2020年司法試験本試験 速報

■INDEX
①論文式試験【公法系】 ・第1問(憲法) 公開 9/11 14:40 NEW
・第2問(行政法) 公開 9/11 16:50 NEW
②論文式試験【民事系】 ・第1問(民法) 公開 9/15 12:00 NEW
・第2問(商法) 公開 9/15 14:00 NEW
・第3問(民事訴訟法) 公開 9/15 16:00 NEW
③論文式試験(刑事系) ・第1問(刑法) 公開 9/17 16:20 NEW
・第2問(刑事訴訟法) 公開 9/15 17:00 NEW
④論文式試験【選択科目】 ・倒産法 公開 9/2 14:30
・租税法 公開 9/4 14:30
・経済法 公開 9/4 16:45
・知的財産法 公開 9/2 14:30
・労働法 公開 9/2 14:30
・環境法 公開 9/2 14:30
・国際関係法(公法系) 公開 9/4 17:30
・国際関係法(私法系) 公開 9/2 14:30
●第1問 憲法

■公開:2020年09月11日/14:40

1 はじめに
 今年の公法系科目第1問(憲法)は,「持続可能な地域交通システム法(仮称)」の制定を目指す議員連盟(以下「議連」という。)が発足し,規制①及び②の内容として議連で検討されている法律案の骨子【別添資料】について,議連の担当者Xは,法律家甲に相談した。その際の甲とXとのやり取りの後に,設問として,「あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして,規制①及び②の憲法適合性について論じなさい。なお,その際には,必要に応じて,参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。」との設問に答えるものです。営業の自由,職業選択の自由,移動の自由などのテーマにつき,平成30年新形式で問われています。
 まず,問題文は,5頁(実質的には4頁)であり,5頁目に「【別添資料】持続可能な地域交通システム法(仮称)の骨子」が掲載されています。
 また,難易度は,全体として基本的な知識・理解を問うていることから,平年並みかと思われます。
 なお,本問の事案は,あまり憲法学的な学術論文が少ないところ,可児紀夫「地域交通における交通権の保障と国の役割―交通基本法(草案)の提案―」立命館経営学47巻5号P.339~364が若干参考になります。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験公法系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

第1 前提
 本問は,超党派の議員連盟により制定されようとしている「持続可能な地域交通システム法(仮称)」(以下「法」という。)に関する規制①及び規制②の憲法適合性について,法律家甲の立場で検討することが求められている問題です。
 また,検討の際に,「参考とすべき判例」や「自己の見解と異なる立場」について必要に応じて言及することが求められている点は,昨年の出題と同様です。
 さらに,法は検討段階の制定前の状態にあることから,適用違憲や処分違憲を論じることはできず,法令違憲のみを論じることになります。
 そうしますと,答案構成の大枠は,規制①の合憲性と規制②の合憲性に大きく分かれ,それぞれの憲法適合性の検討の中で,必要に応じて,「参考とすべき判例」や「自己の見解と異なる立場」について論じることになります。また,本問では,【別添資料】として法の骨子が掲載されているので,問題となる条文をピックアップして具体的に法令違憲の検討をすることが求められているといえるでしょう。

第2 規制①の憲法適合性

1 規制①は,高速路線バスの運行を生活路線バスを運行する乗合バス事業者にのみ認めることを内容とするものであり,これは法の骨子第3の1に規定されています。また,規制①は,生活路線バスへの新規参入は,既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業者の経営の安定を害さない場合に限り認めることをも内容とするところ,これは法の骨子第4に規定されています。したがって,規制①に関しては,法の骨子第3及び第4について法令違憲の検討をすることになるでしょう。
 そして,法の骨子第3及び第4は,バス事業者が,乗合バス事業や貸切バス事業,高速路線バス事業や生活路線バス事業等のいかなる事業形態でバス事業を展開するかについての自由,すなわちバス事業者の営業の自由に制約を加える規制といえます。
 そこで,法の骨子第3及び第4の憲法適合性が,営業の自由という憲法上の権利との関係で問題となります。

2 保護範囲の検討
 憲法22条1項は,「職業選択の自由」のみならず,選択した職業を継続する自由をも保障すると解釈されています。したがって,バス事業者の営業の自由は,憲法22条1項で保障されます。

3 制約の有無
 前述のごとく,法の骨子第3及び第4は,高速路線バスの運行や生活路線バスの運行を国土交通大臣の許可に係らしめているので,バス事業者の営業の自由を制約しているといえます。

4 正当化
 
⑴ 審査基準の設定

ア 規制目的二分論
 営業の自由(や職業選択の自由)の規制については,消極・積極目的二分論という考え方があります。国民の健康・安全を守るという消極目的の場合には,厳格な合理性の基準を,経済政策・社会政策を実現するという積極目的の場合には,明白性の基準をそれぞれ設定するというものです。この規制目的二分論については,小売市場距離制限事件及び薬局距離制限事件の判例で展開され,学説でも広く支持されてきました。
 もっとも,経済的自由の規制態様は様々であり,消極目的や積極目的のいずれにも分類することが困難な規制態様が数多く存在するのが現状です。そこで,近年では,規制目的二分論を否定する見解も有力であり,判例も公衆浴場距離制限事件,酒類販売免許制事件,司法書士法違反事件など様々に展開しています。
 本問では,法の骨子第1に「この法律は,公共交通の維持・拡充や交通渋滞の緩和を図ることにより,地域における住民の移動手段を確保すること」という目的が示されています。また,問題文には「地域の生活路線バスに依存する高齢者や高校生等にとって,不可欠の移動手段を奪い,日常生活に極めて大きな支障をもたらす」「高齢者の運転ミスによる人身事故の発生が続いている状況にもかかわらず,免許返納が進まない一因」との記述や,甲とXとのやり取りでの「地方の高齢者や高校生等の移動手段をどう確保するか」「地域の移動手段である生活路線バスを運行する事業者の収益を改善して,これ以上の路線廃止や減便が起こらないようにし,可能であれば,増便を促すなどして利便性が向上すれば」よいといった発言もあります。受験生としては,上記判例を念頭に,事情をいかに評価していかなる目的に位置付けるのか,複合的な目的を認めたとして,これをどう処理するのか等について,自らの立場を明らかにすることが求められているといえます。

イ 規制態様
 経済的自由の規制類型は,届出制(理容業等),許可制(風俗営業,飲食業,貸金業等),資格制(医師,弁護士等)などがあり,規制の強さに違いがあります。本問では,法の骨子第3や第4は国土交通大臣の 「許可」を要求しており,素直に許可制と位置付けることができると思われます。
 許可制と位置付けるのであれば,厳格審査を導く根拠となるでしょう。

ウ 権利の性質
 前述の薬局距離制限事件では,営業の自由(や職業選択の自由)に人格的価値という重要な価値を認めています。
 「重要な価値を持つ権利は手厚い保障がなされるべきことからすると,営業の自由の人格的価値は厳格審査を導く根拠となるでしょう。
 

⑵ あてはめ

ア 具体的な検討は,各自が設定した審査基準により異なりますが,以下では,目的及び手段の関連性・相当性についてコメントします。

イ 法の骨子第3の1・第4について
 法の骨子第3の1は,生活路線バスに参入しないと高速路線バス運行ができないと規定しているので,高速専業の乗合バス事業者にとっては死活問題となります。しかし,生活路線バス用の車両購入や営業所の設置・維持,運転手の再教育等のコストを考慮すると,高速路線バスとは異なり高収益が見込めない生活路線バスへの参入は,コスト面において簡単ではありません。
 また,かりにコストの問題がクリアできたとしても,法の骨子第4による参入要件により,高収益路線ではなく,既存の生活路線バスすら運行していない低収益路線でしか許可されないとすれば,実質的には高速バス事業を行う方法が閉ざされることになります。

ウ 法の骨子第3の2について
 確かに,生活路線バスに参入しなかった,あるいは,参入できなかった事業者であっても,貸切バス事業に転業した上で,生活路線バスを運行する乗合バス事業者から高速バス運行を受託することで,高速路線バス事業を行う余地があるため,過度な制約とはいえないとも考えられます。
 しかし,高速バス運行事業で採算を取ることができないような低価格でしか事業の受託ができないのであれば,実質的には高速バス事業を行う方法が閉ざされることになります。

エ 以上のような考え方からすると,法の骨子第3及び第4は,過度な制約であり,相当性に欠けることになるでしょう。
 もっとも,合憲との評価も可能です。いずれの結論にせよ,結論それ自体ではなく,問題文の記述をヒントに,本問の事情を具体的に評価し当てはめることが重要です。

第3 規制②の憲法適合性

1 規制②は,特定区域の特定時間帯における域外からの自家用車の乗り入れを原則禁止するものであり,これは法の骨子第5に規定されています。したがって,規制②に関しては,法の骨子第5について法令違憲の検討をすることになるでしょう。
 そして,法の骨子第5は,地域及び時間帯を問わず自由に自家用乗用自動車で走行できる自由,すなわち移動の自由に制約を加える規制です。
 そこで,法の骨子第5の憲法適合性が,移動の自由という憲法上の権利との関係で問題となります。

2 保護範囲の検討
 憲法22条1項は,「移転・・・の自由」を保障しています。そこで,自家用乗用自動車での移動の自由は,憲法22条1項で保障されます。

3 制約の有無
 前述のごとく,法の骨子第5は,特定区域について,時間帯を定めて自家用乗用自動車での通行を原則禁止としているので,自家用乗用自動車での移動の自由を制約しているといえます。

4 正当化
 
⑴ 審査基準の設定

ア 規制態様
 規制態様は,休日・祝日及び通勤・通学時間帯における,観光地や住宅密集地について,自家用車での移動を禁止するものであり,時・場所・規制対象に絞りをかけた規制態様となっています。これは,全面的な一律規制と比べると,緩やかな規制であり,緩やかな審査基準の設定根拠となります。
 他方,法の骨子第5の2には罰則規定が設けられていることからすると,規制態様が強いとの評価が可能であり,厳格審査基準の設定根拠となり得ます。

イ 権利の性質
 移動の自由は,資本主義経済体制を支える自由として,経済的自由に属する権利である。表現の自由を中心とする精神的自由を規制する立法の合憲性は,経済的自由を規制する立法よりも厳格な基準で審査するとする二重の基準の理論からすると,緩やかな基準を設定する根拠となります。
 もっとも,観光地における移動の自由は,知的な接触の機会を得るために必要といえるので,精神的自由の要素が認められます。この点を強調すれば,厳格な基準を設定する根拠となるでしょう。

⑵ あてはめ

ア 具体的な検討は,各自が設定した審査基準により異なりますが,以下では,目的及び手段の関連性・相当性についてコメントします。

イ 目的について
 甲とXとのやり取りでは,「渋滞によって住民の自家用車やバスによる移動が著しく困難になる」「道路の拡幅もできず,歩くのも危ないし緊急車両の通行もままならないということで,住民の不安も高まっています」とあります。これらの目的について,各人の設定した審査基準に従い,「正当である」・「必要不可欠である」などと評価してあてはめることになるでしょう。

ウ 関連性について
 甲とXとのやり取りでは,「渋滞の原因は観光バス等にもあるから,自家用車のみを規制してもあまり意味がない」とあり,法の骨子第5が交通渋滞の解消や住民の安全の確保にどの程度実効性があるのかについて疑問符が付きます。
 また,法の骨子第5の1では,当該区域の住民が乗車している場合には規制対象外となるところ,乗車者が当該区域の住民であるか否かについて,いかなる方法で見分けるのかといったことからも,実効性に疑問が生じます。

エ 相当性について
 規制区域について「最大でも混雑がひどい数平方キロメートル」,時間帯については「観光地では週末や休日の午前9時から午後5時くらい,住宅密集地では通勤・通学の時間帯」が想定されていることについて,評価し,各自の審査基準にあてはめる必要があります。
 また,個人の手足となる自家用車について規制されること,その一方で,自家用車以外のバスやタクシーの公共交通機関での移動や徒歩での移動などについては規制されていないことについても評価し,あてはめる必要があるでしょう。
 さらに,法の骨子第5の2が罰則を規定していることについて,過料という刑の存在自体や,5000円以下という金額についても検討を加えるべきです。

第4 その他

 本問において,とりわけ規制②について,平等権について論じることは,論理的にありえないことではありません。しかし,これまで検討したように,規制①については営業(職業選択)の自由が,規制②については移動の自由がそれぞれ問題となり,これについて相当程度の議論ができる以上,あえて平等権を持ち出す必要はなく,少なくともメイン論点にはならないと考えます。

4 的中情報★★★

・2020 スタンダード論文答練 (第1クール)公法系1第1問(辰已専任講師・弁護士 本多諭先生ご担当)
「営業の自由の規制の違憲審査基準」ズバリ的中★★
経済的自由権に関しては,一部の考査委員の関心分野であり,出題の周期性をも考慮して,今年の本試験で出題可能性が高いと判断して出題致しました。

●第2問 行政法

■公開:2020年09月11日/16:50

1 はじめに
 今年の公法系科目第2問(行政法)は,農地の転用に関する事例のもと,処分性,不作為の違法確認訴訟の訴訟要件等について検討させる出題でした。
 まず,〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点の割合は,「45:30:25」と問題文冒頭に記載されています。また,問題文の頁数は8頁(実質7頁)で,頁数自体は昨年と同様ですが,内容量は若干増加しています。
 また,出題内容としては,農業振興地域の整備に関する法律の仕組みの理解を前提に,計画変更ないし申出拒絶行為の処分性の有無,不作為の違法確認訴訟の成立要件,及び申出拒絶行為の違法事由を問うものでした。取消訴訟の訴訟要件のうち,最もポピュラーな処分性の有無の検討がメインとなりますが,限られた時間内で複雑な法構造を読み解く必要があること,そして不作為の違法確認訴訟というこれまで扱われることがなかった訴訟での検討ということで,全体的に少し難易度が高かったといえます。なんにせよ,問題文で示された事実を丁寧に拾い上げることが求められます。
 さらに,本問の素材裁判例として,津地判平29.1.26(平26年(行ウ)第16号,異議申立却下決定取消請求事件),その控訴審判決である名古屋高判平29.8.9(平29(行コ)第23号,異議申立却下決定取消請求控訴事件),さいたま地判平20.2.27(平18年(行ウ)第34号,農用地区域からの除外申出拒否処分取消等請求事件)等があります。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験公法系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔設問1〕⑴(配点45点)

  本問では,農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)に基づき,市町村が策定する農用地利用計画を変更すること及びその申出を拒絶することが,処分に該当するか否かを検討するよう求められています。
 農振法に基づき,都道府県は農業振興地域の区域を指定し,その区域を含む市町村は,農業振興地域整備計画を策定することになります(農振法第8条第1項)。そして,当該計画には,農用地等として利用すべき土地の区域(農用地区域)及び区域内にある土地の農業上の用途区分(以下あわせて「農用地利用計画」という。)を定めるものとされます(同条第2項第1号)。この点,農地の転用には都道府県知事の許可が必要となりますが,農用地区域内の農地については農地以外の転用を許可することができなくなります(農地法第4条第6項第1号イ)。本件農地は,B市の定める本件計画たる農用地利用計画において,農用地区域内の農地に指定されていることから,本件農地の転用の申請をしても許可を受けられない状態にあります。そこで,Xは,本件農地を農用地区域から除外する農業振興地域整備計画の変更(同法第13条第1項)を求める申出を行いますが,B市は受取りを拒否し,申出書を返送してきました。
 以上を踏まえて,本問においては,①本件計画の変更と②申出の拒絶が,それぞれ「処分その他公権力の行使」(行訴法第3条第2項)に該当する,すなわち「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最判昭39.10.29民集18-8-1809 行政判例百選Ⅱ(第7版)148事件)に該当するかどうかを検討することになります。
 ①について,都市計画法に基づく用途地域の指定に関し,判例は「地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し,その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できないが,かかる効果は,あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず,このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして,これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。」としています(最判昭57.4.22民集36-4-705 行政判例百選Ⅱ(第7版)153事件)。B市からは農用地区域の指定がこれと同様のものであるとする主張が想定されます。他方,農地が農用地区域に指定されることにより,上記のとおり農地転用ができなくなること,農用地区域での開発行為には都道府県知事の許可が必要となること(農振法第15条の2第1項),農用地利用計画において指定された用途以外への転用許可が受けられなくなること(同法第17条),指定された用途以外の土地利用について指定された用途に供すべき旨の勧告を受け,これに従わない場合には,市長村長の指定を受けた者と土地所有権の移転等について協議すべき旨の勧告を受けること(同法第14条),さらに,協議が調わない場合等には都道府県知事による調停に付されること(同法第15条)等の制約を受けることになります。そこで,都市計画法に基づく用途地域の指定とは異なり,農用地区域の指定による上記の効果が,農地所有者の権利義務に直接的かつ具体的な影響を与えるものであること,そして,計画の変更(農用地区域からの除外)がこのような制約を個別的に解除するものであることから,処分に該当することを示すことになります。
 ②について,B市からは,計画変更の申出が,単なる職権発動を促すものに過ぎないとの主張が想定されます。他方で,農地の転用を希望するならば計画の変更によるしかありませんが,個別の土地の農用地区域からの除外を職権によって行うことは困難であり,実務上もその変更の判断には農地所有者等からの申出が不可欠とされます(会議録参照)。実際,本件運用指針は,農用地利用計画の変更の申出と変更の可否に関する申出人への通知を定めています(本件運用指針第4条)。ここから,農地利用計画の変更は,農地所有者等からの申出という意思の発動を契機として行われる運用がなされており,申請人への通知は申出への応答とみることができます。また,申出により計画が変更された旨の通知は,上記の制限を個別的に解除し,農地の転用を可能とする効果を有するものです。そのため,農振法には申請権を認める明文の規定はありませんが,申出が単なる計画変更についての職権発動を促すものではなく,申請権に基づき上記のような個別的な制限の解除を求めるものであると解し,申出の拒絶には処分性が認められることを示すことになります。
 ここで,農用地区域からの除外が認められなかった場合,その後になされた農地転用許可の申請に対する不許可処分に対して取消訴訟を提起し,そこで前提問題として農業振興地域整備計画中の農用地利用計画の変更又は不変更の違法性を争い,それらが違法と認定された場合に,当該土地を農用地区域から除外させることも考えられます。しかし,Xは本件農地の一部を転用して,そこに長男のために医院を建築するという具体的な建築意思を有している一方で,上記の通りの制約は,Xにとって現実的かつ具体的なものであることから,この段階で紛争の成熟性が十分に認められるでしょう。なお,農地転用の不許可処分を争う場合,被告は都道府県となりますが,計画変更の権限を有するのは市町村です。この点,そもそも違法性の承継が認められるかどうかの問題もあります。加えて,確かに,農地利用計画の策定の際は,都道府県知事と協議し(農振法第8条第4項),計画の変更時には県と事前協議をすることになりますが(本件運用指針第4条第3項),計画の変更又は不変更について第三者である都道府県では有効な攻撃防御を行うことはできません。実効的な権利救済という観点からも,計画変更そのものを処分として争う方が便宜といえるでしょう。

