り合いだが,覚せい剤の密売には関与していない。」との供述があり,第2回公判期日における丁から言われて覚せい剤の密売を手伝うようになったとの甲の証言とは矛盾があります。しかし,証拠1には甲の署名・押印がなく,刑訴法の要件を満たしていません。そのため,甲の供述と同視することはできません。以上より,「証明力を争う」証拠とはいえず,取り調べる旨の決定をすることはできないといえます。
  証拠2には,「密売用の覚せい剤は,私が知り合いの暴力団組員から定期的に仕入れていた。その知り合いの組員は丁ではない。」「丁名義の預金口座に現金を送金したのは,借金の返済のためであり,覚せい剤の密売による売上金を分配したものではない。」との供述があり,第2回公判期日における甲の証言と比べると,丁の関与及び丁名義の口座に振り込んでいた理由の2点で矛盾があります。そして,証拠2には,甲の署名・押印があり,甲が証拠2のとおりに供述したことを認めていることから,自己矛盾供述といえます。以上より,「証明力を争う」証拠として取り調べる旨の決定をすることができるといえるでしょう。
  証拠4には,「密売グループの構成員は,私,甲及び丙の3名だけであり,丁は関係ない。」「丁名義の預金口座への送金は,甲の丁に対する借金の返済である。」との供述があり,証拠2の場合と同様に第2回公判期日における甲の証言と比べると矛盾があります。もっとも,証拠4は乙の供述であり,甲の自己矛盾供述とはいえません。そのため,「証明力を争う」証拠とはいえず,取り調べる旨の決定をすることはできないといえます。
     
  小問2
    まず,証拠3には,「密売グループのトップは丁である」「丁の指示で,毎週,売上金の5割を私名義の預金口座から丁名義の預金口座に送金し,私が3割,乙及び丙が1割ずつ受け取っていた」との供述があり,第2回公判期日と同趣旨の供述があります。
    前記のように平成18年判例が,「減殺を図ることを許すことにより」としている以上,328条の「証明力を争う」の中に回復証拠を含めないと考えることができます。学説の中には,回復証拠も用いることができるとするものもありますが,1度自己矛盾供述で弾劾された後に,公判供述と一致する供述を他にもしていることだけでは,自己矛盾供述をしたことがあるとの事実は解消できないことを重視すると,回復証拠を用いることはできないこととなります。
 
4 的中情報★★★
 
2017スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第2問(張谷俊一郎先生ご担当)「弾劾証拠(328条)」★★
  
 
 ●倒産法
■公開:2017年05月25日/19:00
1 はじめに
      例年通り,破産法と民事再生法から1題ずつ出題され,また,倒産実体法と倒産手続法の両方に渡る出題がされました。倒産実体法については,支払停止,再生債務者の第三者性といった典型的な論点についての基本知識,判例知識が問われました。また,倒産手続法については,試験会場で条文を参照し,要件を検討することが求められました。
   どの設問についても,ある程度の勉強が進んでいる受験生であれば学習済みの内容と思われ,難易度は例年並みと考えられます。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      本問では,弁護士による債務整理開始の通知が「支払の停止」に該当すれば,Aの債務弁済行為が「支払不能」後になされたと推定されることになります(破産法162条3項)。
   「支払停止」の判断に際しては,「受任弁護士による債権者への債務整理を開始する旨の通知が支払停止に該当する」とした最判平成24年10月19日(判時2169号9頁)を踏まえて論じる必要があります。同判決の事案は債務者が給与所得者であるのに対し,本件は債務者Aが個人事業主であり収入の増減や借入による資金調達の可能性がある点が異なりますので,判例の帰結をそのまま適用してよいか検討の上で,結論を出すことが求められます。
2 設問2について
      小問(1)では,Aに免責不許可事由が認められるか否かを論じることが求められています。本問では,まず,「破産手続開始申立直前にAがGから50万円を借り入れた行為」が詐術による信用取引(破産法252条1項5号)にあたるかが問題となります。上記借入れは「破産手続開始申立の1年前の日」以降に行われたことを指摘した上で,借入時のAの言動が「詐術」にあたるかを検討することになります。
   次に,「AがHに50万円を弁済した行為」が不当な偏頗行為(破産法252条1項3号)にあたるかが問題となります。この点について,上記弁済行為が破産法252条1項3号の要件に該当するかについて問題文の事情に基づき検討する必要があります。
   小問(2)では,Aに免責不許可事由(破産法252条1項)が認められる場合の裁量免責(破産法252条2項)の可否について,Aの免責許可を肯定的に考慮すべき事情,否定的に考慮すべき事情双方を挙げて論じることが求められています。条文上は「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮」するとされていますが,本問では,破産に至った経緯,免責不許可事由に該当する行為に至った事情,破産者Aの破産手続への協力の程度,破産者Aの現在の生活状況等が考慮要素として考えられます。

〔第2問〕
1 設問1について
      再生債権の弁済は,再生計画の定めるところによりなされ(民事再生法85条1項),また,再生計画による権利変更の内容は再生債権者の間では平等であること(民事再生法155条1項)が原則です。本問では,上記再生債権の弁済に関する原則に対する例外的取扱いの可否について問われています。 小問(1)では,少額債権者に対する支払いの根拠として民事再生法85条5項による再生計画認可前の弁済,また,民事再生法155条1項但書により再生計画において少額の再生債権について全額弁済する旨を定めることが考えられます。
   小問(2)では,民事再生法85条5項によるD社に対する再生計画認可前の弁済が認められるかを検討することになります。本問では,再生債務者A社にとって,D社からパーツβの納品を受けることが事業継続に必須である点を指摘し,「少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障をきたす」場合にあたるとして,裁判所に対して弁済許可を申し立てることが考えられます。
2 設問2について
      小問(1)では,Eからの所有権移転登記手続の請求に対し,A社としては,不動産を購入後,再生手続開始前に登記を備えなければ,再生債務者に対して権利取得を主張できないと反論することが考えられます。
   小問(2)では,F社からの通謀虚偽表示による売買契約の無効を理由とする中古機械の引渡請求に対し,A社としては,民法94条2項により通謀虚偽表示による無効をA社に主張できないと反論することが考えられます。
   これらの点については,再生債務者に第三者的地位が認められるかという論点を踏まえて論じるべきでしょう。管財人については,差押債権者類似の第三者的地位を認めることには異論はないと思われます。これに対し,再生債務者が自らの行為による法律効果を,第三者的地位を根拠に否定することには異論もありえます。以上に加え,再生手続の統一的運用の要請等を考慮して結論を導くことが求められています。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017司法試験全国模試(倒産法)第1問
「免責不許可事由と裁量免責」★★★
・2017選択科目集中答練第3回(倒産法)第2問
「支払猶予の申入れと支払停止」★★

〔第2問〕
・2017選択科目集中答練第6回(倒産法)第2問
「再生債権の弁済の禁止の例外」★★★
・2017選択科目集中答練第5回(倒産法)第1問
「破産管財人の第三者性と詐欺」★★

 
 
 ●租税法
■公開:2017年05月25日/19:00
1 はじめに
      第1問は,所得税法・法人税法の基本的理解をストレートに問うオーソドックスな問題といえるでしょう。第2問は,受験生にとって馴染みの薄い切り口からの出題といえるかもしれないものの,本質的には基本概念の理解を問うものです。また,両問ともに,従来の出題傾向どおり,検討事項について具体的な指示がなされています。
   こうした点から,難易度や出題傾向・形式については例年通りといえるでしょう。なお,寄附金と広告宣伝費との区別や,固定資産(減価償却資産)概念,実現主義といった,これまで出題実績に乏しかったものの実務上は極めて重要なテーマに関連した出題がなされたことは,注目に値します。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      収入金額の理解を問う問題と考えられます。
   贈与によっては経済的利益を観念できず所得課税が生じないのが原則です。しかし,Xの事務用品は「たな卸資産」(所得税法2条1項16号も参照)に該当するため,例外規定である同法40条1項1号の適用があります。同号にいう「価額」とは,その立法趣旨から時価と解され,本件では20万円が総収入金額に算入されます。
2 設問2について
      退職所得の具体的適用を問う問題と考えられます。
   YがZへの事業承継後も引き続き業務に関与していることから,退職手当が退職所得(所得税法30条)と給与所得(同法28条)のいずれを構成するかが問題となります。その際には,同法30条のいかなる文言の解釈論を論じるのかを明確にすべきです。
   退職所得の趣旨・目的や条文構造から判例(最判昭58.9.9,最判昭58.12.6など)を踏まえた規範を定立した上,具体的事情(業務執行の内容・執務時間や対価,A社に対する影響度など)を検討するとよいでしょう。
3 設問3について
      協賛金の法的性質を問う問題と考えられます。
   小問(1)では,協賛者の名称等が明かされず宣伝効果がないことや,祭りの開催の趣旨・目的などに照らせば,A社の支出は,祭りの運営資金の贈与と評価できます。このため,法人税法22条3項の「別段の定め」である同法37条1項,7項が適用され,寄附金として同条1項の限度でのみ損金算入が可能です。
   他方,小問(2)では,宣伝効果を目的とした支出と捉えれば,同条7項かっこ書の「広告宣伝」に該当し,寄附金には該当しないことになります。この場合には,同法22条3項2号の「販売費」として全額の損金算入が認められます。


〔第2問〕
1 設問1について
      債務免除益の処理を問う問題と考えられます。
   債務免除益の性質を踏まえつつ,所得税法44条の2第1項の立法趣旨や例示列挙の意味に着目して,「その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」の解釈を示すべきです。その上で,Aの資産状況や返済状況,物的・人的担保の状態などの当てはめを行います。
   同項の適用を肯定する場合には,Aの按分弁済を前提に,同条2項の当てはめを行うことになります。
2 設問2について
      損失概念の理解や条文操作を問う問題と考えられます。
   「損失」は,本来的には必要経費そのものではありません。しかし,担税力の減殺の観点から,所得税法37条1項の「別段の定め」として同法51条が設けられ,資産損失の必要経費算入が認められています。Aの器具・備品は「固定資産」に該当すると考えた場合(同法2条1項18号,19号,同法施行令5条2号,6条7号),その火災損失については同法51条1項による必要経費算入が認められます。なお,同法51条1項による必要経費算入が認められる場合,雑損控除は適用されません(同法72条,70条3項)。
3 設問3について
      実現主義の理解を問う問題と考えられます。    処理1では,「資産の譲渡」として,1億円の益金算入と2億円の損金算入が認められるでしょう(法人税法22条2項,3項)。ただし,低額譲渡との関係で,譲渡価額の適正性も検討すべきです。他方,処理2では損金算入は認められません(同法33条1項)。
   含み損の存在は両問に共通しますが,その実現を肯定できるかが重要な違いです。処理1では,処理2と異なり債権譲渡という具体的な「取引」が存在することや,売却先がサービサー(独立した第三者)であることが,実現を肯定するポイントになります。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017選択科目集中答練第8回(租税法)第2問
「広告宣伝費」★★★
・2017司法試験全国公開模試(租税法)第1問
「寄附金」★★
・2017スタンダード論文答練(租税法1)第1問
「寄附金」★★
・2017選択科目集中答練第3回(租税法)第2問
「所得税法40条1項」★★

〔第2問〕
・2017司法試験全国公開模試(租税法)第1問
「法人の低額譲渡」★★
・2017スタンダード論文答練(租税法1)第2問
「債務免除益の所得該当性」★★

 
 