 
〔設問1〕⑵(配点30点)

  本問では,⑴で検討した本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であることを前提に,本件申出書を返送されたXが提起すべき「抗告訴訟」と,その訴訟要件及び本案での主張を検討するよう求められています。ここで,Xに対しては申出の拒否処分はされていないものとされ,義務付けの訴えについては検討から除外されています。つまり,申出に対する何らかの応答(処分)がなされていない状態にあるわけですが,この段階で選択しうる抗告訴訟としては,義務付けの訴えのほかは不作為の違法確認訴訟がありますので,この点から検討を加えることが求められていることになります。
 不作為の違法確認の訴えは「行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての違法の確認を求める訴訟」です(行訴法第3条第5項)。そして,この訴訟における審理の対象は,①申請が法令に基づくものであるかどうか,そして②行政庁が相当の期間内に処分をしなかったかどうか,の2点です。なお,①は訴訟要件であると解されています(塩野宏『行政法Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣 2019年)(以下「塩野行政法Ⅱ」という。)241頁)。
 ①について,「法令に基づく申請」とは,法令上申請をすることができる旨の明文の規定がある場合に限られず,法令の解釈上,申請権が認められる場合も含むとするのが判例・通説です(高橋滋ほか編『条解 行政事件訴訟法〔第4版〕』(弘文堂 2014年)(以下「条解」という。)735頁)。〔設問1〕⑴で検討したとおり,農振法は明文で申請権を認めているわけではありませんが,解釈上,申請権が導かれるため,Xは本件運用指針に基づく本件申出書の提出により,法令に基づく申請を行ったものと解されます。
 ②について,一般的に,相当の期間の経過の有無は,処分をなすのに通常必要とする期間を基準として判断して,通常の所要期間を経過した場合には原則として違法となり,ただそれを正当とするような特段の事情がある場合には違法とはされないものと解されます(塩野行政法Ⅱ・241頁)。Xは,令和元年5月8日に窓口で本件申出書を提出しようとしたところ,受け取りを拒否されたため,郵送に切り替え,同月10日に本件申出書は担当課のもとに到達していました。この点,行政庁が申請の受理を拒否したり,返戻したりした場合は,申請者の意思が行政庁に到達している限り申請行為があったと解されます(条解・95頁)。加えて,Xは申出を取り下げる意思がないことも伝えています。
 農用地区域からの除外には1年程度を要する旨が公表されていますが(会議録参照),Xは,上記申出から1年を経過した令和2年5月中旬となっても,B市からの通知を受け取っておりません。本来,申請が到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず,申請書の記載事項に不備があるならば補正を求めるか,申請を拒否しなければなりませんが(行手法第7条),そのような対応(つまり通知)を行っておらず,それを正当化する特段の事情も見られません。実際,同時期に申出を行った他の農地所有者については,1年未満に通知がなされているようです(会議録参照)。そのため,行政庁たるB市長が,合理的な理由もなく相当の期間内に処分をしなかったと主張することになるでしょう。

 
〔設問2〕(配点25点)

  本問では,B市側がXによる申出を拒絶する旨の通知をし,Xがこれに対する取消訴訟を提起した場合に,訴訟要件を充足していることを前提として,本案においてXが主張しうる違法事由(ただし手続的違法の主張は除く)を検討することが求められています。
 本件農地を含む区域においては,土地改良事業として農業用の用排水施設の改修事業(本件事業)が行われ,全体としては平成30年12月に完了していました。そのため,B市担当職員の回答としては,本件農地は,農用地利用計画に定めなければならない土地改良事業等の施行に係る区域内の土地(農振法第10条第3項第2号,農振法施行規則第4条の3第1号イ)に該当し,その結果,農用地区域から除外するための要件として,事業の工事が完了した年度の翌年度の初日から起算して8年が経過した土地であることが必要とされますが(農振法第13条第2項第5号,農振法施行令第9条),未だその期間が経過しておらず,農用地区域から除外することができないというものでした。
 この点,会議録によれば,①本件農地が農振法第13条第2項第5号の「第10条第3項第2号に掲げる土地」に該当しないこと,そして②該当するとしても,農振法施行令に定める期間を経過している,あるいは期間を柔軟に解すべきことを検討することになります。
 ①について,農振法第10条第3項第2号の農林水産省令で定める事業からは,主として農用地の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないものが除外されます(農振法施行規則第4条の3第1号括弧書)し,また農業用用排水施設の新設又は変更にあっては,当該事業の施行によって農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれないときも除外されます(同号イ)。会議録によれば,本件事業は大雨時の農地の冠水防止を主たる目的とするものであり,また,本件農地が高台にあるために,本件事業の恩恵をほとんど受けていないとのことでした。そのため,本件土地は,農振法第10条第3項第2号に定める土地に該当せず,また,そう解したとしても「農業の健全な発展を図るため…農業の近代化のための必要な条件をそなえた農業地域を保全し及び形成すること並びに当該農業地域について農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進すること」(農振法第2条)を阻害するものとはいえないことが主張できます。さらに,Xは,近隣の農家の強い要望を踏まえ,医院の開設のために本件農地の転用を求めていたわけですから,本件農地を本件計画から除外したとしても,上記の目的を損なうことはなく,むしろそれに資するものといえそうです。
 そのため,B市による判断(申出の拒絶行為)が,「その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合」(最判平18.11.2民集60-9-3249,行政判例百選Ⅰ(第7版)75事件)に該当するとして,裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であると主張することになります。
 ②について,農振法第13条第2項第5号は,土地改良事業という公共投資により得られる効用の確保を図るための措置を定め,これを受けて農振法施行令第9条では,対象となる土地について,工事完了年度の翌年度の初日から起算して8年間は農用地としての利用を強制するものとしています。他方で,上記の通り,本件農地に関しては,本件事業の恩恵をほとんど受けてはおりませんでした。そのため,公共投資による効用を得ていないものとして,工事が終了してから8年が経過していなくとも,除外を認めるべきことが主張できそうです。また,公共投資による効用を得ているとしても,平成20年末頃には本件農地を直接の受益地とする上流部分についての工事は完了しているため,当該地域については既に8年を経過しています。これに対して,一律に事業全体の工事が完了したことによって除外を認めるか否かが決せられるのは上記の趣旨からも均衡を欠くといえるでしょう。

 
4 的中情報★★★

・スタ論【スタート】2020 行政法1(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
「処分性」「行政裁量」ズバリ的中★★
 本問と個別の事案は異なるものの,処分性と行政裁量について正面から問うており,受講生の方には非常に有利であったものと思われます。

●第1問 民法

■公開:2020年09月15日/12:00

1 はじめに
 今年の民事系科目第1問(民法)は,債務不履行(契約不適合責任),債権譲渡(設問1),相隣関係,通行地役権,契約の解除(設問2),日常家事債務の連帯責任,無権代理と相続(設問3)など,財産法の主要テーマや親族相続法と財産法との交錯領域から出題されました。債権法,物権法,親族相続法と民法全体をバランスよく問うています(ちなみに,令和2年司法試験考査委員(出題委員)の民法の学者委員の研究領域も,上記のようにバランスよく分かれているように思われます。)。
 問題文は,5頁(実質的には4頁)であり,5頁目に設問2に関する(別紙図面)が掲載されています。また,設問1から設問3までの配点の割合は40:25:35と問題文冒頭に明記されております。そして,設問2は,配点が少ないのに2つの小問に分けられています。
 なお,難易度は,設問2小問⑵が非常に難しいものの,全体として基本的な知識・理解を問うていることから,平年並みかと思われます。
 また,本問や令和2年司法試験及び予備試験の短答式試験民法では,司法試験委員会の予告通り平成29年民法(債権法)改正に関する知識が問われました。もっとも,問われたのは,下記の法務省HP掲載の法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」で取り上げられているテーマが中心です。したがって,今後の改正法への対策としては,当該資料を参考にして基本的な事項を押さえた上で,定評のある基本書を必要に応じて読むのがよいと思います。
 
 ・民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験民事系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔設問1〕(配点40点)

1 本問では,AB間の甲土地及び乙建物の売買契約(契約①)において,乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることが合意の内容とされていたにもかかわらず,乙建物には契約①において合意された防音性能が備えられていませんでした。そこで,契約①に基づく残代金債権5000万円をAから譲り受けたCの支払請求に対し,Bは,乙建物に住み続けることを前提に,その支払額を少なくするため,契約①に基づくBの主張として,①契約不適合に基づく売主の担保責任として代金減額請求権(民法(以下,法令名省略。)563条1項)及び②損害賠償請求権(564条,415条1項)を主張することが考えられます。

 2 ①代金減額請求について

 Bは,乙建物の「品質」の契約不適合に基づく代金減額請求(563条1項)ができることをCに対して主張することができるでしょうか。

⑴ まず,BにAに対する代金減額請求権が発生するでしょうか。
 契約不適合とは,引き渡された目的物が,種類,品質又は数量に関して,契約の内容に適合しないこと(562条1項)及び移転された権利が契約の内容に適合しないこと(565条)をいいます。本問では,乙建物は,契約①で予定された性能である特に優れた防音性能を備えていませんので,品質に関する契約不適合があるといえます。
 この場合,買主は,相当期間を定めて売主に履行の追完を催告し,その期間内に追完がないときは,契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(563条1項)。本問では,Bは,Aに対し,【事実】6で履行の追完を催告し,Aからの応答がないまま相当期間が経過しているといえます。
 また,買主Bが品質に関する契約不適合があったことを知った令和2年10月10日から「1年以内」に売主Aに対してその旨の「通知」がなされています(566条)。
したがって,BにはAに対する代金減額請求権が発生するといえるでしょう。

⑵ 次に,Bは,代金減額請求権をCに対して主張することができるでしょうか。
 債務者は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができます(468条1項)。
 本問では,契約①で合意された防音性能を備えていないことが判明したのは,債権譲渡通知がBに到達したよりも後です。しかし,【事実】4から,近隣住民から苦情を申し立てられた際に,以前Aとの間でも騒音トラブルがあったと言われたことから,契約①の時点で既に上記防音性能を備えていなかったといえます。そこで,契約不適合が通知前に発生していたといえ,代金減額請求権を抗弁事由として,譲受人に対抗することができるといえるでしょう。
 よって,Bの主張は認められるでしょう。

 3 ②損害賠償請求について

 Bは,債務不履行による損害賠償請求権(564条,415条1項)を自働債権として,CのBに対する残代金債権と相殺(505条1項)することができると主張できるでしょうか。

⑴ まず,BにはAに対する損害賠償請求権が発生しているでしょうか。
 買主は,売主に対し,契約不適合によって被った損害の賠償を請求することができます(564条,415条1項)。代金減額がされた場合も,なお買主に損害があれば,損害賠償請求権が認められる可能性があります。
 契約不適合に基づく売主の責任は,債務不履行責任の一種ですから,損害賠償請求権の要件などについては,債務不履行による損害賠償に関する一般的な規律が妥当します。そのため,契約不適合が債務者たる売主の責めに帰することができない事由によるものである場合には,損害賠償請求権が発生しません(415条1項ただし書)。
 本問では,【事実】4から,Aは,乙建物が契約①において合意された特に優れた防音性能を備えていないことを知っていながらBと契約①を締結していたといえますので,Aには帰責事由が認められ,Bの損害賠償請求権は発生しているといえるでしょう。
 そして,505条の相殺の要件も満たしますので,相殺の主張自体は認められるでしょう。

⑵ 次に,Bは,Aに有する損害賠償請求権を自働債権とする相殺(505条1項)をCに対して主張することができるでしょうか。Bが損害賠償請求権を取得したといえるのは,早くともBに損害が発生したと認められる令和2年10月10日であり,Cへの債権譲渡の対抗要件が具備された後ですが(469条2項柱書),「前の原因に基づいて生じた」(同項1号)といえるかが問題になります。
 469条2項各号が対抗要件具備後の一定の場合に譲渡人に対する債権を自働債権とする相殺を認めた趣旨は,相殺への期待権の保護にあります。そうすると,「前の原因に基づいて生じた」といえるか否かは,相殺への正当な期待が生ずべき場面か否かで決するべきであるといえるでしょう。
 本問では,Bが取得した損害賠償請求権は,債権譲渡の対抗要件である通知の前である契約①の段階で存していた契約不適合を原因として生じるものです。そうすると,実際にBに損害が発生した時期にかかわらず,修補に代わる損害賠償請求は,実質的には代金の減額と同様の機能を果たしますので,相殺されることが予定されているものといえ,相殺への正当な期待が生ずべき場面といえるでしょう。したがって,「前の原因に基づいて生じた」といえるでしょう。
 よって,Bの主張は認められるでしょう。

 
〔設問2〕(配点25点)
 
 1 小問⑴

 「c部分,少なくともそのうちのa部分については,Bは,Dによる地役権の設定がなくても通行する権利がある」とのBの発言は,正当であると認められるでしょうか。

⑴ 213条1項に基づく請求
 丙土地の「分割によって公道に通じない土地」である甲土地が生じたといえることから,甲土地の所有者Bは,213条1項に基づき,「公道に至るため」,他の分割者であるDの所有地である丙土地のみを無償で通行することができます。
 では,「公道に至るため」として通行権が認められるのは,どの範囲でしょうか。
 213条1項に基づく通行権は,他の分割者の所有地の利用を制限するものですので,その範囲は限定的に解されるのが通常です。具体的には,公道に至るための徒歩による通行を可能とする範囲に限ると解釈することができるでしょう。
 本問では,少なくともc部分のうちのa部分については,Bが公道に至るための徒歩での通行路といえますので,Bの発言は正当であると認められるでしょう。それに対して,b部分については,Bが公道に至るための自動車による通行を前提としていますので,その範囲を超えており,Bの発言は正当であるとは認められないでしょう。

⑵ 210条に基づく請求【この項目は,必須事項ではないと思われます。】
 b部分についても通行権は,認められないでしょうか。⑴で検討したように,213条1項に基づいては自動車による通行を前提とするb部分の通行権は認められないでしょうから,210条1項所定の車両の通行を内容とする隣地通行権が認められるかが問題となります。
 この問題について,自動車による通行を前提とする210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容を判断するために考慮すべき事情について判示した最判平18.3.16民集60-3-735は,自動車による通行を前提とする210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容は,公道に至るため他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,上記通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきであると判示しています。その理由として,判例は,現代社会においては,自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面,自動車による通行を認めると,一般に,他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上,自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができないことを挙げます。
 本問では,甲土地は鉄道駅から徒歩圏内にあり,Bが自動車を利用する必要性が高いとはいえないこと,c部分は幅3メートルと広く,Dが被る不利益が相当程度大きいと認められることなどを重視すれば,c部分のうちb部分については210条所定の通行権は認められず,Bの発言は正当であるとは認められないでしょう。

 2 小問⑵

⑴ Bについて
 Bは,地役権設定契約によって設定者が債務を負うことはなく,Dは地役権設定契約である契約②によって債務を負っていない以上,解除をすることはできないと発言しています。
 この発言から,Bは,地役権設定契約の性質について,土地の便益のために他人の土地を利用することを内容とする物権を設定する契約と捉えているといえるでしょう。
 また,契約②の債権債務関係については,地役権者Bは承役地を使用することができ,設定者Dは地役権者Bの通行を妨げない消極的義務を負うにすぎないと考えているといえるでしょう。そして,対価支払の合意によって地役権者Bは設定者Dに対して対価支払義務を負いますが,地役権設定の対価の特約は,地役権の要素ではなく,当事者間での債権的な効力しかなく(大判昭12.3.10民集16-255),対価の支払は地役権設定契約の本質的な部分とはいえず,同契約の内容にはならないと考えているといえるでしょう。
 そして,Bは,「Dは契約②によって債務を負っていない以上,解除をすることはできない。」と発言していることから,解除の制度趣旨について,不履行をされている債権者を契約による拘束から解放することにあるという理解を基礎として,債権者も債務を負う双務契約のみが解除の対象となり,債権者が債務を負わない片務契約は解除の対象にはならないと考えているといえるでしょう(星野英一『民法概論Ⅳ(契約)〔合本新訂〕』(良書普及会,1986)P.70,平井宜雄『債権各論Ⅰ上 契約総論』(弘文堂,2008)P.226参照)。