 ●経済法
■公開:2017年05月24日/16:30
1 はじめに
      本年は,私的独占及び不公正な取引方法分野から1問,企業結合及び不当な取引制限分野から1問の出題となりました。いずれの問題においても,独占禁止法の基本的な概念や判例及び審決例についての知識に基づき,事実関係を丁寧に当てはめることが求められています。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
      第1問は,いわゆるアフターマーケットにおける他社排除行為が,私的独占及び不公正な取引方法に該当するかを検討する問題です。
   A社製の甲向けの乙を製造販売している独立系事業者であるD社及びE社の事業活動を困難にするため,A社が今後販売する甲について,D社及びE社製の乙を使用した顧客に対する10年間の無償定期点検を拒否する約定を付すことが独占禁止法上どのように評価されるかを検討する必要があります。
   まず,私的独占に該当するか否かについては,そもそも市場をどのように画定すべきであるか(「A社製の甲向けの乙」を独立した製品市場として位置付けることが可能か),A社が同市場における市場支配力を有しているか,上記行為が「排除」行為に該当するかを丁寧に論じる必要があります。不公正な取引方法については,そもそもどの行為類型に該当するかが重要な点であり,抱き合わせ販売(一般指定10項)に該当するか,該当するとしていかなる役務との抱き合わせとみるべきか,また取引妨害(一般指定14項)に該当するかについて,しっかりと論じるべきでしょう。その上で,各行為類型の構成要件の充足性とともに,A社の行為が正当化されるかについても論じる必要があります。
   アフターマーケットにおける独立系事業者の排除行為は,独占禁止法における重要かつ典型問題の一つであり,エレベーターのメンテナンス業務(大阪高判平5.7.30),パーキングシステムのメンテナンス業務(公取委勧告審決平16.4.12)等をしっかりと理解し,本件事案に則した丁寧な当てはめをすることが本問のキーポイントであると考えられます。

〔第2問〕
      第2問は,化学製品X市場において市場シェア合計90%を占めるA社とB社による事業統合及び業務提携事案を通じて,企業結合規制及び不当な取引制限に係る理解を問う問題です。
   小問(1)では,共同新設分割によって両社の対象事業を統合することにより,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否か(独占禁止法15条の2第1項1号)を検討する必要があります。企業結合ガイドラインに沿った検討を行う必要がありますが,本件では,特に輸入品による圧力をどう評価するか,顧客による価格交渉力をどのように評価するか,市場が縮小している中での本件事業統合による効率性の発現及びそれによる価格引き下げの可能性をどの程度評価すべきかを論じる必要があるでしょう。
   小問(2)では,非常に大きなシェアを有する競合他社同士がOEM(製造委託)契約によって製造を統一化することにより,当該製品市場における競争が実質的に制限され,不当な取引制限(独占禁止法2条6項)に当たるかが問題となります。いわゆる非ハードコアカルテルに該当する行為なので,本件行為による競争制限的効果と競争促進的効果を比較衡量することにより競争の実質的制限がないかを判断することになります。競争促進的効果としては,小問(1)と同様に効率性及び値下げの可能性が挙げられます。競争制限効果については,製造委託のみであり販売が独立であることをどう評価するか,販売が独立であるといっても,両社間でお互いの価格がある程度予測可能となってしまうことや物流委託に伴い顧客及び出荷先情報を得てしまうことをどのように評価するかを論じる必要があるでしょう。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017司法試験全国公開模試(経済法)第2問
「取引妨害の行為要件・公正競争阻害性」★★★
・2017スタンダード論文答練(経済法2)第2問
「私的独占の行為要件」★★
・2017選択科目集中答練第1回(経済法)第2問
「私的独占の成否」★★
・2017選択科目集中答練第3回(経済法)第2問
「取引妨害の行為要件・公正競争阻害性」★★★
・2017選択科目集中答練第4回(経済法)第2問
「私的独占の成否」★★
・2017選択科目集中答練第5回(経済法)第1問
「私的独占の禁止と不公正な取引方法との関係」★★★
・2017選択科目集中答練第5回(経済法)第2問
「社会公共目的と競争の実質的制限」★★★
・2017選択科目集中答練第6回(経済法)第2問
「取引妨害の行為要件・公正競争阻害性」★★★
・2017選択科目集中答練第7回(経済法)第2問
「私的独占の成否」★★
・2017選択科目集中答練第8回(経済法)第2問
「抱き合わせ販売・取引妨害の成否」★★★

〔第2問〕
・2017司法試験全国公開模試(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」,「非ハードコアカルテルの効果要件」★★★
・2017スタンダード論文答練(経済法1)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
・2017スタンダード論文答練(経済法2)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
・2017選択科目集中答練第1回(経済法)第1問
「企業結合における競争の実質的制限」★★★
・2017選択科目集中答練第2回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
・2017選択科目集中答練第3回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
・2017選択科目集中答練第4回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」,「非ハードコアカルテルにおける競争の実質的制限」★★★
・2017選択科目集中答練第6回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
・2017選択科目集中答練第7回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
 
 
 ●知的財産法
■公開:2017年05月26日/18:00
1 はじめに
      第1問(特許法)は,従来の出題傾向と異なり,事例分析・あてはめ重視の問題となりました。第2問(著作権法)は,従来どおり事例分析をさせる問題であり,処理すべき事項の多い問題となりました。両問とも作業量が多く,実際の答案作成にあたっては時間配分が重要となったと思われます。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
      設問1は,先使用にもとづく通常実施権(特許法79条)の成否について問う問題です。発明思想同一説において,Y製品1について成立した先使用にもとづく権利がY製品2についても及ぶかについて,説得的な論述が求められるでしょう。 設問2は,間接侵害(101条2号)が問題となる場面で,直接侵害が69条3項により成立しない場合について問う問題です。69条3項の趣旨からの論述が必要となるでしょう。
   設問3は,専用実施権者X2から完全独占的通常実施権を許諾されたX3が,X2から通常実施権を許諾されたCに対して権利行使できるかを問う問題です。検討においては,X3の通常実施権が完全独占的であることはX2X3間の契約内容に過ぎず,X3は排他的権利を持つものではないこと,X3は自己実施しておらず逸失利益がないから102条2項の適用の前提を欠くこと等への言及が必要です。
   いずれの設問も,原告の主張,被告の反論,被告の反論の妥当性の3つについて述べることを求めています。したがって,まずは原告・被告それぞれの立場においてどのような主張を行うべきかを柔軟に考えさせた上で,結論についての検討を求めていることになりますから,結論に飛びつくのではなく,丁寧かつ整理された当事者の主張を示せている答案に高評価が与えられることになるでしょう。