⑵ Dについて
 Dは,そもそも地役権設定契約によって設定者は債務を負っており,契約②によってDも債務を負っており,また契約②によってDが債務を負っていなかったとしても,Dは契約②を解除することができるはずであると発言しています。
 この発言から,Dは,地役権設定契約の性質について,物権を設定するだけでなく,契約の内容に従った債権債務が発生し,対価の支払を合意したときは,対価の支払も,地役権の要素になり,地役権設定契約の本質的な部分となると捉えているといえるでしょう(松岡久和『物権法』(成文堂,2017)P.242)。
 また,契約②の債権債務関係については,地役権者Bは設定者Dに対して対価支払債務を負い,設定者Dは地役権者Bの通行を忍容する債務を負っているといえるでしょう。
 そして,Dが「契約②によってDが債務を負っていなかったとしても,Dは契約②を解除することができるはずである」と発言していることから,解除の制度趣旨について,不履行をされている債権者を契約による拘束から解放するための制度という理解を基礎として,債権者が債務を負わない片務契約についても解除の対象となると考えているといえるでしょう(大判昭8.4.8民集12-561,通説)。

⑶ Dによる契約②の解除の可否
 地役権設定契約の性質について,地役権の設定の対価を支払う旨の合意が成立している場合には,対価の支払も地役権設定契約の本質的な部分になるものといえるでしょう。そうすると,契約②の債権債務関係については,地役権者Bは設定者Dに対して対価支払債務を負い,設定者Dは地役権者Bの通行を忍容する債務を負っているといえるでしょう。
 また,解除の制度趣旨については,不履行の理由がどうであれ,落ち度のない債権者を契約による拘束から解放するのが公平ですし,債権者に代替取引の機会を与えることは,全体としての損害を少なくすることにもなることから,不履行をされている債権者を契約による拘束から解放する機能を主な制度趣旨と捉えることができます(債権関係改正後の民法も,この考え方を基本としています。)。
 本問では,Bは,3年もの間,対価である年間2万円をDに支払わずに,c部分を徒歩及び自家用車で通行しており,設定者Dの不利益は大きいといえます。これに対して,仮に契約②が解除されたとしても,小問⑴で検討したように,Bには少なくともa部分についてはDによる地役権の設定がなくても通行する権利がありますので,Bの不利益は大きくないといえます。そうすると,設定者Dは,地役権者Bから対価である年間2万円を支払ってもらえないにもかかわらず,契約②の拘束力によって地役権者Bの通行を忍容する債務を負い続けるのは公平に反しますので,契約②による拘束から解放するのが妥当といえるでしょう。
 このように考えると,Dの解除を認めるべきといえるでしょう。
 以上,小問⑵につき,石田剛ほか『民法Ⅱ 物権』(リーガルクエスト)(有斐閣,第3版,2019)P.198~207(秋山靖浩執筆)及び中田裕康『契約法』(有斐閣,2017)P.191~5参照。

 
〔設問3〕(配点35点)
 

1 FがEの代理人として締結したEB間の丁土地売買契約(契約③)に基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められるでしょうか。

 
 2 日常家事債務

⑴ 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負うとされています(761条)。判例は,同条が,夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定していると判示しています(最判昭44.12.18民集23-12-2476,民法判例百選Ⅲ〔第2版〕9事件)。そこで,FがEの代理人としてBと締結した契約③は,761条の「日常の家事」に関する法律行為としてEに効果が帰属するでしょうか,Eに帰属すれば,Eを相続したGに請求することができることから,問題となります(896条,889条1項2号)。

⑵ 「日常の家事」の範囲について,前掲最判昭44.12.18は,761条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み,単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく,さらに客観的に,その法律行為の種類,性質等をも充分に考慮して判断すべきであると判示しています。
 本問では,契約③は,長期入院加療中のEの医療費を調達するためだけでなく,Gの事業資金に充てるためであったこと,配偶者Eの所有する不動産の処分であり,夫婦が日常的にする性質の行為とは認められないことからすると,「日常の家事」に含まれないでしょう。

⑶ しかし,夫婦の一方が上記のような「日常の家事」に関する代理権の範囲を超えて第三者と法律行為をした場合,第三者は保護されないでしょうか。
 この問題について,前掲最判昭44.12.18は,その代理権の存在を基礎として広く一般的に110条所定の表見代理の成立を肯定することは,夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって,相当でないとして,第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり,110条の趣旨を類推適用して,その第三者の保護をはかれば足りると判示しています。
 本問では,Bは,Fから,Eの医療費が必要であることや丁土地の売却につきEの親族の了解を得ていることを聞いてはいますが,FはEの配偶者であることからするとEの実印や印鑑登録証明書の入手も容易といえ,また,配偶者の所有する不動産の処分であることから,Eへの確認を怠ったBに正当の理由は認められないといえるでしょう。

 3 無権代理と相続

 このように,Fは,Eから丁土地に関して代理権を授与されたことがないことから,契約③の効果はEに帰属しません(113条1項)。
 もっとも,Eが死亡してGが相続したことにより無権代理行為は有効にならないかが問題となります。
Gは,本人としての地位を相続する結果,追認権のみならず,追認拒絶権も取得します。そして,Gは,無権代理人本人ではないことから,追認拒絶権を行使することができそうです。
 しかし,Gは,FからのEの財産管理についての相談に乗っていたこと,Fに対し丁土地の売却金の一部をGの事業資金のために使うことを申し入れたこと,Fの求めに応じてBとの契約締結の場に同席していたことからすると,Fの無権代理行為に積極的に関与していたと認められるでしょう。そうすると,このようなGが追認拒絶権を行使することは,信義則(1条2項)上許されないと考えることもできるでしょう。
 このように考えると,契約③に基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められることになるでしょう。

4 的中情報★★★

・2020 スタンダード論文答練 (第2クール)民事系2第1問(辰已専任講師・弁護士 金沢幸彦先生ご担当)
「契約不適合責任」ズバリ的中★★★
 契約不適合責任は,平成29年民法(債権法)改正の目玉であり,その実務上・学術上の重要性から,出題可能性が極めて高いと判断して,敢えて出題致しました。改正法に関しては,その対策が十分でない受験生も多いと推測される状況で,受講生の方は非常に有利であったものと思われます。

・2020 福田クラス 直前フォロー答練民事系第1問(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
「未登記通行地役権と民法177条の『第三者』」ズバリ的中★
 直接的に論点的中とまでは言えませんが,地役権の法的性質を考えるのに役立つ内容であったと思います。

・スタ論【スタート】2020民法1(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
「日常家事代理権(761条)と110条の類推適用」ズバリ的中★★★
 このテーマは,親族相続法と財産法の交錯領域であり,考査委員の前田陽一教授が重視している研究分野と思い,敢えて出題致しました。

・2020 スタンダード論文答練 (第1クール)民事系1第1問(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
「無権代理人の本人相続(共同相続の場合)」「本人による追認拒絶後の無権代理人の本人相続」ズバリ的中★★

・Conditioning答練 辰已問題セレクト3【民法】(辰已専任講師・弁護士 西口竜司先生ご担当)
「本人が無権代理人を相続した場合の契約の効果帰属」「無権代理人を相続した本人の無権代理人責任の範囲」「無権代理人が後見人に就職した場合の追認拒絶の可否」ズバリ的中★★★

・2020司法試験New辰已・全国公開模試民事系第1問
「無権代理人の本人相続―共同相続の場合」ズバリ的中★★
 このテーマも,親族相続法と財産法の交錯領域であり,考査委員の前田陽一教授が重視している研究分野であり,同教授による判例解説(「本人の無権代理人相続」民法判例百選Ⅰ(第8版)P.72~3)もあること,さらに,民法改正と直接的な関連性がなく事例問題を作成し易いことなどから,出題可能性が極めて高いと判断し,複数回の答案練習会で敢えて出題致しました。

●第2問 商法

■公開:2020年09月15日/14:00

1 はじめに
 今年の民事系科目第2問(商法)は,株主総会決議の取消しの訴え,新株発行の無効の訴え(設問1),株式併合(設問2)などを検討させております。問われている論点は,昨年と比較して若干難易度が高いものと思われます。
 まず,問題文は4頁(実質3頁)で,添付資料等はありません。また,設問1と2の配点は,60:40と問題文冒頭に記載されております。
 なお,本問も昨年(令和元年)の民事系2問設問2と同様,令和2年司法試験考査委員(出題委員)である久保田安彦教授が執筆した,髙橋美加ほか『会社法』(弘文堂,第2版,2018)P.91~99「株式の大きさ(出資単位)の変更」とP.269~315「募集株式の発行等」が非常に有益です。今後は同書の重要性が増々高まるものと思われます。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験民事系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔設問1〕(配点60点)
 
<監修者作成答案構成例>
 1 提起すべき訴え

(1)Bは,本件決議1及び本件決議2に取消事由が存在するとして株主総会決議の取消しの訴えを提起すること,また本件決議が取り消され,遡及的に無効となることを前提に,新株発行の無効の訴えを提起することができる。

(2)原告適格
 Bは,甲社の株主であるから,いずれの訴えについても原告適格を有する(828条2項2号,831条1項柱書)。

(3)被告適格
 いずれの訴えも,被告は甲社である(834条2号,同条17号)。

(4)提訴期間

ア 株主総会決議の取消しの訴えの提訴期間は決議の日(令和2年3月25日)から3箇月以内であるところ(831条1項柱書),同年5月14日の時点でこの要件を満たす。

イ 新株発行の無効の訴えの提訴期間は,非公開会社では株式の発行の効力発生日(払込期日である同年4月10日)から1年であるところ(828条1項2号括弧書),同年5月14日の時点でこの要件を満たす。

 
 2 株主総会決議の取消しの訴え

(1)本件決議1の瑕疵 
 取締役会設置会社である甲社は株主総会の招集通知を原則として書面でしなければならず(299条2項2号),その書面には株主総会の目的である事項を記載しなければならない(299条4項・298条1項2号)。また,甲社においては,株主総会は,予め定められた株主総会の目的である事項以外の事項については,決議をすることができない,(309条5項本文)。

ア 「定款変更の件」を株主総会の目的として招集通知に記載しなかったことは招集手続の法令違反となる(831条1項1号)。

イ 招集通知に記載のない「定款変更の件」の決議は,決議方法の法令違反となる(831条1項1号)(最判昭和31・11・15民集10巻11号1423頁)。
 上記アおよびイの取消事由は違反する事実が重大であり,かつ,決議の結果に影響を及ぼすものであることから,裁量棄却は認められない(831条2項)。 
 ⇒(後述)本件決議1が取り消されると,本件株式発行は定款の認めない種類の株式の発行(108条1項・2項違反)となり,新株発行の無効事由となる(江頭憲治郎『株式会社法[7版]』778頁)。

(2)本件決議2の瑕疵

ア 「新株式発行の件」を株主総会の目的として招集通知に記載しなかったことは招集手続の法令違反となる(831条1項1号)。

イ 招集通知に記載のない「新株式発行の件」の決議は決議方法の法令違反となる(831条1項1号)。

ウ 1株2万円を公正な払込金額であると虚偽の説明をして本件株式発行を決議したことは,決議方法の法令違反となる(831条1項1号)。
 上記ア,イ,ウの取消事由は違反する事実が重大であり,かつ,決議の結果に影響を及ぼすものであることから,裁量棄却は認められない(831条2項)。
 ⇒(後述)本件決議2が取り消されると,本件株式発行は,有効な株主総会決議を欠くことを理由に,新株発行の無効事由となる。

 
 3 新株発行の無効の訴え

(1)無効事由

ア 本件決議1が取り消されると,本件株式発行は定款の認めない種類の株式の発行(108条1項・2項違反)となり,新株発行の無効事由となる(江頭憲治郎『株式会社法[7版]』778頁)。

イ 本件決議2が取り消されると,本件株式発行は,有効な株主総会決議を欠くことを理由に,新株発行の無効事由となる。
 非公開会社において,有効な株主総会決議を経ないでされた新株発行は,その無効事由であると認められる(判例)。

(2)株主総会決議の取消しの訴えと新株発行の無効の訴えとの関係

  会社の組織に関する行為の無効と,その承認総会決議に取消事由があることを理由とする株主総会決議の取消しの訴えとの関係については,会社の組織に関する行為の効力発生前は後者の訴え,効力発生後は前者の訴えを提起すべきであり,その効力発生後は,原告は,訴えの変更の手続(民訴143条)により前者の訴えに変更すべきとするのが通説(吸収説)である。
 もっとも,本問では,株主総会決議の取消しの訴えの提起は,本件株式発行の効力発生後に行われるものとされている。
 また,株主総会決議の取消しの訴えにおいては,本件決議1および本件決議2は,その取消しの請求認容判決が確定すると決議時に遡って無効となる(839条参照)が,当該判決が確定するまでは有効であることから,新株発行無効の訴えにおいて,本件決議の取消事由を前提とする新株発行の無効事由を主張するためには,株主総会決議取消しの訴えおよび新株発行の無効の訴えの両訴えを提起することが必要となる。

 
 4 結論

本件決議1及び2は取り消され,本件株式発行は無効となる。

 
<〔設問1〕の分析>
 1 提起すべき訴え

(1)提起すべき訴え
 Bは,本件決議1及び本件決議2には瑕疵があり,これが本件株式発行の効力に影響を及ぼすと考えています。そこで,Bは,本件決議及び本件決議2が取り消されるべきこと,また,これにより本件株式発行の効力が無効となることを主張すると考えられます。したがって,Bが提起すべき訴えは,①株主総会決議取消しの訴え(会社法(以下省略する)831条1項1号)及び,②募集株式発行無効の訴え(828条1項2号)が考えられます。

(2)訴訟要件

ア 原告適格
 Bは,甲社の株主であることから,上記①及び②について原告適格が認められます(828条2項2号,831条1項柱書)。

イ 被告適格
 上記①及び②について,甲社を被告とすることで認められます(834条2号,同条17号)。

ウ 提訴期間
 上記①の訴えの提訴期間は,本件定時総会の決議の日である令和2年3月25日から3箇月であるところ,同年5月14日の時点でこの要件は充足されます。
 また,甲社は非公開会社であることから,上記②の訴えの提訴期間は効力発生日から1年となる(828条1項2号括弧書)ところ,本件株式の払込期日は同年4月10日であり,これが効力発生日となるので,同年5月14日の時点でこの要件は充足されます。

 
 2 主張及びその当否について

(1)①株主総会決議取消しの訴えについて

  ア 本件決議1について

(ア)取締役会設置会社である甲社は株主総会の招集通知(299条1項)は書面でしなければならず(同条2項2号),また,その書面には,「定款変更の件」を「株主総会の目的」(298条1項2号)として記載しなければなりません(299条4項)。
 しかし,甲社は本件招集通知に「定款変更の件」との目的を記載していません。
 したがって,取消事由である「招集の手続・・・の方法が法令・・・に違反」(831条1項1号)が認められます。

(イ)また,甲社においては,株主総会は,予め定められた株主総会の目的である事項以外の事項については,決議をすることができません(309条5項)。そこで,招集通知に記載のない「定款変更の件」の決議は,決議方法の法令違反となります(831条1項1号)。

(ウ)そうだとしても,裁量棄却(同条2項)されないかが問題となります。
 株主総会の招集通知が要求される趣旨は,株主に対し株主総会への出席と準備の機会を与えることにあります。Bは,本件定時総会に出席しているものの,出席してはじめて本件議案1の存在を知って驚いていますので,本件定時総会への出席の準備ができなかったと認められます。
 このように,招集通知に議題の記載を欠くこと,また招集通知に記載のない議題を決議することは,「違反する事実が重大でなく,かつ,決議に影響を及ぼさないものである」と認めることはできません。したがって,裁量棄却することはできません。

 
  イ 本件決議2について

(ア)まず,本件決議2についても,本件決議1と同様に,甲社は本件招集通知に「新株式発行の件」との目的を記載していないことから,取消事由たる「招集の手続…の方法が法令…に違反」(831条1項1号)が認められます。

(イ)また,招集通知に記載のない「新株式発行の件」の決議は,決議方法の法令違反となります(831条1項1号)。

(ウ)会社法は,募集株式の払込金額が引受人にとって「特に有利な金額」である場合には,株主総会において「特に有利な金額」で募集する理由の説明を要求しています(199条3項)。そして,本件優先株式は,中立的な専門機関により一株あたり4万円であると合理的に評価されているにもかかわらず,一株2万円という「特に有利な金額」で発行され,これについての理由の説明が本件定時総会においてなされていません。
 また,Cは,本件定時総会において,本件優先株式1株当たり2万円という払込金額が中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額である旨を説明しているところ,実際には4万円が客観的な評価額であることから,虚偽の説明がなされたといえます。
 1株2万円を公正な払込金額であると虚偽の説明をして本件株式発行を決議したことは,決議方法の法令違反となります(831条1項1号)。

(エ)では,上記(ア),(イ)及び(ウ)の取消事由につき裁量棄却されるでしょうか。
 まず,(ア)及び(イ)について検討すると,本件決議1の取消事由に関する裁量棄却の検討と同様に,株主に準備の機会を与えない状況が生じている以上,「違反する事実が重大」といえます。したがって,裁量棄却することはできません。
 次に,(ウ)について検討すると,払込金額は会社の資金繰りや資本に大きく影響を与えるといえるので,「違反する事実が重大」といえます。また,Bは渋々ながら賛成はしているものの,本件優先株式の評価額が4万円であったことを知ったことをきっかけに本件株式発行の無効を主張していることからすると,仮に本件定時総会において客観的な評価額が4万円であることが示されていたのであれば,Bは本件決議2に賛成しなかったと考えられます。決議には特別決議が必要(309条2項5号)であるところ,甲社の発行済株式総数に占めるBの持株数が3分の1を超えることを考慮すると,決議は成立しないと考えられます。したがって,「決議に影響を及ぼさない」とはいえません。
 よって,裁量棄却はできません。

  ウ 以上より,本件決議2は取り消されるべきであるとのBの主張が認められるでしょう。
 
 (2)②募集株式発行無効の訴え(新株発行の無効の訴え)について

ア 会社法は,無効事由について何ら規定していません。そこで,解釈により無効事由を検討すべきことになりますが,株式発行の効力発生により一定の法律関係が形成されているため,法律関係の安定性・取引の安全を図る観点からすると,無効事由は重大な法令・定款違反などの特に重大な瑕疵がある場合に限ることになります。

イ まず,本件決議1が取り消され,遡及的無効となるとすると,本件株式発行は定款の認めない種類の株式の発行(108条1項・2項違反)となます。そして,これは特に重大な瑕疵として,新株発行の無効事由となります。

ウ 次に,本件議案2が取り消され,遡及的無効となるとすると,株主総会決議を欠くことになります。そこで,会社の内部的瑕疵が存在する場合の募集株式発行の効力をいかに解するのかが問題になります。
 この点,判例は,公開会社の事案において,代表者が有効な取締役会の決議なく新株発行した場合(最判昭和36.3.31民集15-3-645)や株主総会の決議なく特に有利な払込金額で新株発行をした場合(最判昭和46.7.16判時641-97[百選24])も無効事由とは認めていません。
 これに対し,判例は,非公開会社の事案では,株主総会の特別決議(199条2項・309条2項5号)を経ずに新株発行を行った場合には,無効事由を認めています(最判平成24.4.24民集66-6-2908[百選29])。これは,非公開会社の場合には,会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視すべきであること,また,非公開会社の場合には,公開会社の場合に比べて,取引の安全に対する配慮する必要性は強くないことにあると考えられます。
 本問では,本件株式発行により,P及びQは,それぞれ甲社発行済株式総数の5%を保有することになることからすると,非公開会社の株主であるBの持株比率維持の利益に配慮すべきであり,特に重大な瑕疵の存在を認め,無効事由を肯定する結論となるでしょう。

エ 以上より,本件株式発行は無効である旨のBの主張は認められるでしょう。

 (3)本件定時総会決議の取消しの訴えと本件株式発行の無効の訴えとの関係

  会社の組織に関する行為の無効と,その承認総会決議に取消事由があることを理由とする株主総会決議の取消しの訴えとの関係については,会社の組織に関する行為の効力発生前は後者の訴え,効力発生後は前者の訴えを提起すべきであり,その効力発生後は,原告は,訴えの変更の手続(民訴143条)により前者の訴えに変更すべきとするのが通説(吸収説)です。本問では,本件株式発行の効力発生後に,本件定時総会の取消しの訴えが提起されることにっています。
 また,株主総会決議の取消しの訴えにおいては,請求認容判決が確定して初めて決議時に遡って無効(839条参照)となりますが,当該判決が確定するまでは有効である。そこで,本件株式発行の無効の訴えにおいて,本件決議の取消事由を前提とする新株発行の無効事由を主張するためには,本件定時総会決議取消しの訴え及び本件株式発行の無効の訴えの両訴えを提起することが必要となります。

 
〔設問2〕(配点40点)
 
<〔設問2〕の分析>
 
 1 小問(1)ついて

 本件株式併合は,本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合することを内容とするもので,これにより,5000株を有する株主であったPの持ち株数は2500株にまで減少します。そこで,小問⑴では,この株式併合の効力の発生により,Pにいかなる不利益が生じるかを,剰余金配当請求権及び会社経営に参与する権利の両面から検討することが求められています。

(1)剰余金配当請求権について
 本件優先株式は,普通株式の株主に先立ち,1株につき1000円を配当するものである ところ,本件株式併合の効力の発生によって,Pは持株数の減少に伴い,受けられる配当優先額も2分の1に減少します。
 よって,Pは本件株式併合の効力発生によって,配当優先額の減少という不利益を受けるといえます。

(2)会社経営に参与する権利について
 本件優先株式は,その内容として株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができるとされていたことから,本件株式併合によって,Pの議決権割合は約5.55%(5000株÷9万株)から約2.94%(2500株÷8万5000株)にまで減少します。これにより,Pは,議決権数の減少自体による影響力の低下のみならず,本件株式併合以前に有していた少数株主権である会計帳簿閲覧等請求権(433条1項),検査役選任請求権(358条1項),役員解任訴権(854条1項),株主総会招集請求権(297条1項)を行使できなくなります。これらの少数株主権が会社経営をコントロールするための重要な権利であることからすれば,議決権数の減少のみならず,少数株主権を行使できなくなることは,本件株式併合の効力発生によってPが受ける大きな不利益であるといえます。

 
 2 小問⑵について

(1) 反対株主の株式買取請求
 Pは,本件臨時総会に先立ち,本件株式併合に反対する旨を甲社に書面で通知していたことから,反対株主の株式買取請求(182条の4第1項)が認められないかが問題となります。
 これについては,当該請求が端数となる株式を有する株主保護を目的とすることから(同条1項参照),本件株式併合によって端数が生じないPに買い取り請求は認められないと考えられます。

(2)差止請求

ア Pとしては,本件株式併合が法令又は定款に違反し,かつ,不利益を受けるおそれがあることを理由に,甲社に対し,その差止めを請求することが考えられます(182条の3)。
 本件で株式併合に際して,本件臨時総会の開催に先立ち会社法所定の通知などが適法に行われていますが,種類株主総会の決議を得ていないことについて,本件株式併合が①「法令又は定款に違反する場合」であるといえるか,また②株主が不利益を受けるおそれがあるといえるかが問題となります。また,本件株式併合の差止めは,当該差止請求権を被保全権利として,保全の必要性が認められると,仮の地位を定める仮処分申立て(民保23条2項)を行うことになります。

イ 本件株式併合は,種類株式である本件優先株式について行われたものであるところ,ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合については,原則として,当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ効力が生じないとされています(322条1項2号)。しかし,本件決議3は株式の併合についての決議(322条1項2号)であり,甲社定款において,322条2項に基づく同条1項の規定による種類株主総会の定めを排除する規定(以下「本件規定」という。)が置かれています。本件規定が本件優先株式の内容として定められたことからすれば,本件規定は「ある種類の株式の発行後に定款を変更した場合」には当たらず,322条4項の適用除外にも該当しないことから,本件株式併合は同条1項に違反せず,定款に反する事情も見当たらないため,差止請求は認められないとも思えます。
 しかし,これでは普通株式の株主が有する議決権が優先株式の株主が有する議決権より多ければ,定款変更の決議によって,適用除外事項に該当しない限り,種類株主の権利を侵害するような決議を成立させることが可能となります。しかも,甲社の定款には,本件優先株式の譲渡による取得には甲社の承認を要することが定められていることから,本件優先株式の株主は,本件優先株式の譲渡を自由に行うことができず,また反対株主の株式買取請求も認められないことからすれば,投下資本を回収することもできません。
 そこで,322条1項の趣旨を検討するに,同条は,既発行の種類株式の内容について重大な変更を加えるための定款変更に際して,特に厳重な手続規制を用意したものであり,同条3項ただし書が,同条1項1号に規定する定款の変更を行う場合,同条2項の適用を排除する旨を規定しているのも,一定事項について,種類株主を特に保護する趣旨であるといえます。
 そうすると,同条1項1号に準ずるような種類株式についての定款変更を行う場合であるといえる場合には,同条3項ただし書の類推により,種類株主総会決議が必要であると解されます。本件では,本件優先株式が持株数に応じた配当優先株式であることを重視すれば,本件株式併合によって,持株数の減少のみならず,配当金額の減少及び少数株主権の喪失を伴うため,実質的には株式の内容を変更するもの(同条1項1号ロ)であるといえます。
 したがって,322条3項ただし書の類推適用により,本件株式併合は種類株主総会決議が必要であり,これを経ていない以上,本件決議には法令違反があるといえます。また,本件株式併合によって,本件優先株式の株主は優先配当額の減少し,また議決権割合の低下等が生じ,著しい不利益を受けるといえます。
 一方で,株式併合は明文で322条3項ただし書から除外されていることから,同項の準用は認められないとすることや,内容の変更には当たらないとすることも考えられると思われます。

ウ ところで,本件株式併合は,少数株主権を有していたP及びQを締め出すために行われたものであると解すれば,このような目的を不当であると主張することも考えられます。しかし,会社法は,その目的いかんにかかわらず,株主総会特別決議で株式を併合できるのであり,端数は金銭交付によって処理できるので,投下資本の回収機会ともなります。したがって,株式併合によって少数株主が締め出されたとしても,それだけで不当とはいえず,不当な締め出しといえるのは,実質的に株主平等の原則に反するような多数決の濫用であると解される場合に限られると考えられます。本件では,本件優先株式に係る剰余金の配当が経営の重荷になっていたという事情があり,正当目的を否定することは困難ではないかと思われます。

 
 <本問における株主平等原則違反の検討について>

  受験生の中には,本試験現場において株主平等原則違反の有無について検討した方もいると思われますので,これについて解説します。
 株主平等原則とは,株式会社が,株主を,その有する株式の内容及び数に応じて,平等に取り扱わなければならないとする原則です(109条1項)。本問では,本件優先株式の株主であるPとQとの間に不平等が生じていない以上,形式上は,株主平等原則の違反は生じないと考えられます。
 もっとも,本件優先株式についてのみ本件株式併合を行うことによって,本件優先株式の株主の権利のみを意図的に侵害することは,目的の正当性及び手段の相当性を欠くことから,普通株式の株主との関係において,株主平等の原則の趣旨に反すると解する余地がないとはいえません。
 したがって,本試験現場で,株主平等原則違反について検討することもあり得る構成だと考えます。
 参考となる文献等としては,江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣,第7版,2017)169頁・注3が挙げられます。ここでは,属人的定めを新設する定款変更決議の無効について,東京地立川支判平成25・9・25金判1518号54頁を用いて説明がなされています。

4 的中情報★★★

・2020 スタンダード論文答練 (第1クール)民事系2第2問(辰已専任講師・弁護士 宍戸博幸先生ご担当)
「新株発行の無効の訴え」ズバリ的中★★★
 新株発行の無効の訴えは,考査委員の関心分野であり,また,出題の周期性などから,出題可能性が極めて高いと判断して,敢えて出題致しました。受講生の方は非常に有利であったものと思われます。

●第3問 民事訴訟法

■公開:2020年09月15日/16:00

1 はじめに
 問題文は4頁(実質3頁)です。設問は1から3まであり,各設問の配点の割合は40:20:40と問題文の冒頭に記載されております。設問1及び3はそれぞれ課題が2つあるので,課題ごとに20点の配点がされていると考えられます。添付資料等は掲載されておりません。形式は,例年どおり,事例の後に弁護士又は裁判官と司法修習生との間の会話があり,これらの文章を読んだ上で設問に答えるというものです。
 今年の民事系科目第3問(民事訴訟法)は,「将来給付の訴えの適法性(設問1課題1)」,「条件付き法律関係の確認の利益(設問1課題2)」,「裁判所の心証形成の資料(設問2)」,「固有必要的共同訴訟の成否(設問3課題1)」,「共同訴訟人間の証拠共通(設問3課題2)」などを問うております。設問1はかなり難しく,設問2及び設問3は,悩まなければ比較的書きやすいけれども,考えてもみなかったと悩むと自信を持って書けないという問題であり,全体としては,やや難しかったと思われます。
 なお,設問1に関しては,令和2年司法試験考査委員(出題委員)の勅使河原和彦教授執筆の「将来の権利関係の確認請求訴訟における確認対象適格に関する覚書」高田裕成ほか編『民事訴訟法の理論 高橋宏志先生古稀祝賀論文集』(有斐閣、2018)P.569~592が非常に参考になります。また,設問2に関しては,同じく令和2年司法試験考査委員(出題委員)の笠井正俊教授執筆の三木浩一ほか『民事訴訟法』(リーガルクエスト)(有斐閣,第3版,2018)P.483~4「訴訟上の和解と事実認定」が参考になります。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験民事系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔設問1〕(配点40点)

1 本設問が前提とする事例は,次のとおりです。XA間でX所有の本件建物の賃貸借契約(本件契約)が締結され,これに基づき引き渡された本件建物でAが書店を経営していました。Aの死亡後,XがAの相続人でありまだ遺産分割をしていないAの子Y1及びY2に対し,Aとの間で本件契約の解約の合意をしていたとして本件建物の明渡しを求めてきたため,Y1とY2が協議をしました。Y1は,Aから本件契約の解約の合意をしたとは聞いていないとして本件建物を明け渡す必要はないとし,Y2は,AがXに敷金を差し入れたはずだから本件建物を明け渡し敷金を返還してもらった方がよいとして意見が分かれました。Y2がXに対して敷金が全額返還されるか問い合わせたところ,Xが,賃料の滞納がなく修繕の必要もないが,Aから受け取ったのは礼金であって敷金ではないと答えたことから,Y2は,弁護士LにXから敷金を返還してもらうことができるかどうかの検討を頼みました。この事例について,Lと司法修習生Pが会話をし,LがPに2つの課題を出しました。本設問は,これらの課題について答えるというものです。

2 課題1

⑴ 課題1では,「敷金返還請求権は,賃貸借終了後,不動産が明け渡されたときに, 敷金によって担保されるそれまでに生じた一切の債務の額を控除した残額につき発生するもの」と考え,Y1が本件契約の解約の合意を争っているため,本件建物の明渡しの見通しがついておらず,本件建物の明渡し前には敷金返還請求権は発生しないことから,「Xは,Yらから本件建物の明渡しを受けたときは,Y2に対し,60万円を支払え。」との請求の趣旨による将来給付の訴えの適法性の検討が求められています。なお,Y2は敷金120万円のうち法定相続分である60万円のみの請求をすることとされています。検討の際には,「本件の具体的状況を踏まえた上で,敷金返還請求権の特質のほか,当事者間の衡平の観点から,適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要があ」るとされています。ただし,「応訴の負担は考慮する必要」がないとされています。

⑵ 将来給付の訴えは,民事訴訟法135条により,「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」,認められています。例えば,本件ではXが受け取ったのは敷金ではないとしてその返還義務の存在を争っていますから,Y2が敷金の返還を求めた時に即時の履行を期待できません。このような場合にはY2があらかじめ将来給付判決を得ておく必要性が高いといえます。
 もっとも,「敷金返還請求権は,賃貸借終了後,不動産が明け渡されたときに,敷金によって担保されるそれまでに生じた一切の債務の額を控除した残額につき発生するもの」(これが敷金返還請求権の特質)ですから,その成否・内容についてはXに有利な将来の事情の変動(例えば賃料の滞納など)もあり得ます。そのような場合には,将来給付判決に不服なXとしては請求異議の訴えを提起し上記事情を主張立証することになりますが,そのような負担をXに課しても当事者間の衡平に反しないかどうかを考慮する必要があります。本問で指摘されている「当事者間の衡平の観点から,適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要」とはこのことを指していると考えられます。以上について,本件の具体的状況(例えば,8月分まで賃料の滞納がないことや修繕の必要もないことをXが認めていること,賃料は毎月定額であることなど)を踏まえて検討することになります。
 本課題は,大阪国際空港事件の最高裁判決(最大判昭56.12.16・民集35-10-1369(民訴百選〔5版〕22事件))を一応念頭に置いた出題であると考えられます。この点については,本問のような場合は継続的不法行為の事案とは違いますから,判例法理は参考にならないという意見もあると思いますが,その判例とは違うという立場を採る場合でも,少なくとも判例に言及して比較する必要はあるといえます。

 
 3 課題2

⑴ 課題2では,課題1の将来給付の訴えの適法性が認められない場合に,敷金に関する確認の訴えを提起することを想定し,「Y2の立場から,どのような訴えであれば確認の利益が認められるか」を検討することが求められています。その際には,「既判力により確定する必要性を考慮して,なぜその訴えであれば確認の利益が認められるのかについて説明」することが求められています。

⑵ 本課題については,最判平11.1.21・民集53-1-1(民訴百選〔5版〕27事件)が参考になります。同判決は,敷金返還請求権の存在確認の訴えについて,「確認の対象は,…条件付きの権利であると解されるから,現在の権利又は法律関係であるということができ,確認の対象としての適格に欠けるところはない」とし,また,被告が「敷金交付の事実を争って,敷金の返還義務を負わないと主張している」から,当該「条件付きの権利の存否を確定すれば,」原告の「法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえる」として「即時確定の利益がある」としています。本件でもこの理屈がそのまま当てはまると考えられます。

 
〔設問2〕(配点20点)

1 本設問が前提とする事例は,次のとおりです。設問1までの事例に続き,Xは,Yらを被告として本件契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求める訴えを提起し,訴状においてAとの間で本件契約の解約の合意がされた旨主張しました。本件訴訟は,裁判官Jが単独で審理・裁判することとなりました。その後の和解期日において,Jが他の当事者を退席させた上でX,Y1,Y2を順次個別に面接する方式により和解協議が実施されました。Y2は,XA間の本件契約の解約の合意の存在をほのめかす発言をしつつ,本件建物を明け渡して敷金を返還してもらえる内容の和解の成立を希望しました。しかし,Y1が本件契約の継続を希望したため,和解は成立しませんでした。この事例について,Jと司法修習生Qが会話をし,JがQに課題を出しました。本設問は,この課題について答えるというものです。

2 本課題では,まず,「民事訴訟法においては,裁判所は何を心証形成の資料とすることができるとされているのかを示した上で,和解期日におけるY2の発言がそれに当たらないことを説明」することが求められています。また,「和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると,どのような問題が生ずるかについて,理由を示して検討」することが求められています。

3 民事訴訟法247条により,裁判所は心証形成に当たって「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」を資料とすることができるとされています。そこで,和解期日におけるY2の発言がこのどちらにも当たらないことを説明することになります。
 次に,このような和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとした場合の問題点について検討することになりますが,検討に当たっては,なぜ裁判所の心証形成の資料が「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」に限られているのかという点から考える必要があります。これらについては当事者に対する手続保障があるわけですが(当事者が互いに攻撃防御を尽くす機会が与えられています。),逆に言えば和解手続における当事者の発言についてはそのような保障が十分とはいえないことから,当該発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると,手続保障が不十分なまま裁判所が心証形成をすることになってしまうわけです。特に本件のように他の当事者を退席させた上で順次個別に面接する方式による和解協議の場合には,当事者に対する手続保障が著しく不十分であるといえるでしょう。
 さらに,和解のあり方に対する悪影響のおそれについても触れる必要があります。つまり,和解というのは互譲が必要であるのに,判決の場合の資料ともなってしまうのであれば,自分に不利になりそうなことは言いにくく,萎縮してしまって和解が合理的に進まない事態も考えられるのではないか,ということです。