〔第2問〕
      設問1は,乙は,市職員50名は特定多数で「公衆」(著作権法2条5項)にあたり,「公に」要件を満たすから演奏権(著作権法22条)の侵害であり,主催者丙はその侵害者であるとしてコンサート開催の差止めを求めます。丙は,選曲はAに任せており侵害の責を負わないこと,Mの歌唱が侵害であるとしてもコンサート全体の差止めを求めることは過剰であること,38条1項に該当すること等を主張します。38条1項該当性の検討では,寄附についての評価が不可欠となるでしょう。
   設問2では,乙は,動画への録音は複製(2条1項15号)にあたり複製権(21条)を,インターネットでの配信は送信可能化(2条1項9号の5)にあたり公衆送信権(23条1項)を,それぞれ侵害すると主張します。丁は,時事の報道(41条)にあたること,引用(32条1項)にあたることを主張します。41条該当性の検討では1年以上経過していること,32条1項該当性の検討では画面上の面積や動画の長さなどが,評価の対象となります。
   設問3では,甲は,本件詩集のQ章は編集著作物(12条1項)であり,本件CDの発行はその選択に関する複製権(21条)ないし配列に関する翻案権を(27条)侵害し,かつ氏名表示権(19条1項)及び同一性保持権(20条1項)を侵害するものと主張します。乙は,編集著作物性を争うことを主張します。
   設問4では,名誉声望を害する方法による利用にあたりみなし著作者人格権侵害(113条6項)となるかが問題となります。
   第2問についても第1問同様,いずれの設問も,原告の主張,被告の反論,被告の反論の妥当性の3つについて述べることを求めています。したがって,まずは原告・被告それぞれの立場においてどのような主張を行うべきかを柔軟に考えさせた上で,結論についての検討を求めていることになりますから,結論に飛びつくのではなく,丁寧かつ整理された当事者の主張を示せている答案に高評価が与えられることになるでしょう。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
調査中

〔第2問〕
調査中
 
 
 ●労働法
■公開:2017年05月24日/16:30
1 はじめに
      論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫していますが,第2問については,集団的労働関係に関する問題が出題されるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度は,第1問が個別的労働関係に関する出題,第2問が集団的労働関係に関する出題と,オーソドックスな出題形式になりました。
   今後の受験対策という観点から見た場合,以下の3点が注目されます。第一に,第1問の設問1で,会社分割の際の労働契約承継法に基づく労働契約の承継が出題されました。この論点は,ややマイナーな論点ではありますが,後記の通り百選掲載の最高裁判決が存在しており,百選に掲載されるような判例が存在する論点については,幅広く理解をしておく必要があるということになるでしょう。
   第二に,第1問の設問2は,就業規則の不利益変更について,労働者の同意がある場合についてどう考えるかという論点になります。この論点は,現在労働法学会でも最も議論が多いテーマの1つであり,後記の通り最近になってこの点についての最高裁判例が示されたテーマです。以前の本試験では,このように学会で議論が激しい(その意味で,解釈論が確定していない)論点については出題が避けられる傾向にありましたが,近年はこうした現在進行形で議論がなされている論点についても積極的に出題される傾向にあります。その意味で,直近の学会の議論状況や最新の判例についても注意を払っておくことが必要でしょう。
   第三に,第2問の設問2を除き,判例の見解によったとしても,論理構成次第では労働者側,使用者側,どちらの立場からも十分な立論が可能な設問になっており,また判断規範について等もいろいろな構成がありうる柔軟な設問になっていることが注目されます。これは,近年の労働法の出題全般に看取される傾向であり,おそらくは規範定立から当てはめまでのパターン化した答案を嫌っての出題傾向ではないかと推察されます。こうした設問の場合,規範定立についてはその根拠を示すとともに,その立場になった場合には当てはめでどのような要素が重要視されることとなるのかを示すこと,そして,当てはめにおいては上記で定立した規範と矛盾しないような論理構成を取ることが必要になります。単に判例や学説の考え方の表面的な字面だけを覚えるのではなく,それがいかなる論理によるものであり,反対説と具体的にどのような違いがあるのか,という点を意識しながら学習することが必要になるといえるでしょう。また,労働者側,使用者側,それぞれにとって有利な事実が散りばめられている設問について,どのように自説を論理的に説明するのかの練習を重ねることがあわせて重要になると思われます。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      設問1は,会社分割に伴う労働契約承継法に基づく労働契約の承継の有効性が問題となります。この問題については,日本アイ・ビー・エム(会社分割)事件(最二小判平22.7.12)という判例百選掲載の最高裁判例が示されており,この判例に沿って検討すればよいということになるでしょう。同事件の最高裁判決の内容をきちんと理解していれば,それほど難しい設問ではないと思います。
   すなわち,労働契約承継法では,分割会社が履行すべき手続について,同法5条および7条で定めています(いわゆる「5条協議」および「7条措置」)ので,この規定との関係が問題になります。5条と7条の関係(特に,7条違反の場合の効果)については議論のあり得るところですが,上記の最高裁判例によれば,いわゆる7条措置は努力義務にとどまりますので,あてはめに際しては5条協議,すなわち承継対象となる労働者に対する説明・協議がなされていたかを中心に検討しつつ,その際に7条措置,すなわちC組合との協議の態様とそれによる5条協議への影響を一要素として考慮すればよいということになります。解答にあたっては,5条と7条の関係について根拠を示しつつ自説を示した上で,あてはめをすればよいでしょう。
   この点,C組合からの協議の申し入れにY社が応じていませんが,判例の立場に従うのであれば,このことから直ちに「承継法7条違反→X1の労働契約の承継は無効」という結論にはならないことに注意が必要です。すなわち,7条措置の不履行が5条協議の履行についてどのように影響をしたかという観点からより丁寧な検討が必要となります。Y社は,X1ら承継対象者全員に対する説明会を実施し,Z社の概要や承継後の労働条件等について説明をしている一方,X1らの質問についてはこの説明会では回答していないこと,個別の労働者に対する説明が実施されたか否かは問題文からは明らかでないことをどう考えるかが問題となるでしょう(必要に応じて場合分けをすることも考えられます)。
2 設問2について
      設問2では,いわゆる就業規則の不利益変更について問われていますが,X2は「本件同意書を提出」したと記されており,就業規則の不利益変更について,労働者の個別合意がなされていた場合にどのように有効性を判断するか,という点が問題となります。
   この点,大きく分けて,①個別の合意がある場合でも,変更の客観的合理性が要求される(労契法10条に基づいて有効性を判断)とする見解と,②有効な個別合意があれば,労契法9条の反対解釈により変更は有効となるとする見解に分かれ,さらに②の中に,合意の有効性を幅広く認める見解,合意の有効性につき手続(情報提供・説明のプロセス)を重視して判断する見解,合意の有効性につき内容の客観的合理性も考慮しつつ判断する見解等に分かれます。この点,最高裁は,山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19)で,初めてこの点についての判断を示し,(事例判断であり不明瞭な点もあるものの)上記の内の②の立場に立ちつつ,合意の有効性を慎重に検討する立場を示したと理解されています(手続を重視するのか,内容の客観的合理性を重視する立場かは必ずしも明らかではありません)。
   解答にあたっては,就業規則と労働者の個別合意との関係について,労契法10条を適用するか9条の反対解釈を採用するか,根拠も含めて自らの見解を示し,かつ具体的な有効性の判断要素を示した上で,あてはめをすることになるでしょう。とりわけ9条の反対解釈の立場を採用する場合,合意の有効性をどのように判断する立場を取るかによって,あてはめで重視すべき事実が変わってくる点にも注意が必要です。前記の山梨県民信用組合事件では,変更によって生じる退職金の具体的な減額の程度が明らかになっていなかった点が問題とされており,本問についても,Z社が給与額と退職金額の見込みについて,「希望があれば説明する(=希望がない限り説明しない)」という対応を取ったことをどのように評価するかがとりわけポイントとなると思われます。他方,労契法10条を適用する立場の場合,変更の目的,変更による不利益の程度,協議のプロセスや他の従業員の賛否の状況など,労契法10条に照らして検討すべき要素を踏まえ,変更の有効性を検討することになるでしょう(9条の反対解釈の場合,「個別合意」の有効性が問題になるので,10条の適用の場合に比べ,変更の目的(必要性)等の要素は相対的にウェイトが下がることになると思われます)。