 
〔設問3〕(配点40点)

1 本設問が前提とする事例は,次のとおりです。設問2までの事例に続き,本件訴訟の第2回口頭弁論期日において,Xは,Aとの間で本件契約の解約の合意をしていたことを裏付けるため,Aとの間でした本件建物の明渡しについての会話があったことを主張しました。これに対し,Y2は,そのような会話がなかったことを立証するため,Aが作成した本件日誌を提出して書証の申出をし,裁判所は,本件日誌を取り調べました。その後,X,Y1及びY2が訴訟外で解決に向けた協議をしました。XとY1の間では協議が整わなかったものの,XとY2の間では解決に向けた合意がされました。Xは,Y2に対する訴えを取り下げることとなり,その手続が行われました。この事例について,Jと司法修習生Rが会話をし,JがRに2つの課題を出しました。本設問は,これらの課題について答えるというものです。

 
 2 課題1

⑴ 課題1では,「本件訴訟が共同訴訟のどの類型に当たるのかを考慮」し,「その結果を踏まえて,XはY2に対する訴えのみを取り下げることができるのかを検討」することが求められています。

⑵ 最判昭43.3.15・民集22-3-607(民訴百選〔5版〕99事件)によれば,本件のような共同相続人に対する訴えは通常共同訴訟に当たることになります。同判決は,その理由として,「共同相続人らの義務はいわゆる不可分債務であるから,…各自係争物件の全部についてその侵害行為の全部を除去すべき義務を負うのであって,…所有者は…全員に対して同時に訴を提起」すること「を要しないからであ」り,そう解しても,「所有者は,共同相続人各自に対して債務名義を取得するか,あるいはその同意をえたうえでなければ,その強制執行をすることが許されないのであるから,…被告の権利保護に欠けるものとはいえない」ということを挙げています。
 本件訴訟が通常共同訴訟に当たるとすると,共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)が働き,XがY2に対する訴えを取り下げても,Y1に対する訴えに影響を及ぼしません。したがって,XはY2に対する訴えのみを取り下げることができます。

 3 課題2

⑴ 課題2では,「仮にXがY2に対する訴えのみを取り下げることができるとして,残されたXとY1のみの訴訟において本案判決がされる場合に,第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてよいか」を,「共同訴訟における証拠調べの効果及びそれが訴えの取下げによって影響を受けるかどうかを踏まえて検討」することが求められています。

⑵ 通常共同訴訟においては,前述のとおり共同訴訟人独立の原則が働くものの,通説・判例は共同訴訟人間の証拠共通を認めています(最判昭45.1.23・判時589-50)。もっとも,これは弁論主義の第3テーゼに反することから,共同訴訟人間の証拠共通が認められる理由を説得的に説明する必要があります。
 次に,この共同訴訟人間の証拠共通の原則の適用の結果が一方の当事者に対する訴えの取下げによって影響を受けるかどうかを検討することになります。ここでは,証拠共通の原則の適用の結果を残すべきなのかどうかが問われています。そうすると,適法な証拠調べと証拠共通の原則によって,XとY1の間の訴訟についても裁判官の心証が形成されている以上,それを消すことはできないということが決定的理由になると考えられます。これは,訴訟行為は原則として撤回可能であるのに,証拠調べ終了後の証拠申出の撤回は,裁判官の心証が形成されている以上,認められないとされている,というのと似た状況です。
 以上を踏まえて,第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日誌の取調べの結果を,残されたXとY1のみの訴訟における事実認定に用いてよいか,その結論を述べることになります。

4 的中情報★★★

・2020 スタンダード論文答練 (第2クール)民事系3第3問(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
「確認の利益」ズバリ的中★★★
 確認の利益は,出題の周期性などから出題可能性が高いと判断して出題致しました。若干書き難いテーマですので,受講性の方は非常に有利であったものと思われます。

●第1問 刑法

■公開:2020年09月17日/16:20

1 はじめに
 今年の刑事系科目第1問(刑法)は,詐欺罪と恐喝罪の関係,恐喝罪の被害額(設問1),実行行為,因果関係,故意(設問2),詐欺罪,横領罪,2項詐欺罪,2項強盗殺人罪,2項強盗罪,殺人罪(実行の着手,因果関係,故意),強盗罪(設問3)など,その成否を検討すべき犯罪は多岐に亘ります。全体の難易度はやや難しいと思われます。
 また,刑事系第1問の出題形式は,平成30年から従来の罪責検討型ではなく設問形式に変わりましたが,今年も昨年の設問形式を踏襲しており,平成30年及び令和元年と同様に設問1から設問3までで構成されています。そして,設問1は,①と②の異なる立場双方に言及させています。なお,問題文は3頁(実質2頁)で,各設問の配点割合の記載はなく,添付資料等は掲載されていません。
 本問を分析する際には,令和2年司法試験考査委員である松原芳博教授が執筆した基本書である『刑法総論』(日本評論社,第2版,2017)(以下「松原・総論」といいます。)及び『刑法各論』(日本評論社,2016)(以下「松原・各論」といいます。)が非常に有益です。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験刑事系科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔設問1〕

1 本問では,甲がBに対して暴力団組員を装って600万円の送金をさせた行為について,詐欺罪(刑法(以下,省略する。)246条1項)又は恐喝罪(249条1項)の成否が問題となります。

2 詐欺罪と恐喝罪の関係

  判例は,欺罔と脅迫が競合して被害者の意思決定に影響した,どちらかが決定的な影響をもったものではない事案について,詐欺罪と恐喝罪が成立し,両罪は観念的競合になるとしています(大判昭5.5.17刑集9-303)。他方,欺罔が被害者を畏怖させる一材料にすぎない場合に恐喝罪のみで処理したものがあります(最判昭24.2.8刑集3-2-83)(松原・各論P.303~8参照。)。
 本問では,Bの甲に対する600万円の交付行為は,甲が暴力団組員であるという錯誤自体に原因があるというよりも,甲が暴力団組員であり,要求に応じなければ組の若い者を差し向けられると誤信したことで,自身やその家族に危害を加えられるのではないかと畏怖したことに原因があるといえます。したがって,詐欺罪ではなく,恐喝罪の成立を検討するのが自然といえます。

3 恐喝罪の被害額

⑴ ①甲に成立する財産犯の被害額が600万円になるとの立場からの説明
 たしかに,甲は,Aから本件債権の回収の依頼を受けており,500万円については代理受領者として債権回収権限を有しています。
 しかし,最判昭30.10.14刑集9-11-2173(刑法判例百選Ⅱ(第7版)60事件)は,他人に対して権利を有する者であっても,社会通念上一般に忍容すべきものといえない方法による権利行使は恐喝罪となりうると判示しています。脅して金を払わせる権利は誰にもないので,500万円部分についても恐喝罪の構成要件該当性及び違法性を認めてよいでしょう。

⑵ ②甲に成立する財産犯の被害額が100万円にとどまるとの立場からの説明
 ②の立場からは,畏怖しなければ交付しなかったといえる場合に,直ちに財産的損害の発生を認めるのは財産的損害の概念を形骸化するもので妥当でないとして,正当な権利行使として恐喝が行われたときは,債務者としては弁済すべき債務を履行したにすぎないから,実質的に判断すれば財産的損害は認められず,被害額となるのは本件債権の範囲外である100万円についてのみであるという説明が考えられます。
 したがって,恐喝罪は100万円の範囲についてのみ成立し,500万円については犯罪不成立か,脅迫罪の成否が問題となるにとどまると思われます。

 
〔設問2〕

1 甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る3つの具体的事実
①甲がAに飲ませた睡眠薬は一般的な医薬品であり,その混入量もAの特殊な心臓疾患が
 なければ,生命に対する危険性が全くなかったこと。
②Aに同疾患があったことについて,一般人は認識できず,甲もこれを知らなかったこと。
③甲が本件で混入した量の睡眠薬を摂取しても,Aが死亡することはないと思っていたこ
 と。

2 結論を導く理由

⑴ ①の事実について
 実行行為とは,構成要件的結果発生を惹起する現実的危険性を有する行為をいいます。
 ①の事実は,睡眠薬自体は一般的なものであり,その混入量はAに特殊な心臓疾患がなければ生命に対する危険性は全くないものでした。
 そうすると,①の事実は,甲のAに睡眠薬を飲ませた行為の殺人の実行行為該当性を否定し,殺人既遂罪は成立しないことになります(松原・総論P.20~21参照。)。

⑵ ②の事実について
 実行行為該当性が認められたとしても,結果犯の既遂罪が成立するためには行為と結果との間に因果関係が認められることを要します。そして,因果関係は,一般人の認識可能性及び当事者が特に認識していた事情を基礎として,その行為からその結果が発生することが一般人の経験上相当である場合に認められると考えることもできます(松原・総論P.73~6参照。)。
 この見解によれば,本問では,②の事実があれば,一般人も甲もAの疾患を認識しておらず,これを基礎事情として考慮することはできませんので,死亡する危険のない分量の市販薬を飲ませ,死亡結果が発生することは経験上相当ではないとすれば,因果関係は否定され,殺人未遂罪しか成立せず,殺人既遂罪は成立しないことになります。

⑶ ③の事実について
 殺人罪の成立には実行行為の時点での故意が必要です。仮に睡眠薬を飲ませた時点で実行行為該当性及び結果との間の因果関係が認められたとしても,行為者が既遂結果惹起のために必要と考えていた行為の全てを行わなければ既遂結果についての故意は認めるべきではないとも考えられます。
 この見解によれば,本問では,③の事実があれば,甲は,有毒ガスを発生させる行為によってAが死亡することを予定していたにもかかわらず有毒ガスを発生させることを止めたので,既遂結果についての故意が欠けており,殺人既遂罪は成立しないことになります。

 
〔設問3〕

1 甲がD銀行E支店から払戻しを受けた行為についての詐欺罪(246条1項)の成否 
 本問では,犯罪行為により甲名義の口座に振り込まれた預金の払戻し行為が,詐欺罪の実行行為である欺罔行為に当たるかが問題となります。
 恐喝の被害者に振り込ませた金員を払い戻す行為は,「犯行の一環を為す場合」に当たり,「これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情がある」といえますから,権利の濫用であるといえますので,挙動による欺罔行為といえます(松原・各論P.265参照。)。

2 600万円の払戻しを受け,Cに対してこの600万円を交付して自己の債務を弁済した行為

⑴ 500万円に係るAに対する横領罪(252条)(松原・各論P.309~315,319~323参照)
 甲は,Aの本件債権についてAから取立委任を受けていますので,甲が費消した現金600万円のうち500万円は,甲がAとの委託関係に基づき占有するA所有の物として「自己の占有する他人の物」(252条)に当たります。
 そして,甲が500万円をAに返還せずに自己のものとして借金の返済に充てる費消行為は,取立委任という委託の趣旨に照らして甲の権限の範囲を超えるものですから,権限がないのに所有者Aでなければできない処分をする不法領得の意思の外部的発現として「横領」に当たります。
 したがって,甲の行為には,本件債権のうち500万円の限度でAに対する単純横領罪(252条)が成立すると考えられます。

⑵ 100万円について
 甲がAから取立委任を受けたのは本件債権ですので,600万円のうち100万円の部分については,Aに所有権の帰属を肯定できず,Bに所有権が認められると考えられます。
 そうすると,本件債権のうち100万円部分については,遺失物横領罪(254条)が成立すると考えられます。

3 Aから支払猶予を受けた行為について

⑴ 甲は,本件債権全額をCへの弁済に充てたにもかかわらず,これをAに告げず嘘を言って支払い猶予を受けています。そこで,一時的に支払いを免れたことが,2項詐欺罪における財産上の利益に当たるかが問題となります(松原・各論P.261~3参照。)。
 このような場合,社会通念上別個の履行と認められる程度に履行を遅らせる必要がありますが,最判昭30.4.8刑集9-4-827(刑法判例百選Ⅱ(第7版)56事件)は,債務者が一時的に督促を免れたからといって,それだけで財産上の利益を得たとはいえないと判示しています。この見解によれば,本問でも財産上の利益を得たとまではいえず,2項詐欺罪は成立しないと解する余地があります。

⑵ 仮に,2項詐欺罪の構成要件該当性を認めた場合でも,先行する横領罪との関係が問題となります。
 まず,単純横領罪が成立した後,甲には500万円の返還義務が存在し,その義務を欺罔行為によって免れたことにより新たな「財産上の利益」を取得したとして2項詐欺罪が成立し,横領罪とは包括一罪とした上で,詐欺罪一罪が成立するという見解と,横領罪一罪が成立するという見解とが対立しています。

4 Aを殺害し債務の支払を免れた行為

⑴ 2項強盗罪の成否(松原・各論P.240~6参照)

ア まず,構成要件該当性について,Aに相続人がおらず,Aを殺害すれば甲の債務が消滅することから,甲がAに睡眠薬入りのワインを飲ませる行為が殺人の実行行為といえれば2項強盗の暴行に当たり,500万円の返還債務を客体とする2項強盗罪の構成要件を充足しうるといえるでしょう。

イ 次に,2項詐欺罪と同様,先行する横領罪との関係が問題となります。
 たしかに,侵害された財産についてすでに単純横領罪が成立している以上,これと包括一罪となり,後で行われた行為について財産犯である2項強盗罪は成立しないとの見解もあり得ます。この立場からは,本問では端的に殺人罪の成否を検討することになります。
 しかし,横領罪の被害者には財物の返還請求権ないし損害賠償請求権があり,これらの権利は,本来被害財物とは別個に侵害の客体になり得るものであり,横領罪の犯人が財物を費消・損壊するなど横領罪によりその違法評価が尽くされているということができる行為とは異なり,横領罪の犯人が被害者に対する新たな不法手段によって返還請求等を免れる行為については,別個の財産的法益を侵害するものとして,2項強盗罪の成立を肯定するのがよいでしょう。

⑵ 殺人罪の成否
 甲は,Aに睡眠薬を混ぜたワインを飲ませ,Aを眠り込ませて(第1行為),その後,ホームセンターで購入したX剤とY剤を混ぜて致死性のある有毒ガスを発生させることにより,眠り込んだAに有毒ガスを吸わせて(第2行為),これによりAを殺害しようと計画していました。しかし,甲は,第1行為によりAを眠らせたものの,急にAを殺害するのが怖くなり,第2行為を行いませんでした。Aが,第1行為による睡眠薬の摂取によって特殊な心臓疾患が悪化し,急性心不全で死亡した本問で,甲の行為に殺人既遂罪が成立するかを検討することになります。
 本問では,第1行為の時点で第2行為による構成要件的結果発生の現実的危険性が高まったとして,実行の着手を認めることができないかが問題となります。

ア 実行の着手について
 最決平16.3.22刑集58-3-187(刑法判例百選Ⅰ(第7版)64事件)が参考になります。この判例が挙げる実行の着手を判断するための考慮要素,すなわち,①第1行為が第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったこと,②第1行為に成功した場合,それ以降の犯罪計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められること,③第1行為と第2行為との間が時間的場所的に近接していることの各要素を示すなどした上,各事情を的確に当てはめ,第1行為時に殺人罪の実行の着手が認められるかを検討することになるでしょう(松原・総論P.314~9参照。)。
 本問では,①有毒ガスを吸わせる第2行為の性質上,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠といえ,②第1行為に成功すれば,A方内で眠り込むAに有毒ガスを吸わせる上で支障となる特段の事情はなく,③A方と甲の自車との位置関係からいって第1行為と第2行為との間に時間的場所的近接性も肯定できると考えられます。行為者のこのような犯行計画をも考慮すると,本問では第1行為の時点で実行の着手を肯定することが可能といえます。

イ 因果関係について
 第1行為とAの死亡との間に,Aに特殊な心臓疾患があったという行為時に存在する特殊な介在事情があることをどう評価するかが問題となります。
 相当因果関係説のうち,因果関係の判断基底に取り込む事情を一般人が認識可能なもの及び行為者が特に認識していた事情に限る見解からは,Aの特殊な心臓疾患を一般人は認識できず,甲も認識していなかったことから,因果関係を否定する方向に流れやすいと考えられます。
 それに対して,判例・通説と思われる危険の現実化説によれば,因果関係の判断基底に上記のような制限を加えませんので,本問の具体的事情から,睡眠薬入りのワインを飲ませる甲の行為には,特殊な心臓疾患と相まって急性心不全による死を惹起する危険が含まれており,その危険が結果に現実化したといえると説明することになるでしょう(松原・総論P.73~86参照。)。

ウ 故意について
 甲は,一連の行為によってその目的を遂げたので,故意が認められると思われます(松原・総論P.318~9参照。)。
 もっとも,甲が予測した因果の流れとは別の経路によって結果が発生しているので,因果関係の錯誤の検討をすべきでしょう。もっとも,前掲最決平16.3.22の見解からすると,因果関係の錯誤は故意を阻却しないので,故意が認められることになるでしょう(松原・総論P.241参照。)。

5 Aの腕時計を奪った行為について強盗罪(236条1項)の成否
 2項強盗の目的でAを眠らせ反抗を抑圧し,この機会を積極的に利用してAの腕時計を奪っていますので,甲にAの腕時計について強盗罪の成立を認めることも可能であると思われます(松原・各論P.235~240参照。)。それに対して,死者の占有を否定して甲に窃盗罪のみの成立を認めることも可能であると思われます。

4 的中情報★★★

・2020スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第1問(辰已専任講師・弁護士 原孝至先生ご担当)
「権利行使と恐喝罪」ズバリ的中★★
 本問設問1の解答に際して参考になる内容です。