〔第2問〕
1 設問1について
      設問1は,いわゆる「ユニオン・ショップ解雇」の有効性が問われた設問です。前提として,「ユニオン・ショップ協定」の効力そのものが認められるかどうかが問題となりますが,この点については,協定の有効性そのものを否定する有力説もあるものの,多数説および判例はユニオン・ショップ協定の有効性そのものは認めています。したがって,解答にあたって,この点は理由を示した上でユニオン・ショップ協定の有効性そのものは認められる旨を簡潔に記しておけばよいでしょう。
   そして,ユニオン・ショップ解雇が別組合に加入したものに対しても効力が及ぶのか,別組合に加入した時期とユニオン・ショップ協定締結時との前後関係等も問題とされてきましたが,この点については,三井倉庫港運事件(最一小判平1.12.14)および日本鋼管鶴見製作所事件(最一小判平1.12.21)によって,別組合の加入の時期と協定の締結時期の前後,また協定締結組合からの離脱の経緯(脱退か除名か),離脱の動機・目的等を問わず,別組合に加入した組合員に対してはユニオン・ショップ協定の効力が発生しないこととされました。
   そこで,次に問題となるのは,別組合への加入と解雇の前後関係となります。というのも,本設問の場合,B組合は1月30日に結成されており,他方,解雇の時期を見ると,X1はB組合結成前の1月5日,X2についてはB組合結成後の2月5日に解雇通知がなされているため,ユニオン・ショップ協定の効力が生じなくなる「別組合の加入」の有無を,どの時点で判断するのかという問題が生じます。この点,上記の最高裁判決は,いずれもユニオン・ショップ協定に基づく解雇がなされた段階で,当該労働者は既に別組合に加入していたため,ユニオン・ショップ協定が無効となるためには,労働者はいつまでに別組合に加入していなければならないのか,という問題については特に言及していません。学説は,①解雇の時点で判断すべきとする見解(菅野和夫『労働法(第11版)802頁)や,②離脱した労働者が別組合に加入するに要する相当な期間はユニオン・ショップ協定の解雇が及ばないとする見解(外尾健一『労働団体法』621頁)などがあります。この点は,判例の立場が明確でないことから,どのような基準で判断すべきか,各自が理由とともに示した上で,選択するほかないものと思われます。例えば,上記①説の立場に立った場合,X1およびX11に対する解雇は有効,X2に対する解雇は無効ということになるでしょう。なお,この場合,X1あるいはX11について,B組合の結成および加入しようとしたことを理由とする解雇であるとして,労組法7条1号および3号にもとづいて解雇無効の主張を構成することも考えられます。ただし,この場合,Y社としては「あくまでもユニオン・ショップ協定にもとづいて解雇せざるを得なかったものであり,不当労働行為の意思はなかった」と主張することが考えられ,この点をどのように考えるかが問題となるでしょう。
2 設問2について
      設問2は,労組法7条2号の団交拒否の問題,具体的には誠実団交義務の意味および義務的団交事項の範囲が問われている設問となります。(1)については,唯一団交事項に基づく団交拒否が正当な団交拒否の理由になりうるか,(2),(3)については義務的団交事項にこれらの事項が含まれるのか,Y社の回答が誠実交渉義務を果たしたものといえるかについて,労組法の趣旨・目的等に照らして検討すればよいものと思われます。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017スタンダード論文答練(労働法2)第1問
「就業規則による労働契約の変更の合意」★★★
「就業規則による労働条件の不利益変更の可否」★★★
・2017選択科目集中答練第5回(労働法)第1問
「就業規則の不利益変更」★★★