・スタ論【スタート】2020刑法2(辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生ご担当)
2項強盗罪の『財産上不法の利益』」「処分行為の要否」「利益の移転の有無の判断基準」ズバリ的中★★★
 本問設問3の解答に際して非常に参考になる内容です。このテーマは,実務上・学術上の重要性から,そろそろ出題可能性が高いと判断して,敢えて出題致しました。

●第2問 刑事訴訟法

■公開:2020年09月15日/17:00

1 はじめに
 今年の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)は,事例を読んで〔設問1〕から〔設問3〕まで解答させる問題で,〔設問2〕は,小問が2つに分かれています。身体拘束中でない被疑者の取調べ(設問1),自白法則と違法収集証拠排除法則の関係(設問2),証拠調べ手続,犯人性の立証における余罪の証拠能力(設問3)など,令和元年以前の従来の設問形式で問われました。
 また,難易度としては,従来の設問形式であること,比較的主要なテーマを問うていることから,例年並みかと思われます。
 さらに,設問1の身体拘束中でない被疑者の取調べについては,令和2年考査委員の佐藤隆之教授の関心分野であり,同教授が論文を複数執筆されております(同「被疑者の取調べ」法学教室263号P.137~141,同「在宅被疑者の取調べとその限界⑴~⑷」法学(東北大学)68巻4号,69巻5号,71巻2号,71巻4号)。今後も考査委員の関心分野については,判例を中心に押さえておいた方がよいでしょう。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔設問1〕

  下線部①の取調べが,「強制の処分」(刑事訴訟法(以下,省略する。)197条1項但書)に当たるか,当たらないとすれば,任意処分の限界として許容されるかが問題となります。
 任意取調べについて,高輪グリーン・マンション事件では,取調べの適法性を,①「強制手段による」ものと評価されないか,②「諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度」にとどまっているか,という2段階の枠組みで判断しています(最決昭59.2.29刑集38-3-479,百選〔第10版〕6事件参照)。本問でも,任意取調べの適法性を論じる以上,同判例の枠組みに即して検討していくことになると考えられます。
 最初に,上記判例の判断枠組みである「強制手段」に当たるかという問題は,「強制の処分」(197条1項但書)の該当性の問題なので,最決昭51.3.16(刑集30-2-187,百選〔第10版〕1事件),最大判平29.3.15(刑集71-3-13,百選〔第10版〕30事件)等の判例の基準や,これに準ずる学説等の基準を定立し,下線部①の取調べが「強制の処分」(197条1項但書)に当たるかを検討します。
 なお,「強制手段」該当性について,従来は,実質的逮捕の問題として論じられており,学説の中にも形式的に任意の形をとっていても実質的にみて「逮捕」に当たらないかを問題とするものもあります。もっとも,「実質逮捕」は,身体や行動の自由に対する制約が実質的に身体拘束に当たる程度のものと評価されるか,という問題であるのに対し,「強制手段」は,身体拘束に限られず,取調べに伴い得る様々な「強制」を含むものであると解されています(宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法』(リーガルクエスト)(有斐閣,第2版,2018)P.107~8(堀江執筆))
 そして,上記基準の定立後,本問では,甲は積極的に取調べに協力する旨述べていたこと,取調べの冒頭に黙秘権の告知や退出の自由を告げられていたこと,取調べを拒否して帰宅しようとしたことはなかったこと,仮眠したい旨の申出がなかったこと,現に取調べを行っている1名の取調官の他に警察官が待機することはなかったこと等を考慮し,定立した基準に該当するかを論じます。
 次に,「強制の処分」に該当しないとした場合,「諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度」にとどまっているか,を論じます。この基準は,捜査比例の原則を任意取調べに適用したものと捉えるのが多数説です。多数説のように捉えた場合,取調べの必要性と,被疑者の行動の自由,心身の苦痛・疲労,一定程度の意思決定の自由等の反対利益を比較衡量し,「社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度」にとどまっているか論じます。
 本問では,住居侵入窃盗が連続して5件も発生していたこと,住民から早期犯人検挙を求める要望が多数寄せられていたこと,Wの供述以外に手がかりがなかったこと,Wが甲を目撃したとの証言等を考慮し,取調べを行う必要があったか,その程度等を論じます。そして,甲の不利益としては,甲の自宅とH警察署とは徒歩で10分の近距離であるから,休憩を取らせたとはいえ,自宅に戻して再度呼び出しを行うことに特段の問題がないにもかかわらず24時間という長時間にわたり取調べが行われたこと,取調べ中にQが嘘をつき,甲が自白したこと等が挙げられます。なお,PとQは,取調べの際に,甲からのトイレの申出にはいずれにも応じ,随時休憩を取らせ,取調べ中に警察官が待機することもなかった等,甲の不利益に配慮する態様が読み取れるので,この事情も考慮し,甲の不利益が取調べの必要性を上回り「社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度」にとどまっているか論じます。

 
〔設問2〕

1 小問1について

  本問では,自白に対する自白法則及び違法収集証拠排除法則の適用の在り方を,自説の見解に即して論ずる必要があります。
 自白法則における,「その他任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)の位置づけの理論的根拠としては,①虚偽排除説,②人権擁護説(以下①②を「任意性説」という。),③違法排除説等の見解があります。したがって,まずは自白法則について,自分がどの見解に立つのかを根拠と共に論じます。
 次に,自説による自白法則と違法収集証拠排除法則の関係性を論じ,自白に対する適用の在り方について論じます。自白法則と違法収集証拠排除法則の関係については,違法排除一元説,任意性一元説,二元説の対立があります。したがって,自白法則と違法収集証拠排除法則の関係についても,自己がどの立場に立つのかを根拠と共に論ずる必要があります。
 そして判例は,任意性説と親和性が高く,また下級審判例は,二元説の立場に立ったものが存在します(東京高判平14.9.4判時1808-144,百選〔第10版〕73事件)。この立場(任意性説,二元説)では,自白の「任意性」は,自白の証拠能力の包括的判断基準であり,「強制,拷問又は脅迫による自白」や「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」も,「不任意自白」の例示とみます。そして,その上で,二元説の立場では,自白法則による任意性の点とは別個に排除法則の適用を自白についても肯定します。これは,あくまで判例の立場に即した一例なので,理論的根拠の妥当性や論理的整合性があれば,どの立場から論ずることも可能です。

2 小問2について

  本問では,小問1で論じた自己の見解に基づき,下線部①の取調べで得られた甲の自白の証拠能力について論ずる必要があります。
 最初に,「その他任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)に当たり,証拠能力が否定されないか論ずる必要があります。例えば,虚偽排除説からは,長時間取調べやQの嘘が類型的に虚偽自白を誘発するおそれが高かったかという観点から論じます。
 次に,二元説の立場を採れば,別途,違法収集証拠排除法則によって,当該自白の採取方法に違法性があるとされれば,その証拠能力が否定されないか問題となります。違法収集証拠排除法則は,①令状主義を没却するような重大な違法と②将来の違法捜査を抑制するために排除するだけの相当性がある場合に証拠能力が否定されます。例えば,本問で任意性説を採り,下線部①の取調べを違法とした場合,その違法が重大で,排除相当性があり,自白の排除法則を適用すべきか論ずることが必要になります。

〔設問3〕

1 証拠意見について

  裁判所は,証人尋問請求がなされた場合,証拠採否の決定をしなければなりません(刑事訴訟規則190条1項)。また,この決定に際し,裁判所は,請求の相手方の意見(証拠意見)を聴取しなければなりません(同条2項)。
 本問では,検察官からWの証人尋問請求がなされていることから,裁判所は,甲の弁護人の証拠意見を聴取して,採否の決定をすることになります。

2 Wの証人尋問の立証趣旨及び立証方法について

⑴ 証拠意見として異議を述べる場合には,その理由も述べる必要があります。本問では,甲の弁護人は,「異議あり。」として異議を述べると同時に,「関連性なし。」との異議の理由を述べていますが,関連性には自然的関連性や法律的関連性があるので,甲の弁護人がいずれの意味での関連性がないと述べているのかが問題となります。
 本問では,検察官は,「X方における甲の犯行と,本件住居侵入窃盗の犯行とは手口が類似しており,このことは,甲が本件住居侵入窃盗の犯人であることを推認させる事実である」としてWの供述調書を証拠調べ請求していることからすると,Wの供述調書の立証趣旨は,本件住居侵入窃盗における甲の犯人性と分かります。また,検察官は,かかる甲の犯人性を,本件住居侵入窃盗と類似するX方における甲の犯行事実(余罪)等により立証しようとしていることも分かります。そして,問題文には,検察官は「Wの前記供述調書と同じ立証趣旨で,Wの証人尋問を請求した」とあることから,Wの証人尋問請求も,甲の犯人性を立証趣旨とすること,また,甲の犯人性を余罪等により証明しようとしていることが分かります。

⑵ 最判平24.9.7(刑集66-9-907,百選〔第10版〕62事件)は,「前科も一つの事実であり,前科証拠は,一般的には犯罪事実について,様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有している。反面,前科,特に同種前科については,被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく,そのために事実認定を誤らせるおそれがあり」と述べて,同種前科による事実認定を法律的関連性の問題として捉えています。
 本問は,甲の余罪による事実認定であり,同種前科による事実認定ではないものの,同種前科による事実認定と同様に,法律的関連性の問題に位置付けることができるでしょう。したがって,甲の弁護人は,法律的関連性がないことを意味して「関連性なし。」と述べたといえます。

3 犯人性の立証における余罪の証拠能力について

⑴ では,犯人性の立証において,余罪に法律的関連性が認められるでしょうか。
 同種前科や余罪といった類似事実による事実認定に関し,判例・裁判例は複数存在します。代表的なものは,前述の百選62事件であり,前科証拠の許容性について,「前科証拠は,単に証拠としての価値があるかどうか,言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,前科証拠によって証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許される」とした上で,前科証拠を犯人性の証拠とする場合の要件について,「①前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,②それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,③それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなもの〔前科証拠について,「署名」と呼ばれるような高度の特異性および類似性を要求する趣旨〕であって,初めて証拠として採用できるものというべきである」と判示しています。
 これ以外にも,被告事件の強姦の手口と酷似した特殊な手口を用いた同種前科を犯人性の証拠とした事案(水戸地下妻支判平4.2.27)や,亜ヒ酸を用いる特殊な手口による類似事件たる余罪を犯人性の証拠とした事案(大阪高判平17.6.28,和歌山カレー毒物混入事件控訴審判決)があります。もっとも,これらの裁判例を押さえている受験生は多くないと思われるので,百選62事件を基に本問を検討することが現実的と思われます。

⑵ 仮に,百選62事件を基に本問を検討するとした場合,上記①~③要件に関し,以下の事実を指摘・評価するべきでしょう。

ア 要件①について
 「令和元年10月から11月」にかけて「H市内で」「何者かが一戸建ての民家に侵入して室内から金品を窃取するという住居侵入窃盗」事件が「連続して5件発生」したこと,「5件いずれの事件においても,現場民家の1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスが半円形に割られた上で施錠が外され,室内が物色されて金品が窃取」されていること,甲が「X方において,庭に面した1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスにガラスカッターを当てて」いたこと,「X方掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスに半円形の傷跡が残って」いたこと(この事実は,X方の実況見分調書で立証される)といった事実を指摘・評価すべきでしょう。

イ 要件②について
 「本件住居侵入窃盗における窓ガラスの半円形の割れ跡が,X方窓ガラスに残された半円形の傷跡と形状において類似」していること,「甲方から発見押収されたガラスカッターによりいずれも形成可能」であること(以上の事実は,X方の実況見分調書や窓ガラスの割れ跡等に関する実況見分調書で立証される)といった事実を指摘・評価すべきでしょう。

ウ 要件③について
 上記①及び②から,甲の余罪と本件侵入窃盗について特異性および類似性が高度であることを認定することになります。

エ なお,百選62事件は前科に関する判例であることから,前科と余罪の差異に配慮した論述もできる(前科は過去において証拠によって認定された事実であるのに対し,余罪はいまだ証拠によって認定された事実ではない点など)と評価が高くなるのではないでしょうか。

4 結論

  甲の余罪による事実認定は法律的関連性を欠き許されないとの結論を導いた場合には,裁判所は,Wの証人尋問請求を却下する旨の証拠決定をすることになります。他方,甲の余罪による事実認定が許されるとの結論を導いた場合には,裁判所は,Wの証人尋問を行う旨の決定をすることになります。

4 的中情報★★★

・2020司法試験論文本試験刑事訴訟法出題大予想 危ない重要判例速まくり&旧司法試験過去 問からの出題予想
「危ない重要判例速まくり 身柄拘束中でない被疑者の取調べ」ズバリ的中★★★
 身柄拘束中でない被疑者の取調べに関しては,令和2年考査委員の佐藤隆之教授の関心分野です。特に,高輪グリーン・マンション殺人事件などは,近時の実務の動向及び本試験における出題の周期性に鑑みて,再度出題されてもよい判断して,同出題大予想で紹介させて頂きました。

・2020スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第2問(辰已専任講師・弁護士 本多諭先生ご担当)
「自白の任意性」ズバリ的中★★★
 証拠法の中でも伝聞法則などに比較して手薄になりがちな自白法則に関して,本問はよい演習となったと思われます。

・2020スタンダード論文答練(第1クール)刑事系1第2問(辰已専任講師・弁護士 松永健一先生ご担当)
「同種前科・類似事実による事実認定」ズバリ的中★★★
 証拠法の中でも手薄になりがちな当該テーマに関して,本問はよい演習となったと思われます。

●倒産法

■公開:2020年09月02日/14:30

1 はじめに
 本年度倒産法の第1問は破産法からの出題でした。破産手続開始時点で係属中の詐害行為取消訴訟の帰趨,及び危機時期における担保提供と代物弁済に対する否認の可否という倒産手続法・倒産実体法の重要論点が出題されました。
 第2問は,事業不振に陥った会社から相談を受けた弁護士として破産手続と再生手続のどちらを申し立てるべきか検討するもので,例年にはない形式の出題がなされました。検討すべき内容としては,主に再生手続における事業継続を実現するための制度について問われており,実質的には民事再生法からの出題といえます。
 上記のとおり第2問で新しい形式の出題がなされましたが,内容としては破産法と民事再生法の両方からの出題がなされた点,又,倒産実体法と倒産手続法の双方にわたる出題がなされた点では例年通りの出題であり,又,難易度も例年並みと思われます。

2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について
 破産者が行った担保提供行為について詐害行為取消訴訟が係属していた事例について,その後,破産手続開始の決定がなされた場合に当該訴訟がどのような取り扱いを受けるかが問われています。破産手続開始決定時に係属する詐害行為取消訴訟の取り扱いについて定めた破産法45条に基づき同訴訟の中断及び受継について論じることになります。

2 設問2について
 危機時期にA社が親会社の債務を担保するために,A社の土地を物上保証に提供した行為について破産法160条第1項又は破産法162条第1項に基づく否認の主張の当否が問われています。
 通常の物上保証であれば破産法160条の適用が問題となりますが,本問は親会社の債務を担保するための物上保証であるという特殊事情を考慮した上で,破産法162条第1項の適用の可否についての検討も求められていると考えられます。
 物上保証ついては,無償行為否認に関する最判昭和62年7月3日(民集41.5.1068)及び最判平成29年11月16日(民集71.9.1745)における無償性の議論が参考になりますが,本問は「破産法160条第1項又は破産法162条第1項に基づく否認の主張の当否」が問われており,無償行為否認(破産法160条第3項)の適用が問われているわけではない点に注意が必要です。

3 設問3について
 危機時期にA社が所有権留保車両を担保権者D社に対して代物弁済した行為を否認できるかが問われています。
 破産法162条1項の各要件を検討とは別に,本問では否認の一般的要件としての有害性の有無が問題となります。
 所有権留保の破産手続上の取扱い(別除権か取戻権か)を論じた上で,所有権留保は破産手続によらず実行可能なこと,本問の被担保債権が車両評価額を上回っていることなどの事実から有害性の有無を論じることになりますが,一般的には有害性は否定され否認は認められないとの結論をとることになると思われます。

 
〔第2問〕

1 概要
 本問では事業再生のために事業をスポンサーに譲渡するために,破産手続による場合と再生手続による場合とを比較して,いずれを申し立てるべきか論じることが求められています。問題文にて与えられた3つの視点について論じながら,結論を導く必要があります。

2 ①(D社に対して優先弁済をするための方策)について
 再生手続においては,再生手続開始申立後,再生手続開始決定前に,裁判所又は裁判所に代わる監督委員の許可を得て資金の借入れなど事業の継続に欠くことができない行為を行った場合の共益債権化の制度があること(民事再生法120条1項から3項),破産手続にはこのような制度がないことを指摘し,その上で,本問でD社がA社に資金援助を行った場合に優先弁済を受けることができるか論じる必要があるでしょう。

3 ②(E銀行の抵当権の実行を阻止し又消滅させるための方策)について
 破産手続における担保権消滅請求手続(破産法186条以下)は担保物件の任意売却を目的とする制度であるのに対し,再生手続における担保権消滅請求制度(民事再生法148条以下)は担保物件が事業の継続に欠くことができない場合に,担保実行を阻止することを目的として担保権を消滅させる制度であることを指摘する必要があります。その上で,本問において,A社の事業継続のためにE銀行による担保権実行を阻止できるか論じることになります。

4 ③(F社との取引関係を維持するための方策)について
 F社は代金が毎月の期限までに支払われなければ取引を打ち切ると述べていることから,F社との取引関係維持のためには代金の早期弁済を行う必要があります。そこで,再生手続においては,事業の継続に著しい支障を来す場合の少額債権の弁済許可制度(民事再生法85条5項後段)がありますが,破産手続にはこのような制度はないことを指摘した上で,F社との取引関係維持の方策について論じる必要があります。