〔第2問〕
・2017全国公開模試 第2問
「支配介入の成否」★★★
・2017スタンダード論文答練(労働法2)第2問
「不当労働行為の成立」★★★
・2017選択科目集中答練第2回(労働法)第2問
「支配介入の成否」★★★
・2017選択科目集中答練第4回(労働法)第2問
「ユ・シ協定の有効性」★★★
「ユ・シ協定に基づく解雇の有効性」★★★
・2017選択科目集中答練第6回(労働法)第2問
「不当労働行為の成立」★★★
・2017選択科目集中答練第7回(労働法)第2問
「不当労働行為の成立」★★★
・2017選択科目集中答練第8回(労働法)第2問
第2問「不当労働行為意思」★★★
「義務的交渉事項」★★★
 
 
 ●環境法
■公開:2017年05月24日/16:30
1 はじめに
      第1問は,土壌汚染対策法からの出題でした。設問1は,土壌汚染の中に人為起因汚染だけでなく自然起因汚染も含まれるのかを問うもので,問題文にある資料を活用しつつ,当事者双方の主張を上手く法的に構成する必要がありました。設問2は,土壌汚染が判明した場合の都道府県知事の対応を問う基本的な問題(小問(1))と,費用負担責任の分配を問うもの(小問(2))でした。
   第2問は,循環型社会形成推進基本法からの出題で,設問全てが法政策的問題でした。同法3条から7条までに定められている「基本原則」(同法9条かっこ書)を,問題文の事実に即して具体的に説明できるかを問うものです。勉強が手薄になる法律からの出題であり,現場思考が要求された問題だったといえます。
   本年は,損害賠償請求訴訟や行政事件訴訟などの,受験生に馴染みのある訴訟法的問題は出題されませんでした。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      買主Aとしては,本件が甲売買契約10条2項(以下「契約条項」という。)にいう「環境省の指定基準に適合しない土壌汚染があった場合……売主は汚染対策費用を買主に支払う」との文言に該当すると主張することになるでしょう。特定有害物質Pは土壌汚染対策法2条1項にいう「特定有害物質」にあたり,かつ,契約条項においては土壌汚染が自然由来か否かが問題とされていない以上,本件が契約条項の要件をみたすという主張です。
   売主Bとしては,契約締結当時,自然由来の有害物質は土壌汚染対策法の対象となっていなかった以上,自然由来のものについては契約条項の要件を満たさないと反論することになるでしょう。
   旧土壌汚染対策法は,環境基本法2条3項の「公害」の定義をうけて,自然由来の有害物質によって汚染された土壌を規制対象から除外していました。そして,通知の発出が甲売買契約の締結後であることから,甲売買契約は旧法を踏まえて締結されたと考えられ,契約条項も旧法の解釈に従うとするのが当事者の合理的な意思解釈と考えられます。したがって,Aの請求は認められないとするのが妥当でしょう。
   なお,本問において,【資料】にある通知は,あくまで土壌汚染対策法4章を適用するためのものであること及びPは,甲売買契約締結時,既に特定有害物質であったことを重視すれば,通知の発出が甲売買契約の締結後であっても,甲売買契約における土壌汚染にはPによる土壌汚染も含まれると解されます。この場合は,Bの反論は認められず,Aの請求が認められることになるでしょう。
2 設問2について
      小問(1)において,S県知事は,土壌汚染対策法6条1項の要措置区域の指定をしたうえで,同法7条1項本文の指示を受けるべき者を過失なく確知できないものとして,同条5項前段に基づいて自ら指示措置を講じることができます。
   小問(2)では,土壌汚染対策法8条1項本文が,措置を講じた所有者等が汚染者に対し除去費用を求償できると定めていることに着目する必要があります。同条同項は汚染者負担原則(PPP)のあらわれですから,問題文中の「第三者」が汚染者であることが明らかな場合には,上記原則に従い,Cに起因しない処理費用についてCが負担する理由はないといえます。他方,問題文中の「第三者」が汚染者であることが明らかではない場合には,同法7条1項本文に従い,状態責任を負う所有者等であるCが処理費用を負担すべきです。