 
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●租税法

■公開:2020年09月04日/14:30

1 はじめに
 所得税法・法人税法の双方からバランスよくかつ横断的に出題がなされていること,条文操作や事案の当てはめを問う問題と理論的側面を問う問題の双方の出題がなされていることなど,出題傾向・形式は概ね例年通りです。租税法の基本的理解が問われている点も例年と変わるものではなく,難易度は例年通りと考えられます。
 もっとも,本年度に特徴的な点として,①設問ないし問われている事項の数が例年よりも多いこと,②当てはめるべき事実関係が比較的少ないこと,③しばらく出題のなかった国税通則法が問われていることが挙げられます。設問の問い方についてみると,第2問の設問1⑴⑵と設問2⑴では「簡潔に説明しなさい。」とあるのに対し,それ以外では「説明しなさい。」と指示があることから,この点を踏まえて要領よく回答していくことが求められるでしょう。

2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1⑴
 所得税法23条乃至33条の所得区分に該当しないことから,一時所得(同法34条1項)を検討することになります。最判平成29年12月15日の判断枠組みに本件事情を当てはめると,Aの一連の行為は「営利を目的とする」「継続的行為」に当たるため,本問の所得は一時所得には該当しません。よって,本問の所得は雑所得に該当します(同法35条1項)。

2 設問1⑵
 ソフト小売販売事業に係る所得は事業所得を構成すると解されるところ,Aは馬券購入を同事業に役立てていることから,馬券購入も同事業の内容に含まれるものとして本問の所得が事業所得を構成するかが問題となります。馬券購入を通じて得られるノウハウをソフト小売販売事業に活かすにしても,必ずしも従前の態様・規模で馬券購入をする必要はないと考えると,馬券購入はあくまでも同事業とは別個独立の経済活動と評価でき,同事業に係る事業所得を構成しません。この場合,本問の所得区分は,小問⑴と同様になります。

3 設問2
 所得の年度帰属は,所得税法36条1項の解釈上,実現主義ないし権利確定主義に基づき判断されます。
 賃料増額請求権は形成権であり,権利行使時に遡って効果が生じるものではあるものの,賃借人Dがこれに応じず係争に発展したという本件事情のもとでは,判決の確定をもって所得実現ないし権利確定が認められます。よって,本問の収入は平成29年分に帰属します。

4 設問3⑴
 資産の高額譲受けについて,法人税法には明文規定がなく,処理方法が問題となります。同法22条2項の解釈論(最判平成7年12月19日参照)ないし22条の2第4項により,譲渡人側では時価相当額が益金算入されるところ,このこととの対比・平仄から,譲受人側では,時価(3000万円)と譲渡対価(消滅した債権4000万円)との差額部分について,同法37条8項あるいは7項を適用するという解釈論が考えられます。本件の差額部分1000万円は,実質的な贈与と認められることから,当該条項により寄附金の額に算入され,同条1項の限度でのみ損金算入が認められます。

5 設問3⑵
 資産の有償譲渡であるため,時価である3300万円が益金算入されます(同法22条2項,22条の2第4項)。
 また,小問⑴において甲土地の取得を3000万円の取引と擬制ないし評価したことから,3000万円が譲渡原価として損金算入されます(同法22条3項1号)。

〔第2問〕

1 設問1⑴
 本件役員給与は,法人税法22条3項2号に該当する費用です。役員給与は同項柱書の「別段の定め」である同法34条1項柱書により損金不算入となるのが原則ですが,本件役員給与は同条1号(定期同額給与)に該当するため,損金算入の余地があります。
 同法34条1項の趣旨は,恣意的な課題ベースの縮小を防止することにあります。

2 設問1⑵
 34条2項の適用関係について,①同条3項,②1項,③2項の順序で検討していくことを説明することになります。
 その上で,それぞれの規定の適用があるかを具体的事実に基づいて簡潔に検討していくことになります。
 なお,AはB社の使用人であったという事実があるため,同条1項の検討の際に使用人兼務役員の使用人給与(同条6項)を検討することも考えられます。

3 設問2⑴
 所得区分については,収受済みの利息も未収受の利息のいずれも,所得税法23条乃至34条の所得区分に該当しないため(利子所得における「利子」には該当しません。),雑所得に該当します(同法35条1項)。
 年度帰属については,権利確定主義(同法36条1項)のもとでは,収受済みの利息はもとより未収受の利息についても,その請求権が発生した日の属する年分に所得が帰属します。

4 設問2⑵
 Eの死亡により貸付金及び未収利息の回収が事実上困難になったと考えられることから,貸倒損失が問題となります。Eにみるべき資産がなく,相続人も不見当であるなどの本件事情のもとでは,客観的にみて全額が回収不能といえるため,未回収債権額を貸倒損失と評価することができます(貸倒損失の判断基準について,法人税法に関してではあるものの,最判平成16年12月24日)。この場合,所得税法51条4項により,同項所定の限度内において,雑所得の必要経費への算入が認められます。

5 設問3
 甲の譲渡による利益は平成28年分の譲渡所得(同法33条1項)を構成するところ,判決の確定により,同年分の譲渡所得の計算上,当該利益がなかったことが確定します。
 そこで,Aは,平成28年分の法定申告期限(平成29年3月15日)から5年以内に,国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求により救済を求めることができます。なお,本件では,同条2項1号の事由にも該当しますが,期限の先後関係から,同項に基づく更正の請求は認められません(同条2項柱書かっこ書)。

 
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●経済法

■公開:2020年09月04日/16:45

1 はじめに
 第1問は,主に垂直型企業結合の検討を問う問題です。垂直型企業結合については,昨年12月の企業結合ガイドラインの改定(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/dec/191217_kiketu.html)において公正取引委員会の考え方の詳細が示されるなど,実務的にも注目が集まっている論点であり,法改正・ガイドライン等の直近の動きをフォローしておくことが試験対策との関係でも重要といえます。
 第2問は,事業者団体による行為の独占禁止法上の評価を論じさせる問題です。一昨年に公取委が排除措置命令を出した神奈川県LPガス協会事件(https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/mar/180309_1.html同案件に対して取消訴訟が提起され,本年3月に協会敗訴の判決が出された模様。)の法執行が参考になる問題と考えられ,最近の執行事例を押さえることの重要性を再認識させる問題といえます。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 条文選択
 乙機器を製造販売するY社が,乙製品に使われる甲部品を製造販売しているX社の全株式を取得することが,独禁法10条1項に違反しないかを検討することとなります。

2 一定の取引分野について
 まず,一定の取引分野の画定では,①商品範囲について,乙機器が使われる丙装置の仕様の違いをどのように考慮するか,②地理的範囲について,世界市場を画定することができるか,などを論じることが必要となります。

3 「競争を実質的に制限することとなる」か否かについて
 次に,これらの分野における「競争を実質的に制限することとなる」か否かが問題となります。X社が甲部品の分野で50%の市場シェアを有しており寡占化が進んでいること,Y社が乙機器の分野で30%の市場シェアを有していることを前提に,垂直型企業結合の懸念(投入物閉鎖・顧客閉鎖)による競争の実質的制限が起きるか否かを事実関係に則して丁寧に論じることが本問のポイントといえます。投入物閉鎖の観点,すなわち,Y社がX社に対して甲部品を競合他社に対して供給しないよう求めることによりY社の競合他社が市場から排除されるといった懸念については,Xの競合として45%の市場シェアを有し供給余力が十分あるA社が存在することなどから,Y社の競合他社は比較的容易に代替的取引先を見つけることができることを論じていくことになると考えられます。また,顧客閉鎖,すなわち,Y社がX社以外から甲部品を購入しないことによりX社の競合他社が市場から排除されるといった懸念については,そもそもY社の市場シェアがそれほど大きくなく,そのほとんどをX社からすでに仕入れていることを前提に,本件株式取得後もX社の競合他社が他の代替的な販売先を容易に見つけられることを問題文の事情を使いながら論じていくことになると考えられます。

 
〔第2問〕

1 適用条項について
 まず,適用条項としては,事業者団体である協会が,①保守業務を行っている会員間で既存の取引先を尊重して奪い合わないよう強く指導する行為,②非会員との間で清掃に係る提携を禁止し,よって非会員を保守業務から排除した行為が,それぞれ,又はあわせて独禁法8条1号,3号又は4号に該当するかを論じることになると考えられます。①及び②によって,8条いずれかの行為要件に該当すること自体は避けられないと思われます。

2 問題点について
 そこで問題となるのは,環境保全・公衆衛生という,公益目的の観点で上記のような制限が正当化されるかであり,この点を丁寧に論じることが重要であると考えられます。日本遊戯銃協同組合事件(東京地判平成9年4月9日)等における判断基準に基づき,当該目的を達成するために必要最小限度の制限なのか,より制限的でない他の方法が存在しないかなどを検討する必要があると思われます。A県における河川の汚濁が問題となっていることは認められるものの,これに対しては関連法規に基づく行政指導・行政処分等により取り締まるべきものであり,会員間での競争を禁止することが正当化されるべきか,行政指導・処分を受けていないような業者との提携を禁止することが正当化されるべきか等について,問題文の事実関係に則して論じていくことになるかと思われます。

 
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●知的財産法

■公開:2020年09月02日/14:30

1 はじめに
 第1問(特許法)は,これまでの過去問で問われていない論点ばかりを集めた印象であり,発明該当性など日頃の勉強では飛ばしてしまいがちな論点,FRAND宣言に基づく権利行使というトピックな論点などを,すみずみまで勉強することが求められたと考えられます。
 第2問(著作権法)は,いずれも著名な判例をベースに,判例の結論をなぞるだけでなく,具体的事案に即して反対の立場にも配慮しつつ考えることを求められたといえます。

2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について
 設問1(1)では,Xは,本件特許を受ける権利を有することの確認請求訴訟を提起し,確定した認容判決を「権利の承継を証明する書面」(施行規則5条1項)として,出願人名義変更届を提出する。(2)では,XはZに対し本件特許権の移転請求(74条1項)をなし得,Zは,善意の第三者として有償の通常実施権を有するにとどまる(79条の2)という考え方と,Zは解除前の第三者(民法545条1項ただし書)に当たるため,移転請求も制限されるという考え方がある。中山『特許法』第4版367頁など後者の考え方が主流かと思われるが,問題の所在が指摘できていればどちらの立場でも良いでしょう。

2 設問2について
 設問2前段では,最高裁平成12年2月29日判決〔黄桃育種増殖法事件〕を念頭に,「発明」の要件(2条1項)のうち「自然法則を利用した技術的思想」といえるか(ないし未完成発明ではないか)のメルクマールとなる「反復可能性」について,疾病の診断方法という技術分野であることをふまえ,疾病の発見確率が20%であることをもってこれがあるといえるかを論じる必要がある。後段の産業上の利用可能性(29条1項柱書)については,必ず副作用が生じる点と,診断方法である点が問題となり,後者については,東京高裁平成14年4月11日判決〔医療行為事件〕をふまえて論じる必要があります。

3 設問3について
 設問3については,FRAND宣言された特許権に基づく権利行使の問題であり,知財高裁平成26年5月16日判決〔アップル対サムスン事件〕をふまえ,差止請求はXがFRAND宣言によるライセンスを受ける意思を有する者であることの主張立証に成功した場合には権利濫用(民法1条3項)となること,損害賠償請求は原則としてFRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内で認められることを指摘することになるでしょう。

 
〔第2問〕

1 設問1について
 設問1では,最高裁平成13年10月25日判決〔キャンディ・キャンディ事件〕をふまえ,甲が二次的著作物Qの原著作物の著作者としての権利(28条)を有し,複製権(21条)及び譲渡権(26条の2第1項)侵害にもとづく差止請求が認められるかについて論じる。「異なる見解」としては,本件特徴は甲の創作性に由来しておらず原著作者の権利を認めるべきでないとする見解などが考えられます。

2 設問2について
 設問2では,丁による引用の抗弁(32条1項)が認められるかが問題となり,知財高裁平成22年10月13日判決〔絵画鑑定証書事件〕をふまえ,引用の目的が認められ,公正な慣行に合致し正当な範囲内と言えるかについて,具体的な事実を丁寧に拾って当てはめることが求められます。

3 設問3について
 設問3では,東京高裁平成17年3月3日判決〔2ちゃんねる事件〕をふまえ,掲示板運営者戊に対する公衆送信権(23条1項)侵害にもとづく差止請求が認められるかについて論じる。なお,問題文の具体的事実から,戊がどの時点で上記裁判例にいう「侵害行為を放置」し「その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合」に該当したのかを明確に示すことが望ましいでしょう。

 
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●労働法

■公開:2020年09月02日/14:30

1 はじめに
 論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫していますが,第2問については,集団的労働関係に関する出題がされるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度は,第1問が個別的労働関係に関する出題,第2問が集団的労働関係に関する出題と,オーソドックスな出題形式になりました。
 なお,近年は,労働組合法上の労働者概念,派遣法違反と派遣先の雇用責任など,比較的直近に注目される裁判例が示されているテーマや,学会で注目されているテーマがしばしば出題される傾向にありましたが,本年度は,第1問が2020年の3月に重要な最高裁判決が示された「固定残業代」について,以前の重要判例をほぼそのまま下敷きにしたような事例が出題されました。受験生としては,直前の年も含め,近年の注目される裁判例をチェックしておくことが重要であることが改めて示されたといえそうです。
 他方,昨年度までは,きわめてオーソドックスかつシンプルな論点を提示しつつ,事例中における事実関係を適切に抽出し,あてはめを構成する能力が問われる出題がしばしばみられましたが,本年度は,第1問,第2問ともに,法的な論点の抽出と,当該論点についての考え方の理解を問う出題となっており,近年の傾向とはやや毛色が異なっているように思えます。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

  第1問は,固定残業代制度の有効性について争われた重要判例であるテックジャパン事件(最一小判平24.3.8労判1060号5頁)をほぼそのまま引き写しにした出題でした。設問1と設問2ともに,同事件で争われた論点であり,その意味で,まずは重要判例であるテックジャパン事件の内容・判断をきちんと勉強していたかどうかが問われた出題と言えます。また,設問中の事実をどのように抽出し,評価・あてはめをするか,というよりは,端的にそれぞれの論点について,有効性が認められるための要件を理解しているかが問われた設問と言えます。設問1の「固定残業代の有効性の要件」,設問2の「合意による賃金債権の放棄の可否とその要件」のいずれについても,重要な最高裁判決が示されている基本的な論点であり,仮に上記テックジャパン事件のことを知らなかったとしても,各論点について一通りの勉強をしていれば,解答自体はそれほど難しくなかったと思われます。その意味で,端的に基礎的な勉強量が試された出題と言えるでしょう。

1 設問1について
 設問1は,1カ月の労働時間がおおよそ160時間前後となるという前提のもと,1カ月の労働時間が180時間以下の場合には時間外労働手当を支払わないという制度の有効性を検討する必要があります。
 この点,テックジャパン事件最高裁判決は,月ごとの勤務日数が異なる→月労働時間が180時間の場合における法定時間外労働の時間数が異なる→固定残業代に相当する時間数および1時間当たりの賃金額が確定できない→所定労働時間に対応する基本給と時間外労働手当の判別ができないとして,固定残業代制として認められない(基本給=所定労働時間に相当する賃金)と判断しています。
 本問も基本的には同様の論証をすればよいと考えらえますが,司法試験の答案ということを踏まえるならば,労働基準法の強行性→契約によって労基法37条に反する賃金制度を定めることはできないこと,使用者は労基法37条所定の時間外労働手当を支払う必要がある→37条を遵守しているといえるためには,所定労働時間に対応する賃金の額が確定し,固定残業代の金額と,それが何時間分の時間外労働に対応しているかが明確に確定(判別)できなければならない→上記の「判別可能性」が固定残業代制度の有効要件となる(判断基準となる)ことなどを示したうえで,本件においてはこの条件を満たさない旨を論じるのが良いと考えられます。

2 設問2について
 設問2では本件のような制度であるとXが理解したうえで,Y社との雇用契約を結んでいることから,月労働時間が180時間以下の場合における時間外労働手当をXが放棄しているかどうかが問題となっています。
 これは,同意による賃金債権の放棄の可否の問題です。
 したがって,上記テックジャパン事件が参照しているように,賃金債権の放棄に関する重要判例である,シンガー・ソーイング・メシーン事件最高裁判決(最判昭48.1.19民集27巻1号27頁)に沿って論証すればよいことになります。ここでも,司法試験の答案ということを踏まえれば,労基法24条が定める賃金全額払い原則を指摘し,労基法の強行法規性や賃金支払の確実な履行という労基法24条の趣旨などに言及したうえで,賃金債権の放棄が認められるためには,「労働者の真の自由な意思」によるものでなければならない旨を示し,本件においては,Xが「真の自由な意思」にもとづいて賃金債権(月労働時間180時間以下の場合における時間外労働手当の放棄)に同意したといえるかどうかを論じればよいでしょう。

 
〔第2問〕

  著名な判例を下敷きに,重要論点についてストレートに問う形の第1問に対し,第2問はややマイナーな論点について問う出題となっています。受験生の中で差が生じたとすれば,こちらでしょうか。

1 設問1について
 設問1は,使用者の団体交渉拒否に対する法的な対応としていかなるものが考えられるか,という極めて基本的な知識を問うものです。基礎について丁寧な学習ができていれば,解答は容易であったと思われます。他方で,答練や模試ではこうした基礎的な部分がおろそかになっている受験生も散見されます。改めて,申し立ての内容や方法といった基礎学習をきちんとすることを心がけてほしいと思います。
 本問では,司法救済,行政救済の区別はされていないことから,A社の団体交渉拒否に対しては,労組法7条2号を根拠に,団体交渉拒否に対する救済(行政救済は,労働委員会に対する断交応諾命令等を求める,司法救済としては,断行を求めうる地位の確認請求)について記せばよいでしょう。あわせて,労組法7条3号の支配介入についても言及することが望ましいでしょう。なお,問われているのはE組合が求める救済の内容ですので,Cの減給処分の適否等については言及するべきではありません。

2 設問2について
 設問2は,使用者による団体交渉拒否に正当な理由があるといえるかどうかが問われています。事例の記載から,問われているのは,①CがE組合員であることを示す名簿の提示がないこと,②CがB組合に加入しており二重交渉の可能性があること,③Cが管理職であり,労組法2条但書1号に抵触する可能性があること,の3つについて検討する必要があるでしょう。
 ①については,一般的には,組合員名簿等の提出がなければ団体交渉に応じないという態度は,それが必要な特段の事情がなければ違法な団体交渉拒否となると理解されています。②については,二重交渉のおそれが強い場合には,交渉権が整理される場で交渉の拒否が許される余地があると考えられていますが,本問の場合,B組合が本件については解決済みとしているとして取り合わない以上,二重交渉のおそれが強いとは言えず,正当な団体交渉拒否とは言えないものと考えられそうです。③については,労組法2条但書1号の解釈が問題となります。これについては,条文上,「雇入解雇昇進または異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」「職務上の義務と責任とが労働組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者」といったように,限定的な定め方がされており,いわゆる役職上の「管理職」に当たれば当然に「利益代表者」となるわけではありません。本件についても。事例に示された事実から,労組法2条但書1号の文言に抵触しない旨を論証していけばよいものと思われます。

 
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●環境法

■公開:2020年09月02日/14:30

1 はじめに
 第1問は,土壌汚染対策法・水質汚濁防止法等の制度理解,関係法令の解釈・適用,工場の敷地所有者等・都道府県知事・周辺住民といった各主体の関与のあり方が問われています。
 第2問は,自然公園法等の地域規制の制度理解,関係法令の解釈・適用,規制の手法・内容及び救済手段が問われています。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について
 〔設問1〕は,主に土壌汚染対策法に基づく届出の理解を尋ねています。具体的には,土壌汚染対策法等の仕組みの基本的理解の他,関連法令の理解,甲工場廃止時及び甲工場跡地掘削時等の具体的状況の違いの分析が問われています。
 小問(1)は,甲工場の廃止等の場面であり,トリクロロエチレンなどを含む排水を排出する特定施設の使用の廃止の場面といえます。そこで,小問(1)前段では,有害物質使用特定施設使用廃止の土地の所有者等の調査等の義務(土壌汚染対策法3条1項本文)に関する理解が問われています。小問(1)後段では,その例外としての都道府県知事の確認(同項ただし書)の理解が問われています。なお,小問(1)前段では,有害物質使用特定施設使用廃止に伴う水質汚濁防止法10条所定の届出の理解も問われていると考えられます。
 小問(2)は,甲工場の廃止等から数年後に,A社が甲工場の跡地に乙工場を設置するために,A社が甲工場跡地を掘削しその土壌を搬出して広場に積み上げ保管した場面といえます。こうした事実及びこの広場の位置関係等に着目し,健康被害が生ずるおそれのない場合とある場合に関する理解を示すことが求められています。
 具体的には,健康被害が生ずるおそれがない場合には,甲工場跡地での掘削の規模に照らし形質変更届出を要することとなることが問われています。また,健康被害が生ずるおそれがある場合には,要措置地域の指定が行われ,A社は調査報告を要することとなることが問われています。
 ここで,小問(2)は設問文で「工事を行った際」と時点を特定しています。そして,小問(2)の設問文では,設問2で登場する土壌汚染や地下水汚染に関する報道内容が記載されていません。そのため,保管開始直後に直ちに健康被害が生ずるおそれが生じる場合とはいえないと考える余地があります。一方で,問題文には保管場所の位置関係が記載され,資料には形質変更届出の要否に関する内容に加えて,健康被害に関する基準が記されています。そのため,健康被害が生ずるおそれがある場合といえるかについては,慎重な考慮が求められています。

2 設問2について
 〔設問2〕は,A社の保管していた土壌から,発がん性のある揮発性有機化合物が地下に浸透し,地下水を汚染し,井戸水等を経由して,公園内の池の水をも汚染していることが新聞で報じられた段階で,B県知事がA社にいかなる法的措置を採ることができるかを尋ねています。
 ここで,B県知事は,A社に対し,土壌の汚染状況の調査を命令することができます(土壌汚染対策法5条)。なお,土壌汚染状況調査の結果との関係で,要措置区域の指定(同法6条1項)についても問われている可能性があります。
 また,B県知事はA社に対して地下水浄化措置命令(水質汚濁防止法14条の3第1項)を採ることができるかについて,条文に即して要件をみたすかを具体的に検討することが求められています。
 なお,A社が搬出した土壌を自社用地に積みあげ保管した事実から,不法投棄の刑事告発(廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条,刑事訴訟法239条2項)を想起することができます。もっとも,設問2の設問文や問題文では保管の期間・態様の事実が明示されていないこと,過去の設問文と採点実感をみると行政上の対応措置との設問文に対して採点実感では刑事告発へ言及することが可能と記載されるにとどまることから(平成21年司法試験採点実感等に関する意見(環境法)参照),設問2の「法的措置」で主に求められるのは,地下水浄化措置命令の検討と考えられます。

3 設問3について
 〔設問3〕は,DらがA社に直接採ることができる法的請求の有無を尋ねています。具体的には,民事上の請求のうち,差止請求及び損害賠償請求の可否について尋ねています。
 ここで,Dらの損害が現に発生したことを根拠付ける具体的事実を挙げることは難しく,DらがA社に不法行為に基づく損害賠償請求を行うことは困難と考えられます。
 一方で,差止請求についてみると,人格権に基づく請求が考えられます。この請求の可否は受忍限度論で判断されるところ,土壌汚染の濃度基準を大幅に超える汚染であり,かつ,健康被害のおそれありとして要措置区域の指定要件をみたすほどの汚染である場合,受忍限度を超える被害といえると考えられます。なお,民事仮処分の申立ての理解についても問われている可能性があります。

 
〔第2問〕

1 設問1について
 〔設問1〕では,国立公園の区域の陸域内における行為について,自然公園法の制度の理解を問うものです。具体的には,特別地域に関する許可制度(自然公園法20条)と普通地域に関する届出制度(同法33条)との間で,規制手法・内容が異なることが問われています。
 また,許可制度と届出制度の違いに加えて,普通地域が特別地域と公園地区以外の区域とのバッファーゾーン(緩衝地域)の役割を果たすこととの対比において,特別地域内の利用調整地区における立入り規制(同法23条3項)といった規制的手法及び手数料(同法31条)といった経済的手法を挙げることも考えられます。
 さらに,こうした規制手法・内容の違いは自然公園法の制度趣旨から生じていることが問われています。具体的には,自然公園は,景観の優秀性,自然状態を保持する必要性,公園利用上の重要性の程度によって,特別地域,普通地域等に区分されていることの理解が問われています。

2 設問2について
 〔設問2〕では,第一種特別地域内における建物の建築計画規制に関する理解が問われています。具体的には,AがホテルCの元の所在地と同一の位置に,従前と全く同一の高さ,面積とデザインによる建物を建築する計画を立案したという場面において,このAの計画に関する自然公園法上の問題点,とりわけ許可制との関係における問題点を検討することが求められています。
 まず,Aの計画が許可制の対象となるのかが問題となります。Aの計画は,第一種特別地域内で一旦解体したホテルCの跡地に従前と同様の建物を建築することを内容としています。そのため,許可制の対象となります(同法20条3項柱書本文,同項1号)。
 次に,Aの計画に許可が認められるか,どのような許可基準が適用されるかが問題となります。
 ここで,資料では,Aの計画する建築物が「前各項の規定の適用を受ける建築物」(自然公園法施行規則11条6項柱書本文かっこ書)に該当しないことが記されています。そこで,自然公園法施行規則11条1項2号及び5号該当性,同条2項ただし書該当性,同条6項柱書本文の適否等が問題となります。
 また,Aの計画に適用される許可基準として,同条37項所定の基準も併せて適用されます。したがって,Aの計画が,「申請に係る地域の自然的,社会経済的条件から判断して,当該行為による風致又は景観の維持上の支障を軽減するため必要な措置が講じられていると認められるものであること」(同項1号),「申請に係る場所又はその周辺の風致又は景観の維持に著しい支障を及ぼす特別な事由があると認められるものでないこと」(同項2号)に該当するかも問題となります。

3 設問3について
 〔設問3〕では,仮にホテルCの建築が認められない場合においてAが求め得る救済手段が問われています。
 まず,自然公園法64条の損失補償の理解が問われています。
 また,地域指定による権利制限を受けないことの確認など公法上の当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)の理解も問われています。

 
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●国際関係法(公法系)

■公開:2020年09月04日/17:30

1 はじめに
 第1問は,パキスタン貸金請求事件,第2問は,ガブチコボ・ナジマロシュ計画事件とパルプ工場事件を基盤とする出題であるといえます。出題の背景に時事問題があることも多いですが,今年はいずれの問題でも,判例の知識が問われていたと考えられます。教科書レベルの基礎的な論点が多く,例年より難易度は低いものと思われます。そのため,全体として正確な解答が求められているといえるでしょう。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について
 設問第1文については,裁判権免除とは何か,絶対免除主義とは何かについて,教科書的な記述が求められます。裁判権免除とは,主権平等を根拠として,国家が自己の意に反して外国の裁判権に服さないとする制度のことです。絶対免除主義とは,国家のあらゆる行為について免除を認める立場をいいます。ただし,①被告国が自ら免除を放棄する場合や,②不動産・相続の訴訟の場合は,免除の対象外となります。日本は,1928年の中国約束手形事件以降,長い間この立場をとっていたことにも触れるべきでしょう。
 設問第2文については,パキスタン貸金請求事件の高裁判決をベースに,第1文の絶対免除主義の立場で解答すればよいものと思われます。問題文の第2段落に言及し,B国はA国の裁判権の行使にいかなる同意も示していないことも,根拠として主張すべきでしょう(ただし,設問2で否定することになります)。現実には,日本や多くの先進国では,こうした主張は今日では認められないと考えられます。

2 設問2について
 相対(制限)免除主義とは,行為を主権的行為と業務管理的行為に分けたうえで,後者の免除を認めない立場をいいます。社会主義国家ソ連の誕生や,米英の動き,日本の判例の展開などに言及しながら説明できるとよいでしょう。行為目的説と行為性質説では,後者が優勢であることにも言及する必要があります。
 Xの主張については,相対(制限)免除主義の立場から,パキスタン貸金請求事件の最高裁判決通りに記述すればよいものと思われます。裁判権免除の放棄については,国家間の関係で合意された場合だけでなく,国家と私人との書面の契約でもなされえます。免除の放棄が,元来一方的行為であることなどが根拠として考えられます。

3 設問3について
 裁判権免除に比べ,執行免除については,より広い免除が享有されます。国連国家免除条約は発効していないため,慣習国際法に基づき解答することになります。同条約第19条に規定される,非商業的目的以外の財産(商業的財産)に対する差押えの認容(執行免除の否定)が,慣習国際法を反映したものといえるかの判断は難しいですが(2012年の「国家の裁判権免除事件」では判断を回避),同第21条に規定されている通り,外交使節団の任務遂行のための財産は執行免除の対象となります。本問の財産に着目すると,名義が外交使節団であるというだけであり,任務遂行のための財産であるかは定かでありません。そのため,第19条の内容が慣習国際法となっており,さらにB国の銀行預金が使節団の任務遂行以外の目的で使用される財産であれば,同預金は差押えの対象となりうると考えられます。

 
〔第2問〕

1 設問1について
 まず,A国による甲社の発電事業計画の認可は,1975年条約に基づく環境保全義務(第4条)や,新計画実施に関する特別報告書の作成とナーガ川委員会の事前許可に関する規則(第12条)の違反であると主張すべきでしょう。そのうえで,国家責任法の観点から,これらの義務の実施(不作為の違法行為の中止)要請(国家責任条文第30条)や,原状回復としての認可の取消し(同第35条),生じた損害に対する金銭賠償(同第36条),謝罪や違法性宣言判決等の満足(同第37条)を主張することができると考えられます。
 また,国際環境法の慣習法の観点から,事前通報・協議義務の履行(ラヌー湖事件)や,環境影響評価の実施(パルプ工場事件)を主張できるでしょう。さらに,条約の重大な違反の観点から,1975年条約の終了(条約法条約第60条)や,対抗措置(国家責任条文第22,49~54条)としての電力の安定供給に関する条約の一方的終了なども主張しうると考えられます。

2 設問2について
 条約の終了は,合意によるのが原則であり(条約法条約第54条),A国の同意のない電力の安定供給に関する条約の終了は,第54条違反であると主張できます。また,重大な違反,後発的履行不能,事情の根本的変化による条約の一方的終了について規定する条約法条約第60~62条の条文に依拠しながら,いずれにも該当しないため終了できないと主張することになります。対抗措置による正当化に対しては,均衡性等の要件が満たされていないと主張することができます。対抗措置は,条約違反を正当化するものであり,条約の終了を正当化するものではないと主張することも可能かもしれません。

3 設問3について
 国際司法裁判所に強制管轄権はなく,合意による付託が原則となりますが,その合意の形態は多様です。本問では,1975年条約第19条が,紛争解決条項として国際司法裁判所への一方的付託を認めているため,同条を管轄権の根拠とできます。また,A国の同意が得られれば,付託合意(コンプロミ)や応訴管轄(フォールム・プロロガートム)を管轄権の根拠とできます。問題文より,選択条項受諾宣言は根拠とできません。
 A国としては,先決的抗弁を提起することにより,管轄権を否定しえます。1975年条約第19条は,紛争解決のための交渉を提訴の前提として求めていますが,この交渉がなかったり不十分であったとして,管轄権を否定する抗弁ができると考えられます。付託合意や応訴管轄は,A国が同意しなければ成立しません。

 
4 的中情報★★★
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●国際関係法(私法系)

■公開:2020年09月02日/14:30

1 はじめに
 今年度の問題も,第1問が国際家族法に関する問題(50点),第2問が国際財産法に関する問題(50点)でした。今年度は,国際私法・国際民事手続法・国際取引法の全ての分野から出題されたということができるでしょう。出題された論点のほとんどは,多くの教科書で取り上げられているものでした。
 
2 問題文
法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について
 まず,本問では,離婚の方法および離婚の成立要件が,離婚の準拠法を定める法の適用に関する通則法27条によることを指摘し,夫婦の同一本国法である甲国民法が準拠法になることを説明しなければなりません。
 その上で,裁判所での手続という方法で離婚ができるとしても,日本では,裁判所での離婚の方法には,調停離婚,審判離婚,判決離婚等の手続があり,どの手続によるかが問題となることを指摘しなければなりません。特に,甲国民法が問題文で挙げられているような裁判離婚主義を採用している場合,日本の家庭裁判所が調停離婚を認めることができるかについては見解が分かれていることを指摘した上で,「手続は法廷地法による」との原則に基づいて,甲国民法の規定に当てはめて,調停離婚を認めることができるかについて,私見を述べればよいでしょう。
 調停離婚は認められないと考える場合には,審判離婚,判決離婚等のどの離婚手続によるかを説明することになります。

2 設問2について

(1) 小問1
 本問の離婚,財産分与,慰謝料を求める訴えについて,日本が国際裁判管轄権を有するかは,「手続は法廷地法による」との原則から,人事訴訟法3条の2第6号,3条の4第2項,3条の3および3条の5によって判断されることを指摘し,これらの規定により,日本が国際裁判管轄権を有することを説明しなければなりません。

(2) 小問2
 まず,本問の離婚の訴えの準拠法は,法の適用に関する通則法27条によって判断されることを指摘し,夫婦の同一本国法である乙国民法が準拠法になることを説明しなければなりません。
 次に,財産分与の準拠法は,同法27条(離婚の準拠法)によると考える見解と,同法26条(夫婦財産制の準拠法)によると考える見解があることを指摘し,本問の財産分与の準拠法について,私見を述べればよいでしょう。
 さらに,慰謝料は,①離婚そのものを原因とする慰謝料と,②離婚に至るまでの個々の行為を原因とする慰謝料が分けて議論されていること,そして,①は,同法27条(離婚の準拠法)によるが,②については,(a)①と区別して,同法17条(不法行為の準拠法)等によると考える見解と,(b)①と同じく,同法27条(離婚の準拠法)によると考える見解があることを指摘しなければなりません。その上で,本問の慰謝料の準拠法について,私見を述べればよいでしょう。

 
〔第2問〕

1 設問1について
 まず,本問の訴えについて日本が国際裁判管轄権を有するかは,「手続は法廷地法による」との原則から,民事訴訟法3条の3第3号および3条の9によって判断されることを指摘し,これらの規定により,日本が国際裁判管轄権を有することを説明しなければなりません。
 特に,3条の3第3号については,「当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき」に該当すること,そして,「その財産の価額が著しく低いとき」に該当しないことを丁寧に説明する必要があるでしょう。

2 設問2について
 まず,契約の準拠法は,法の適用に関する通則法7条等によって判断されることを指摘しなければなりません。
 その上で,同法7条は,「当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」こと,そして,同法9条によって,「当事者は,法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる」(本文)ことを説明し,本問の訴訟で,XYが日本の民法の適用があることを前提にそれぞれの主張を行ったことが,準拠法の変更を意味するかについて論じればよいでしょう。

3 設問3について

(1) 小問1
 まず,本問の契約にウィーン売買条約が適用されるかを判断する場面において,本問では,同条約1条のみが問題とされていることを指摘し,同条が定める適用範囲について説明しなければなりません。そして,特に,同条(1)(b)の「国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合」に該当することについて,法の適用に関する通則法7条および8条に丁寧に当てはめて,締約国の法である日本法の適用が導かれることを説明すればよいでしょう。

(2) 小問2
 特に,ウィーン売買条約35条および45条(1)(b)に丁寧に当てはめて,損害賠償を求める請求が認められたことを説明すればよいでしょう。

 
4 的中情報★★★
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