〔第2問〕
1 設問1について
(1) 甲店の案は,バイキング方式の導入により廃棄食品の発生量を予め少なくするものであり,循環基本法5条にいう廃棄物等の発生抑制にあたります。発生抑制は事業活動のいわば「入口」の段階で廃棄物等を減らせる点で,最も優先順位の高い基本原則であり,いわゆる3Rのうちのreduceにあたるものです。
(2) 乙店の案は,本来廃棄されるべき食品を肥料に再利用するものであり,循環基本法2条6項,7条2号にいう「再生利用」にあたります。
(3) 丙店の案は,再生利用よりも循環的な利用方法としてやや劣るものの,熱エネルギーを回収するものであり,循環基本法2条7項,7条3号にいう「熱回収」にあたります。
2 設問2について
      循環基本法では,①発生抑制(5条),②再使用(7条1号),③再生利用(7条2号),④熱回収(7条3号),⑤適正処分(7条4号)の順に循環的な利用方法として優れたものとされています。
   乙店の案(Cの意見)は,より優れた方法である①を検討していない点で問題があります。同法第7条柱書にいう「技術的及び経済的に可能な範囲で」とは,事業者が可能な限りの努力を行うことを求める趣旨であるから,A社としては,甲店の案(①)の経営上の適否について積極的に検討する必要があるでしょう(飲食業の場合,調理に適さない食品や食べ残しをそのまま使用あるいは他の物の一部として使用することは考えにくいので,再使用(②)という選択肢は検討しなくてもよいと思われます)。
   また,乙店の案によれば,Bが廃棄することになる食品を堆肥にする費用を負担し,かつ,乙店への野菜の卸値を割り引くことになるので,乙店にとって有利な内容となっています。そこで,Bと乙店(A社)との間で「措置費用に要する費用が」「適正かつ公平に負担され」た(法4条)といえるかについても検討する必要があるでしょう。
3 設問3について
      事業者の責務は法11条各項に規定されているため,乙店,B及びD社の3者がそれぞれどういう事業者に当たるのかを確認する必要があります。
(1) 乙店は,料理という「製品……の販売等を行なう事業者」(法11条2項)に当たります。乙店は,循環資源となった廃棄食品をD社に譲ることで,D社の堆肥精製(「再生利用」(法2条6項)に当たる)を促進しているといえます。よって,乙店は,「循環的な利用が行われることを促進」するという責務(同条同項)を果たしています。また,「循環資源となったものを……引き渡」す責務(同条3項)も同時に果たしているといえるでしょう。こうした責務は,拡大生産者責任のあらわれといえます。
(2) D社は,肥料製造会社ですので,循環資源である廃棄食品の「循環的な利用を行うことができる事業者」(法11条4項)に当たります。D社は,堆肥の精製という「事業活動を行うに際して」,廃棄食品という「循環資源……を原材料として利用」(法2条6項)しており,「循環的な利用」の一つである再生利用(同条4項参照)を行う責務(法11条4項)を果たしているといえます。
(3) Bは,堆肥を利用して農業という事業活動を行っている者です。この堆肥は,廃棄食品を原料にして精製された「再生品」(法11条5項)に当たります。よって,Bは,農業を行うに際して「再生品を使用すること等により循環型社会の形成に自ら努める……責務」(同条同項)を果たしているといえます。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017選択科目集中答練第4回(環境法)第2問
「土壌汚染対策法の規制システムと汚染者負担原則」★★★
 
 
 ●国際関係法(公法系)
■公開:2017年05月24日/16:30
1 はじめに
      第1問は,国家承認及び国家承継に関する出題です。国連加盟を果たしていないコソボ,分離独立ではない北朝鮮,承認を受けていないイスラム国(IS)のいずれの状況とも異なる架空の事例といえますが,こうした現代の事象に対応する伝統的制度を再確認する問題となっています。
   第2問は,海洋法上の追跡権及び「速やかな釈放」制度に関する出題です。過去にも未来にも日本の国際法実務に関係する内容であり,六法に依拠して解答する実践的な問題です。いずれも難易度はそれほど高くなく,教科書レベルの知識でおおむね解答可能であったと考えられます。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      黙示的承認に関する問題です。国連加盟に賛成票を投じた場合,特段の留保がない限り黙示的な国家承認とみなされます(C国)。
   また,通商航海条約等の締結も,黙示的承認にあたると考えられます(D国)。多国間条約や技術的な事項にとどまる二国間条約の締結は黙示的承認にあたらない一方で,長期にわたり包括的事項を律する基本関係や通商に関する二国間条約の締結は黙示的承認となりえます。よって,C国もD国も,X国を承認し同国と国際法上の国家間関係を築いたといえます。
2 設問2について
      未承認国家の国連憲章上の地位に関する問題です。確かに,A国にとってX国は自国の一部であり,自国内であれば暴動鎮圧のために自国軍部隊を派遣することは原則として可能です。ただし,X国はすでに国連に加盟しています。A国は加盟に反対票を投じていますが,それでも加盟国の国連憲章上の地位と権限は否認しえないものと考えられます。とりわけ,国連憲章2条に規定される武力不行使原則や国内問題不干渉原則は,厳格に遵守することが求められます。小規模な軍部隊の派遣といえども,当該行為はこれらの原則に違反するものと考えられます。
3 設問3について
      ①国家承継及びタールヴェークの原則並びに②国家承認の撤回に関する問題です。国家の分離独立の場合は,先行国について有効であった条約は原則として承継国に承継されます(条約国家承継条約34条(の慣習法))。航行可能な水流の最深線を国境とするタールヴェークの原則は,カシキリ・セドゥドゥ島事件における英独条約などで承継が認められていますが,絶対的な原則ではありません。川岸に沿った線を国境とする条約も無効とはいえず,X国のタールヴェークの原則に基づく国境変更の主張は認められないものと考えられます。
   また,承認の撤回については,一般的に,事実上の承認の撤回は可能である一方で,法律上の承認の撤回はできないとされます。事実上の承認は,新国家の成立が確定的でなく不安定な状況下にある場合などに行われる暫定的な承認であり,特にそうした断りのないB国の通告は法律上の承認であるといえます。伝統的な議論に則れば,B国の承認は撤回できないことになりますが,政府承認の撤回や国交断絶の実行があること等に鑑みて,上記議論を踏まえつつも一歩進んで,国際法上違法ではないと解答することも可能であると考えられます。

〔第2問〕
1 設問1について
      追跡権に関する問題です。国連海洋法条約111条2項に基づき,排他的経済水域に適用される沿岸国の法令の違反がある場合には,沿岸国は追跡権を行使することができます。A国の公海上での拿捕行為は,73条1項に基づく法令遵守確保のために必要な措置であるといえます。そのため,当該行為は,追跡が中断なく継続すること等の追跡権の諸条件(2017年全国公開模試第2問解説参照)を充たす以上,合法的な措置であると考えられます。
2 設問2について
      国連海洋法条約上の紛争解決手続に関する問題であると考えられます。73条2項によれば,拿捕された船舶及びその乗組員は,合理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放されます。そのため,Y社の対応としては,保釈金を用意することが考えられますが,保釈金を支払っても釈放されないことや,A国から合理的な金額が提示されないことも考えられます。そのような場合,292条の手続に従って,締約国は速やかな釈放を求めて国際海洋法裁判所(ITLOS)等に訴えを提起することができます。また,サイガ号事件と同様に,速やかな釈放の裁判と並行して,沿岸国の管轄権行使(拿捕)そのものに対しても,286~288条の手続に則って訴訟提起することが可能と考えられます。
3 設問3について
      速やかな釈放及び国家責任の追及に関する問題です。国連海洋法条約73条3項によれば,排他的経済水域における漁業に関する法令に対する違反について沿岸国が科する罰には,関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めることはできず,また,その他のいかなる形態の身体刑も含めることはできません。A国による懲役6か月の実刑は,同項に違反するため,B国はA国に国家責任を追及することができます。この場合,原状回復として,実刑判決を取り消し,船長Xの釈放を請求するのが妥当であると考えられます。追加的に金銭賠償を検討してもよいでしょう。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017スタンダード論文答練(国際関係法〔公法系〕1)第1問
・2017選択科目集中答練第3回(国際関係法〔公法系〕)第1問
・2017選択科目集中答練第5回(国際関係法〔公法系〕)第2問
・2017選択科目集中答練第6回(国際関係法〔公法系〕)第2問
「武力不行使原則」★★★
・2017選択科目集中答練第1回(国際関係法〔公法系〕)第2問
「条約の承継と領域的制度」★★

〔第2問〕
・2017司法試験全国公開模試(国際関係法〔公法系〕)第1問
「追跡権行使の要件」★★★
・2017スタンダード論文答練(国際関係法〔公法系〕1)第2問
「海洋法条約の紛争解決」★
 
 
 ●国際関係法〔私法系〕
■公開:2017年05月25日/19:00
1 はじめに
      今年度の問題も,第1問が国際家族法に関する問題(50点),第2問が国際財産法に関する問題(50点)であり,その出題形式は,例年通りであったといえます。国際私法・国際民事手続法・国際取引法という区分によれば,今年度は,これら全ての分野からの出題があったといえるでしょう。
   昨年度と比べると,今年度の問題は難解と感じたかもしれません。ただ,問題を注意深く読んで考えると,出題意図や論点が明確にわかるように作問されております。もっとも,第1問の設問2は,教科書には直接の説明が少ない論点についての問いであり,その解答に苦労した受験生は少なくなかったのではないかと思われます。
 
2 問題文
      平成29年5月22日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら。
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
      まず,本件認知の実質的成立要件の準拠法は,法の適用に関する通則法29条,その方式の準拠法は,同法34条によって判断されることを指摘する必要があります。
   そして,前者と後者を分けて論じると説明しやすいでしょう。すなわち,認知の実質的成立要件の準拠法については,同法29条を説明した上で,本問では,本件認知は,子の本国法である乙国民法の要件を満たしているので,実質的成立要件については,乙国民法の適用が同法42条の公序条項に該当しない限り,有効であると結論すればよいでしょう。他方で,認知の方式の準拠法については,同法34条を説明した上で,本問では,本件認知は,行為地法である乙国民法に定める方式で行われているので,方式についても,乙国民法の適用が同法42条の公序条項に該当しない限り,有効であると結論すればよいでしょう。
   以上より,本件認知は,同法42条の公序条項に該当しない限り,日本で有効であると結論すればよいでしょう。
2 設問2について
      はじめに,認知無効の準拠法も法の適用に関する通則法29条によって判断されることを指摘する必要があります。
   その上で,次のような解答が考えられるでしょう。すなわち,まず,同条を認知無効に適用する際には,同条の選択的連結の趣旨から,①子の出生時の認知者の本国法,②認知時の認知者の本国法,③認知時の子の本国法の1つでも認知を無効としない場合には,その認知を無効とすることはできないと解されることになる旨を説明します。そして,これを本問に当てはめると,本問では,乙国民法によれば,Bによる認知無効請求は認められないことから,同条によれば,Bによる認知無効請求が認められないと結論することになります。しかし,最後に,Bによる認知無効請求を認めない乙国民法の適用が,同法42条の公序条項に該当するかどうについて検討することになります。
3 設問3について
      まず,扶養義務の準拠法は,原則として,法の適用に関する通則法ではなく(同法43条1項),扶養義務の準拠法に関する法律によって判断される(同法律1条)ことを指摘する必要があります。
   その上で,本問の論点となる同法律2条1項と3条1項の適用について丁寧に説明する必要があります。特に,同法律2条1項と3条1項の条文では,「同一」本国法ではなく,「共通本国法」という語が用いられていることに注意する必要があります。

〔第2問〕
1 設問1 小問1について
      まず,本件運送契約に「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(本件条約)が適用されることになることを同条約1条に当てはめて丁寧に説明する必要があります。その上で,同条約33条1項と49条を挙げて,同条約では,同条約33条1項の規定を変更するような管轄合意は認められないことを説明する必要があります。同条約33条1項と49条の趣旨(本問のように非締約国の裁判所を専属管轄裁判所とする場合に生じる問題を避けるためである等)も,挙げるとよいでしょう。
2 設問1 小問2について
      日本に訴えが提起された際に,原被告が逆転した同一事件が既に外国(本問では,甲国)で提起されている場合,日本に提起された訴えを日本の裁判所がどのように取り扱うべきかを問うのが本問であり,本問は,国際訴訟競合をどのように処理すべきかを問うものです。承認予測説やプロパーフォーラム説等の見解を挙げ,自説を論じればよいでしょう。
3 設問2について
      本問は,保険代位の準拠法を問うものです。保険代位の準拠法を独立して定める規定は存在しないことを指摘した上で,保険契約の準拠法による見解と,債権譲渡と同様に,債務者その者の第三者に対する効力については,法の適用に関する通則法23条を準用すると考える見解等を挙げ,自説を論じればよいでしょう。
 
4 的中情報★★★
〔第1問〕
・2017選択科目集中答練第5回(国際関係法〔私法系〕)第1問
「非嫡出親子関係の準拠法決定」★★

〔第2問〕
・2017スタンダード論文答練(国際関係法〔私法系〕1)第2問
「国際的訴訟競合」★★★
・2017選択科目集中答練第3回(国際関係法〔私法系〕)第2問
「保険代位」★★★

 
 
 
 
 
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